第4話

 委員会決めが終わったあと次は健康診断だ。

学校でする程度の軽い検査をする。

とりわけ意識することなどない。

まぁ私たちぐらいの年代で気にするのは体型の変化つまりスタイルのことだ。

私は身長計で自身の身長を計る。

164センチだった。

去年と比べてさほど伸びてない。

女性の成長期はおおよそ中学のうちに終わると言われている。

多分私もこれ以上は伸びないわね。


 別に悲観などしない。

私の身長は女子の中ではわりかし高い方に位置する。

日常生活でも不便はないしこれぐらいがちょうどいいわね。

私がそう考えていると隣にいた美波さんが話しかけてきた。


「橘さんは身長何センチだった?」


 そう言って私の健康診断書をのぞいてくる。


「ちょっと!勝手に見ないでよ!」

「あら、ごめんなさい。橘さんすごくスタイルいいから気になってしまったのよ」


 美波さんはそう言っていつもと変わらずと言った様子だった。


「それ美波さんが言っても嫌味にしか聞こえないわよ」


 はっきり言って美波さんのスタイルは全女子の憧れと言っても差し支えないほど完成されている。


「私の診断書見たんだからあんたのも見せなさいよ」


 私が少し意地悪めいた感じで言う。

そんなことも意に返さず美波さんは私に診断書を見せる。

少しぐらいは恥ずかしがったり、躊躇ったりしなさいよ!


 私は美波さんの身長を確かめる。

170センチだった。

会った時から思っていたけど美波さんは高身長だ。

おまけに体重もモデル体型に近い数値だった。

なんなの?食事制限でもしてるの?


「はい」

 私はそう言って美波さんに診断書を返す。


 さっき自分の身長に不満は無いって言ったけど訂正する。

この女に上から見下ろされるのは気に入らないわ。

私も171センチぐらいには伸びてほしいわ。


「少し牛乳の量増やそうかな」


 誰にも聞こえない程度の小さい声で1人そう呟くのであった。



〜〜〜〜


 4月8日金曜日


 健康診断や委員会決め、教科書購入などを終えて今日から授業が始まる。

やっとこれで普通の日常が始まる。

私は昨日配布された時間割表を確認する。

今日は体育があるわね。

私はちゃんと体操服があるかチェックする。

教科書を鞄に入れて、制服に着替え、私は部屋を出る。


 アパートを出たところで美波さんが待っていた。

彼女がなんでそこで待っているのかは一目瞭然だった。

間違いなく私を待ち伏せしていたはずだ。


 朝から面倒な目にあいたくないので私は素通りしようとしたがそうはならなかった。


「おはよう!橘さん!」


 そう言って私の前に立ってきた。


「朝から何よ。なんでわざわざここで待っていたの?」


 分かっていたがあえて理由を聞く。


「橘さんと一緒に学校に行きたくて少し早く家から出ていたの」

「私なんか待たずに先に行けばよかったでしょ」

「そんなこと言わないで一緒に学校に行きましょ!」


 美波さんはそう言って明るく話す。


 この女よく朝からこんな元気にいられるわね。

断ったところで目的地は同じなので仕方がない。

私は美波さんと並んで学校に向かう。


「今日から授業が始まるわね」

「そうね」

「高校の勉強は中学より難しくになるみたいだからちゃんとついていけるか不安よ」

「…首席合格者様にもそんな人並みの悩みなんてあるのね」


 私はわざと嫌味な口調で話す。

美波さんはどういうつもりか知らないけど入学式から何かと絡んでくる。

挙げ句の果てにアパートの部屋が隣なんてさすがに笑えない。


「今日が終わって土日挟んで月曜日になったら実力テストがあるわね」

「そういえば入学式の時にもらった予定表にそんなこと書いてあったわね」


 高校受験が終わって気持ちが緩んでいるのを正すためか知らないけどこの百合ヶ丘第三高校は入学して間もなく校内の実力テストが実施される。

まぁ、中学までの勉強が理解できていたら問題はない。

中学3年間の勉強がこれから始まる高校の勉強の基礎となる。

それに百合ヶ丘の受験に合格した人たちの学力に大きな差なんてない。

ただ…百合ヶ丘よりもハイレベルな高校に合格できる学力があるのにあえてこの高校に入った生徒なら別である。


 美波さんが実力テストの話題を上げたことで私は1つ良い案を思いついた。


「美波さん。私と軽い賭けでもしない?」


 私はそう言って美波に問いかける。


「何かしら?」


 私の急な提案に美波さんは少し驚いていた。

基本的に私は美波さんの会話に相槌を打っているだけだからだ。

もしかしたら私から話題を上げるのは初めてかもしれない。


「月曜日に行なわれる実力テストの総合点で私と勝負しない?」

「随分と急な提案ね。それでいったい何を賭けるのかしら?」

「そんなたいそうな話ではないわ。簡単よ。勝った方が負けた方に1つ自分の好きな言うことをきかせるものよ。」


 この勝負で私が勝てば美波さんに金輪際、気軽に話しかけたり関わったりしてこないようにするつもりだ。

そうすれば1人きりの高校生活を満喫することができる。


 私は全ての人間関係をリセットするためにこの百合ヶ丘第三高校に来た。

うわべだけの浅い関係なんて無い方がいい。

なんのために中高一貫校だった黒白院から出たと思っているのよ。

それに…美波さんもみんなと一緒。

私の秘密を知ったら私から離れるに決まってる。


 それだったら自分の手で美波さんから離れてみせる。


 お互いに学校に向かって歩いている中、美波さんが歩くのを止める。


「へぇ、いいわね。それ」


 いきなり立ち止まったので私は後ろを向いて美波さんの顔を確認する。

少し下の方を向いていたので前髪が垂れて美波さんの目を確認できなかった。

しかし口元だけは確認できた。

それは一瞬のことだった。

いつもはお淑やかで穏やかな印象な彼女だったが口角をあげ、まるで不敵な笑みを浮かべているように見えた。


「美波さん…?」


 私がそういうと彼女は顔をあげ、いつものような優しい穏やかな顔をする。  


「分かったわ。橘さん!その勝負受けるわ!」

「決まりね。」


 その後はまた美波さんがたわいもない話題をあげて私が相槌を打つだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る