第6話

 試合は拮抗していた。

スコアは0ー0である。

私のいるBチームはサッカー経験者が前線で積極的に攻めているが相手であるAチームにはセンターバックとゴールキーパーがサッカー経験者のようだ。

こちらも何度かいい攻めをしたがことごとく得点には結びつかなかった。


 校庭にある時計を確認する。


「あと5分ってところね」


 もうそんなに時間はなかった。

勝っても負けても私からしたらどうでいい。

けどさっきから前線のプレー見ていて少しもどかしさを感じてしまう。


「仕方ないわね」


 味方のボランチが相手選手からボールを奪う。

ボランチは味方の誰かにパスを送るため周りを見る。


「こっちにわたして!」


 右サイドを駆け上がりオーバーラップをかける。ボランチは私にパスを回した。

私はそのままドリブルで前線へ攻め込む。


 相手が攻めている時にボランチが奪いそのまま私が快速でボールを運んだのでいい形でカウンターを取ることができた。


 私は右足でエリア内にいるであろうFWにグラウンダーのクロスをあげた。

完璧なドリブルからの完璧なクロスだった。


 しかし私のあげたボールを味方は誰一人触れることができずボールはそのまま地をはって外に出てしまった。



 は!?ウソでしょ!?

なんでアレに反応できないのよ!?


 私は唖然としてしまう。

味方のFW2人は動きからしてサッカー経験者だった。

2人のレベルが私に合っていなかった。

それ以外の理由などない。


「ごめん!追いつかなかった!次は絶対決めるから」

「私もごめん!てかあんなプレーできるならはじめからしてよ!」


 FWの2人はそう言って私に話しかけてきた。


 私のいた黒白院女子高等学校附属中学はスポーツ全般の部活が強かった。

無論サッカーも強豪だった。

部員はみんな私のプレーに合わせることができた。

FW2人の実力はちゃんと把握していてはいなかったがサッカー経験者ならせめてこれぐらいは合わせられるように手加減をしたつもりだったがダメだった。

自分の当たり前の基準に彼女たちが達していなかったということだ。


「次もなにもないわね。」


 私は自分で勝つことを諦め、大人しく定位置に戻った。

時間的にあとワンプレーといったところだった。


 相手チームのスローイングから始まり、パスを回され左サイドにいる美波さんに渡った。

すると美波さんはいきなりマックススピードのドリブルでサイドを上がっていく。


 ウソ!?

速すぎでしょ!

味方のサイドハーフはそのまま抜け切られてしまう。

美波さんはそのままゴールに向かって中央にカットインをしようとする。

私はすかさず美波さんの前に立ち塞がる。


 美波さんは右側に抜けようとするが私がそれをさせない。

次に左側へと抜けようとするがそれも私が通路を塞ぐ。

左右への動きを予知し私は絶対に抜けさせない。

美波さんは一度間をおいた。


「やるわね。橘さん」


 少し好戦的な様子で美波さんは私にそう言った。


「これぐらい普通よ」


 私がそう言い返すと彼女は余裕めいた笑みを浮かべる。


 気に入らないわね。

私があなたのその自信をへし折ってあげるわ。


 美波さんはほんの少し状態を上げ、トップスピードに入るための助走をつける。

私もそれを防ぐために多少状態を下げる。

しかしそれが美波さんの罠だった。

そのままドリブルすると思ったらボールは私の頭上に浮かんでいた。


 はっ!?

ウソでしょ!?


「ヒールリフト!?」


 それは私の虚をついたものだった。

美波さんは素早く私を抜いてボールが一度地面にバウンドした瞬間、右足を力強く振り抜いた。

ボールはそのままゴールに吸い込まれる。

キーパーは触れることなくボールはネットを揺らした。

その瞬間、先生が笛を鳴らした。


「試合終了だ!勝ったのはAチームだ。美波さんナイスゴールだ」


 体育の先生がそう言ってAチームの人たちは美波さんに駆け寄る。


「ナイスゴールよ!美波さん!」

「凄すぎだよ!あんなプレー!私感動したよ!」


 Aチームのみんな今の美波さんのプレーに魅了されたようだ。


 私は黙ってその様子をただ眺める。

すると後ろからBチームの人が話しかけてきた。


「すごかったわね。美波さんのプレー。」

「……ええ」

「けど橘さんのプレーもすごかったわよ。ディフェンスでも美波さんを途中まで——」

「下手な気遣いはけっこうよ」


 私はその人の言葉を遮る。


「なにそれ!?」


 私の態度に少し気分を害した感じだった。

面倒なので私はそのままその人から立ち去った。


 体育が終わり制服に着替えて教室に行く途中美波さんが私の元に走ってきた。


「橘さん。一緒に教室まで行きましょう」


 先程あんなプレーをして皆から注目されて囲まれていたのにわざわざそれを振り切って私のところに来たようだ。


「あんた、中学の時サッカー部だったの?」


 私はさっきのことが悔しかったのか少し口調を強めて話す。


「いいえ。私サッカー部に入ってないわよ」

「え?…じゃあ、あなたサッカー未経験でいきなりあそこまでできたの!?」

「あ!でも小さい頃に友達と一緒に遊んだりしてたし、中学でも試合の助っ人として呼ばれたことがあるから未経験ではないわよ」


 美波さんはいつも通りの笑顔をしながら話す。


 そんなの小中学校をクラブ、部活でやってきた私からしたら未経験みたいなものよ!!


 美波恭華。こいつやっぱりムカつく!


 私は人差し指を美波さんに向けてこう言った。


「体育ではあんたに負けたけど来週の実力テストではこうはいかないから!」

「ええ!楽しみにしてるわ」


 私が敵意を向けてるというのに彼女は意にも返さずいつも通りの笑顔でそう言った。


 見てなさいよ!

美波恭華!実力テストではあなたのその余裕めいた笑みを崩してみせるんだから!


 私は静かに闘志を燃やすのであった。

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