第3話

 アラームの音により、眠りから目覚める。

目覚まし時計を止めて私はベットから起き上がった。軽く身体を伸ばし、カーテンを開き日光を浴びる。

 時刻は朝の6時。

私は基本的にいつもこの時間に起きる。

朝はなるべく時間にゆとりを持ちたいからだ。


 部屋から出て、キッチンへ向かう。

冷蔵庫から卵を取り出して、目玉焼きを作る。そして昨日のうちに作っておいたポテトサラダと軽く切った程度の野菜サラダをお皿に移す。食パンもトースターでいい具合に焼けたのでお皿に移す。

私はそれらを机に置いて並べた。

椅子に座り、片手にタブレットを持ちながら朝食をとり始める。

 先日、購入した電子書籍を読みながら私はトーストを口に運ぶ。


 見ての通り、私は今一人暮らしを満喫してる。

実家にいた時にこんな食事の取り方をしてたら一大事件になっていただろう。

テーブルマナーや所作、何から何までうるさい家だったからだ。

だから中学を卒業してから一人暮らしを始めて私は初めて自由を満喫している。


「このままずっとあの家とは距離を置きたいものね。」


 朝食を食べ終えて、1人そう呟く。

お皿を洗って、制服に着替え始める。


 確か今日は委員会決めと健康診断に教科書購入あと部活紹介だったわね。


「めんどくさい」


 教科書なんて学校で販売しないで各自で揃えればいいだけだし健康診断なんてこの歳でどこかに異常があるわけない。

それに部活なんて興味ないから入るつもりないし。

委員会もどうでもいい。

まぁ、適当に流すだけね。


 私は身支度を整えて鞄を持ち、ドアを開ける。

外に出て、鍵を閉めて学校に向かおうとすると角部屋である左隣の部屋のドアが開いた。


 そういえば、私がこのアパートに住み始めた時はまだあの部屋誰もいなかったわね。

私は中学の卒業式のあとすぐにこのアパートで生活を始めた。

春休み期間に一人暮らしに慣れたかったからだ。


 そういえば3.4日前ぐらいに誰が入居されたって聞いたけど特に接点を持つ機会なんてないし問題ないわね。

田舎だとご近所付き合いが必要だと聞いたことがあるけどここではその心配はないわ。

隣人がどんな人か少し気になって顔だけ見たらすぐに学校に向かうつもりだった。


 この時間に出るってことはおそらく社会人だろうと予想する。

しかし私の予想は大きく外れてしまう。

それどころかもっとも最悪な人物だった。

ドアから出てきた隣人と目が合う。


「ウソ!?橘さん」

「ハァ!?」


 予想だにしない出来事に思わず声をあげて驚いてしまった。


「おはよう。こんな偶然あるのね」

「ちょっと待って!?ウソでしょ!何であんたがいるのよ!」


 隣人は何と先日学校で隣の席になってしつこく話しかけてきた美波恭華だった。


「なんでって言われても私春からここに住んでいるもの」

「だからって学校の席も隣で何でアパートの部屋まで隣なのよ!」

「橘さんとは不思議な縁があるみたいね」


 どういうことよ。

よりにもよって一番めんどくさい人が隣人だなんて。


 私は深くため息を吐く。

しかし私の様子などつゆ知らずに美波さんはこう提案してくる。


「せっかくだし一緒に学校に行きましょう」

「…分かったわよ。仕方ないわね」


 本当なら断りたいところだけど目的地が同じなら断るすべがない。

明日からは絶対にこいつと被らない時間帯に家を出よう。

私はそう心に決めるのであった。



〜〜〜〜


 不本意ながらも美波さんと一緒に登校して教室に入ってからは私は席についてスマホをいじっていた。

対する美波さんはクラスの数人の女子たちと楽しそうに話していた。

スマホのネットニュースを適当に見ているとある記事が目に入った。


 《モール事件から2年が経過、未だ犯人見つからず》


 この犯人まだ逮捕されてないのね。

当時大きな話題を集めたこの事件は深く印象に残っていた。

連日、ニュースで取り沙汰されていて犯人についてさまざまな憶測が生まれた。

取るに足らない陰謀論やマスコミの態度など不可解なことが多い。

この手の専門家や物好きなフリーライターは今でもこの事件について興味を絶やさない。

何が面白いのか知らないけど私からしたら所詮は他人事だった。

まぁ、このモールの開発に出資したスポンサーからしたらたまったものではなかったはずね。

そんなことを考えていると担任の先生が教室に入ってきた。


「みんなー席に座れー」


 クラスの人たちは皆各々自分の席に座る。


「よし。今日はこの後健康診断などがあるから速やかに決めよう。」


 先生はいきなりそう言って黒板に何か書き始めた。

それは委員会のことだった。


 きたわね。めんどくさい時間が

私は基本的に面倒なことはしたくない。

よって先生に刺されないように適当なところに視線を送っていた。

しかしクラスの人も考えることは一緒で誰も委員会に名乗り出ない。


 当たり前のことだ。

黒板を見る限り、クラス委員長と放課後当番がある図書委員会だけ何があっても避けたかった。


 どうしようかしら。

この際、何のために存在してるのか分からない楽な委員会に入って面倒な委員会を避けるのもありね。

保健委員はありね。

募集人数が2人だし、誰か体調不良が出てももう1人の方に保健室に連れてって貰えばいいだけだし。


 私が保健委員に立候補しようとすると先に先生が話し始める。


「誰も立候補しないな。まったく。だったら先生が指名していくぞ」


 ちょっと待ちなさいよ!

私は保健委員に立候補しようとしたわよ

まぁいいわ。保健委員が言われた時に挙手して立候補すればいいだけね。


「まずはクラス委員長だ。これは…そうだな。美波さんどうだ?」


 先生はそう言って美波さんを指定する。


「私ですか?」

「ああ、今年の首席合格だし、人柄的にも信用できる」

「分かりました。私でよければクラス委員長やらせてもらいます。」


 そう言って美波さんは先生からの指名を受けてクラス委員長になった。


 よかった〜。もし私が真面目に試験を受けていたら間違いなく首席でクラス委員長に指名されていたのよね。

次席合格だと知った時は気に入らなかったけど面倒ごとから逃れられたのなら全然いいわ。


 けど悪いわね。美波さん。

次の試験ではとりあえず本気でやらせてもらうから1位はこの私よ。

まぐれは2度も無いから。

あなたはまぐれで1位になって面倒なクラス委員長を任された。

少しだけ同情したあげるわ。


 私がそんなことを考えていると美波さんが先生に問いかける。


「あの先生、クラス委員長は引き受けますが1つ私からも提案があります。」

「なんだ?」

「正直、まだこの学校にも慣れてなくて私1人でクラスをまとめるのは困難なので信頼できる人をクラス副委員長として用意してもいいですか?」

「構わないがそんな人一体誰なんだ?」

「はい。それは…」


 美波さんはそう言って私の方をチラリと見る。


「橘季月さんです!」


 ん?

一瞬、耳を疑った。


「は!?ちょっと…」


 私が異議を申し立てようとすると先生がすかさず話し始める。


「おー!橘さんか。問題ないぞ。首席の美波さんに次席の橘さんなら先生も安心して任せられる。橘さん、美波さんのサポートよろしく頼むぞ!」


 ちょっと待って!

何勝手に話進めてんのよ!


「いや、待ってくだ——」

「よし!どんどん決めてくぞ!」


 先生はそう言って残りの委員会を指名していく。

この先生、まったく人の話聞かないわね

ウソでしょ。

なんで私がクラス副委員長でよりにもよって美波さんのサポートをしないといけないのよ

すると美波さんがこっそり私に話しかける。


「やったわね。クラス委員一緒に頑張りましょうね」


 お淑やかな笑みを浮かべて彼女はそう言った。


 この女ぁ

どこまで私を不快にさせたら気がすむのよ!


 こうして無事(?)に委員会は決まった。

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