第7話

 4月12日火曜日

昨日実力テストが行われた。

英語、数学、国語の3科目だった。

特に問題はなかった。

トップになるのは確実ね。


 私がそんなことを考えながら教室でスマホをいじっていると隣の美波さんが話しかけてくる。


「昨日のテストの結果、今日返されるわね」

「ええ、そうね。」


 視線を変えずにスマホを見ながら適当に相槌を返す。


「橘さんはテストの出来どうだった?」

「まあまあね。あなたはどうなの?」

「そうね…、特別自信があるわけではないわね」


 当たり障りのない会話だ。

この実力テストの結果で私の今後の学校生活が変わるわ。 

私が勝てば金輪際、私に関わらないようにしてもらうつもりだ。

学力で私がこの百合ヶ丘第三高校の生徒に負けるはずがない。

私の勝利が約束された勝負だ。

ここら辺に住んでいた人なら私がいた黒白院女子高等学校附属中学がレベルの高い学校だというのは知っている情報だが美波さんは県外にいたからどうやらそのことを知らなかったようだ。


 正直、軽い挑発のつもりで勝負をもちかけたけどまさか本当に乗ってくれるとは思ってなかったわ。

先日の体育の借りはここで返させてもらうわ。


 ホームルームが始まり、先生が教室に入ってくる。

そして先日の実力テストの結果を渡していった。


「美波さん。私とした約束覚えているかしら?」

「ええ。勝った方が負けた方に一つ言うことを聞いてもらう件ね。」

「もし美波さんが勝てたら私に何を命令するつもりなの?」


 そんなこと万に一つあり得ない話だが私はあえて聞いてみた。


「そうね…まだ決めてないわね」

「…そう」


 まずはじめに返却されたのは国語だった。

私は点数を確認する。

99点だった。一つだけ論述問題で減点をされていた。


「美波さんは何点だったの?」


 この科目一つで勝とうが負けようがあまり意味はない。あまりにも大差をつけたりつけられていたら話は別だがこのレベルのテストならそれはないだろう。

しかしこれは勝ちを確定したので優越感のために聞いてみた。


「私は98点だったわ」

「そう」

「橘さんはどうだったの?」


 私は自分の点数を見せる。


「あら、国語は負けてしまったわね」


 美波さんはいつものように表情を変えずにそう言った。

気に入らない。

その眉一つ変えない余裕の笑みを崩させてやるわ。


 次に返却されたのは数学だった。

私の点数は99点だった。

悪くないわね。正直数学は満点取れていたと思ったけどこれぐらいなら問題ないわ。


 美波さんは私に数学の解答用紙を見せてくれた。


「99点…」


 どうやら数学は同点だったようだ。


 …この私にここまでついてくるなんて

信じられない…。

けど次の英語で全てが決まるわ。


「美波さん。ラストの英語は2人で同時に確認しない?」


 国語、数学の2科目合計では私が優勢だった。主要科目に私の穴なんてない。

勝つのは自分だというのになんの疑いもないが1科目ぐらいこういうのもありだ。


「いいわね。分かったわ。2人で確認しましょう」

「美波さん、さっきからまったく表情を変えないわね。もしかして内心ではもう諦めているの?」


 私は少し挑発めいた事を言う。


「あきらめる?…それはないわね」

「よほど英語に自信があるのかしら?」

「いえ、別にそう言うわけでないわ」


 こいつ、じゃあなんでまだそんな余裕めいた表情をしてられるのよ。

やっぱりよくわからないやつね。


「けど…勝負は最後まで分からないわ。私は途中で勝負を諦めるつもりはないわ。」


 その瞬間、少しだけ美波さんの雰囲気が違うように感じた。


 お互いに英語のテストが返される。

私たちは同時に点数を確認した。


 私が98点だった。

そして美波さんの点数を確認する。




 100点だった。


 えっ…!?うそ…


 私は一瞬思考が止まってしまった。

勝負は3科目合わせた総合点だ。

この瞬間、勝敗が決まった。


 橘季月  296点

 美波恭華 297点


 最後の英語の結果によって美波さんがこの勝負に勝った。

出し惜しみなどしていない。

私は本気でこのテストに臨んだ。

しかし結果は1点差だが私が負けてしまった。

昔からずっと1位だった。負けたことなど一度もなかった。

それはあの黒白院でも同じだった。



「くっ…、結果は受け入れるわ。私の負けよ。いいわよ。一つあなたの言うこと聞いてあげるわよ!」

「橘さん、別に私そんなつもりはないわよ。」


 その言葉を聞いて、私は少しアツくなってしまう。


「ハァ!?何よそれ!いいから!約束は約束よ!」

「そんなこと言われても…私元々勝ったとしてもそんなつもりなかったのよ」


 私の圧に押されたのか美波さんは困った様子でそう言った。


 ここでコイツに変な借りなんて作りたくないし提案した私が負けて罰を受けないなんてそんなのプライドが許さなかった。


「何か一つぐらいあるでしょ!」

「そうね…とりあえず放課後まで待ってもらってもいいかしら?」

「仕方ないわね…ちゃんと放課後にはどうするか決めなさいよ!」


 こうしてテスト勝負は美波さんの勝利で幕を閉じた。

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