第2話 異世界は危険

さて…

軽く手足を動かした感じ、特に動かしにくいなども感じない、地球に居た頃と同じように動ける

裸でほっぽりだされるとかも無く服も着ている、服は自分の生前のものでは無いから多分この世界に合ったやつなんだろうな

ここは森か林かはわからないが木々の中、見つかりにくいだろう、能力の確認といこう


"The Slash"


そうパスパルトゥーが唱えると、空だったパスパルトゥーの手の内に刃渡り40cmほどの剣が生まれ、カランという音と共に落ちる

なるほど?


今度は軽く手を握る形にした状態で唱える

するとその握った手の内に剣が現れる


剣を手の内に生成する能力ってとこかな、次は


剣を握り振り返りながら後ろの木に打ち付ける

「ぐっ…」

強度の問題はとりあえず無さそうだ

力任せに打ち付けても剣は壊れはしなかった、歯こぼれこそしたが次を生成できる以上そこに問題は無いだろう

問題は木の方だ、凹みが明らかに小さい、剣が弱いのか木が硬いのか…


もう少し試そう…

パスパルトゥーは剣を生成しては数本の木を今度は切りつける、その中でさっき生成されなかった左手を意識して唱えたら左手の中に生成されたことを確認する

そして木はどれも硬く、打ち付けた木がたまたま硬かったとかでは無さそうだった


この木削って木刀でも作ってしまおうかそっちの方が強い鈍器になりそうだ…

そんなことを考えながら脚を動かし始めると、離れた放り捨てた剣が消失したことに気づく


「…なるほど、距離制限か?」

色々わかったのはいいがとりあえずまずなにかしら現地人に会わなければならない、このままだと飢え死にで勇者の物語が終わることになりかねない

「…ん?」


脚を、止める

一応は音を立てないようにと歩いていたが…

ガサゴソという草葉を揺らす音が近づいてくるのがわかる、さてどうするか、俺を狙ってきてるのは…それ以外の音がほぼ何一つしない辺りから考えてまあ正しいだろう、となれば…

せめて広い場所まで逃げよう


息を入れ勢いよく走り始める

どこに開けた場所があるかなどわからないが、とにかく一方向に進み続ける

方角もなにもわからないから風が吹いてくる方向へ進むことにしたパスパルトゥーは屈み跳びながら走り進む

しかし、後ろを追う野生の足音の距離は僅かずつだが確実に詰めてきている


「…っよし!」

草原を見つける

とても広いとは言えないが、木々の密度に溢れた中よりかは人にとって動きやすい

「おそらく異世界最初の敵だ…なにがくる?」

メジャーなものだとスライムとかか?それともゴブリン?


キュィィィィィィ!!!!!

金切り声にも似た声が響き、森が揺れた


木々の間を縫い、目の前に現れたのは、四つ足をついた状態でも高さが2mはありそうな体躯を持ったネズミであった


「…マジかよ」


木々を折るような音がしなかったため小さいものを想像していたが、いやなんでこの大きさで枝を折らず走れるんだ?異世界七不思議?いや普通に向こうはしっかりと土地勘があるから複数ある獣道を跳びながら向かってきたってところか…


いやそんなことを考えてる余裕は無い、今ここから逃げてもスピード足りないから追い付かれるだけな以上戦うしかない

しかし自分の能力は剣を生み出すだけ


余裕は無いが一言だけ言わせて欲しい


「異世界…これが標準ならキツくね?」


キュィィィィィィ!!


ネズミの突撃を左に全力の横跳びで避けながら

"The Slash"

右手に生成した剣をネズミの勢いも利用し側面に斬り刺す

が、皮は硬く、肉は分厚く、剣の刃はそれほど深く沈まない

ネズミは機敏に振り返りながら腕を振るう、見ればその爪は鋭利である

パスパルトゥーは無理矢理体を地面に重ね

"The Slash"

今度は肉球という柔らかいと予想した部位に剣を両腕で突き立てる


ギギュァァィィィ!


「効果ありってところか?」

剣を刺し捨てながら転がり後ろに跳ね距離を取る

しかしまあ…この能力で戦えと神様は俺に言ってきた、つまりこの状況はどっちかなわけだ

1.戦う相手のレベルを間違えている

2.なにか戦闘という事象においての重大な見落としをしている

「1だったら…ゲームオーバーかな…」

1はもうどうしようもないため2の場合を考える

何が足りていないだろうか?


しかし獣はそれを待ってはくれず、痛みを終えたその牙がパスパルトゥーへと再び向き直った


「考えてる余裕はないな…"The Slash"

両手に剣を生成し、投げる用意を終わらす

そして今一度相手を見る


薄灰色の分厚く固い毛皮、盛り上がるほどの筋肉質な四肢、僅かに開く口の中にはげっ歯類の特徴である門歯が見える

しかし大きい耳は先まで側頭部にくっつき動かず、細い尻尾はとてもとても短い、なによりも鋭い爪が長く発達しているのが特徴と言えるだろうか


ネズミ…もといげっ歯類に近い構成ではあろうが確実に種類としては有名なクマネズミやドブネズミとは大きく違うのだろうな…ん?


脚部の筋肉が…増えている…?

いや、違う、あれはだけだ

そう、言うなれば初めてそのゲームに触る友人との対戦において軽くやっていたらロマンコンボを決められてストックを落とした時のような、落とした箸を拾おうと座りながら手を伸ばしたら手に当たってより遠くに行ってしまった時のような

激昂ではないが苛立ちを抱え腰を上げる、手加減を止める、そういうやつだ


ネズミがそのまま体を大きくなったらの単純計算だけでも、一般的なネズミの中でも大きいとされるドブネズミで高さはおよそ15cm程度、2mといったら10倍以上だ

「ッ!」

ネズミはもうすでに脚に力を入れ、今にも跳んでくる

跳びに合わせて投げようとしていた剣だがそんなこと考えてられないので早急に投げるだけして左に転がり跳ぶ

だがそんなこと関係が無かった、気づくのが遅かったわけでも、行動が遅かったわけでもない

ネズミが惰性を捨てた時点で今のパスパルトゥーには完全な回避の可能性などなかった


腹部に少しの感覚

『ドボッ』という轟音

そして、単純に抉られたという違和感と不快感、追って圧倒的なまでの激痛が


「オ"ッグ…ァ…げごばっ」

痛みに喉が鳴ったのは一瞬で、血の塊を吐き出す

血泡…それ抜きにしても呼吸ができない


そして今からが本番であり…しかし哀れパスパルトゥーはあまりの痛みに気絶してしまった

一方ネズミは、額に抉り刺さった刃を乱暴に抜き、倒れたパスパルトゥーを向く

パスパルトゥーの物語は終わりを迎え、なかった




「あららららら…憩いの場だったんだけどな~…獣はいいとして迷い人なんてびっくり、んーどうしようかな~。よし、助けちゃお」


人が、顔を出す

「『獣除け』っと、あ、足りない?」

嫌そうな顔をすれどネズミは未だ構え

「"ガザルート ヘフス ロア"」

ネズミはそのを受けた途端にオヤツを蹴り飛ばし去ってゆく


「そしてこっちは?どんな感じ?」

人がパスパルトゥーに手を伸ばす

「これは…っはは…あーーーwおもしろ~w」

ただでさえ致死であるはずのパスパルトゥーをおもしろそうに突っつき、俵のように…だいぶ纏めて担ぎ上げる、流血は気づけば止まっている

「まさかまさかだね~いや死なないでくれてよかったよ~聞こえてる?ないよねー。まっいいや、持ち帰るね~」

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