第5話
4時間目は体育の時間だった。
私は更衣室で体操服に着替えて、校庭に出る。
高校に入って初めての体育である。
身体を動かすのは昔から嫌いではない。
私の家の家訓は文武両道だった。
勉強ができるのは当たり前のことでさらに運動も高いレベルを要求された。
小学校低学年の頃には合気道と空手を習わされた。
まぁ、あいにくこの2つはすぐに上達してしまったので飽きてしまった。
私がそんなことを考えていると、体育の先生が校庭に来た。
「体育を担当する下沢だ。よろしく頼む。」
体育の先生だけあって引き締まった体型をしている。
「4月のこの時期はまず体力測定をしないといけないが君たち新入生はまだ入って間もないはずだ。よって今回はクラスメイトの親交を深めるためのレクリエーションの時間にする」
先生は粋な計らいををしたつもりなのかもしれないが私からしたらありがた迷惑だった。
親交なんて深める必要がない。
適当にこなせる体力測定の方がありがたかった。
「そうだな。このクラスの女子は全員で22人か。よし。なら半分にしてサッカーをやってもらうとする。」
私はそれを聞いて少し気持ちが高揚してしまう。
サッカーは小学校低学年の頃から中学3年の部活引退までしていたからだ。
個人がどんなに卓越していてもチームスポーツであるサッカーは1人で勝つことはできない。そこに魅力を感じたからだ。
それともう一つは小さい頃、偶然見たサッカーの試合で活躍していた右サイドバックの選手に憧れてしまったからだ。
子供なんて単純だ。憧れた人に少しでも似せたり近づきたくなるものだ。
まぁ、今となっては純粋すぎて少し恥ずかしいけど…。
私たちはAチームとBチームとで半分に分かれてチームを結成する。
私はBチームになった。Bチームには青色のゼッケンが渡された。対するAチームには赤色のゼッケンが渡されていた。
私は渡された青色のゼッケンを着る。
すると美波さんが私に話しかけてきた。
「残念ね。橘さんと違うチームになってしまったわね。」
赤色のゼッケンを着ている美波さんは落胆している様子でそう言った。
「私は美波さんと違うチームで嬉しいけど」
「橘さん。冗談でもそういうこと言われると傷つくわよ!」
「冗談じゃないわよ。本心よ」
私たちが軽く話しているとAチームの人が陣形を決めるために美波さんを呼んだ。
彼女は「じゃあ」とだけ行ってAチームの方に行った。
私も特に口出しするわけではないがBチームの方に行って作戦を聞くことにした。
サッカー経験者らしき3人組が一丁前な様子でみんなに指示を出していた。
「私たちが2トップとトップ下に入るからあとはみんな空いたポジションに入ってよね」
彼女たちはそう言った。
フォーメーションは4-4-2のダイヤモンド型だった。
運動部出身の人が左右のサイドハーフに入り、ボランチも決まった。
しかし誰もゴールキーパーをやりたがらなかった。
私を含めて余った5人でじゃんけんをして決めることになった。
運良く私が一人勝ちをしていち早くポジションを決めれる権利をもらった。
だけど選べるのはセンターバックとサイドバックとゴールキーパーだけだ。
正直体育レベルならポジションなんてどこでも良かった。
面倒だし誰もやりたがらないなら私がゴールキーパーをしてもいいかなと思った。
しかしふと私はAチームの方を見た。
するとAチームは既にフォーメーションを決めて各自ポジションの位置に立っていた。
美波さんは左サイドハーフのポジションだった。
それを見て私の考えは変わった。
「右サイドバックに入るわ」
私はそう言って右サイドに向かう。
これでもし美波さんにボールが回って来てドリブルを仕掛けてきたら1対1になるわ。
軽い憂さ晴らしのつもりだけど実力テストの前に私と美波さんの格の違いを誇示してあげるわ。
そして先生が笛を吹き、30分間の試合が始まった。
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