第39話 模擬戦トーナメント

――SIDE.明都院 割美




 学年別模擬戦トーナメント、当日。1年生の参加者は計128人。1年生全体から見ると約半数だが、A・B・Fクラスは少なくC・D・Eクラスの割合がやや多い。

 と言うのも……貴族階級は魔法の才能を持つ者が多く、後衛ジョブが多いからだ。さらに言うと、Aクラスに在籍している貴族の多くは穏健派かつ「冒険者同士で戦ってもなあ」と対人戦の興味が薄いようだ。


 だからこそ、【聖女候補】の神々々様や【魔導士連合】幹部の煉国谷様などがトーナメントに参加していると判明した時は……それはもう大きな話題となった。どうやら周りには知らせずこっそりと参加申請していたらしい。

 ちなみにメディア陣の取材や模擬戦の撮影は許可されていないが、ギルド上層部や大手クランの人事部が視察に来るらしい。さてさてどうなる事やら……。


 話をトーナメントに戻そう。参加者はまずA~Hブロックに割り振られ、それぞれ訓練スペースも兼ねている第1~4闘技場にてブロック代表を選出。その後決勝トーナメントが行われる。

 私はBブロックで、ややD・Eクラスが多い。レベルやステータスこそAクラスと同程度あるが……今まで魔物しか相手にしていなかったので、対人戦特有の駆け引きや何やらには正直自信が無い。

 神々々様はAブロック、煉国谷様はCブロック……ホヨヨちゃんはHブロックかぁ。


 この組み合わせ…どことなく悪意を感じる。神々々様がホヨヨちゃんと戦うにはお互いに最後まで勝ち残らなければいけない。しかし私だって負けていられない。目指すはブロック代表……とっておきの『対神々々様戦術』を是非お披露目したいものだ。


 一方Fクラスは……定村君に鈴瀬君、原戸さんや朝田さんを始めとする前衛が得意でレベルの高いメンバーが勢揃いだ。しかしほぼ全員が初戦でA~Cクラスと戦う事になっているので……残念だが勝つのは難しいだろう。ホヨヨちゃんも例に漏れず初戦がBクラスだ。……でもまあ、いつも通り戦えればいけると思う。皆頑張れ。


 校長の話もそこそこに、開会式が終わる。……さあ、の時だ。


――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――


 ――― 円形の闘技場、ステージ内部と観客席の間に魔道具によるドーム状の障壁が二重に張られ、模擬戦の準備が整った。武器や魔法などが周囲に飛んでいくのを防ぎ、内部にいる人間にはダメージをバリアに吸収させる効果がある。

 ダンジョン内でも使えればよいのだが……ACCとの相性が悪く持ち込んで使用できないらしい。残念な事だ。なお、バリアの耐久値は自身の最大HPと同値に設定されている。余剰ダメージはバリア解除と同時に無効化されるので安心して全力をぶち込めるぞ。


 さて、Bブロック1回戦。私の相手は……おや?


▽条坂

「あっ!?

 て、テメェ………Fクラスのデカ女じゃねえか!

 そのガチ装備は何なんだよ…!」

▽ワルミ

「あら? あなたはEクラスの………どなたでしたっけ?」

▽条坂

「条坂だよ、条坂!!

 貴族だか何だか知らねェが………

 ちょっと良い装備持ってるからって調子に乗んじゃねェぞ!!」

▽ワルミ

「はあ………」


 やや紫がかった光を反射する黒い金属、【犬魔鉄】の重層鎧で全身を覆ったデカい戦士……今の私の姿である。条坂は言葉こそ強気だが、だいぶ腰が引けている。しかし私も負けていられないのでね。最初から全力でいかせてもらおう。


 以前ドロップした黒鉄の鎧を鋳潰して再精製し、犬魔鉱と合わせた【犬魔黒鉄】の装飾語付きロングソードを鞘から抜く。タタラさん会心の一振りで、高い性能はさることながら魔宝石も組み込まれており、両手持ちの状態でも攻撃魔法を刀身から放つ事が出来る。

 一方の条坂は……うむ、大体Lv8~9辺りの一般的な冒険者用装備だ。武器種は長槍。装甲の薄い鎧の隙間を狙った突き攻撃はレベル差があっても有効打になりえる。用心しよう。


▽審判

「それでは………始めッ!!」


 号令の直後、短いブザー音が鳴り響き……試合が始まった。開始線からの間合いは5メートルほどあるが……とりあえず隙を誘ってカウンターでも狙ってみるか。

 ガシャリ、ガシャリと金属同士が擦れる音を立てながら……構えすら取らずにゆっくりと前へ進んでいく。


▽条坂

「ッ………てめェ………!

 おらあぁぁぁッッ!!!」


 《威嚇》は使っていないはずだが、やはり圧迫感はあるのだろう。条坂は一歩後ろに引いてしまったが……怒号と共に槍を真っ直ぐに構えて突撃してきた。よし、順調。槍の動きもしっかり見える。これならいけそうだ。


 《パワースラッシュ》の構えを取り……槍の刃先に引っかけ振り上げるように発動! 槍ごと両腕を強引に頭上へ弾き上げる。この時点で追撃を想定した《ダークネスボルト》のチャージを開始。


▽条坂

「!? しまッ…―――」


 ガラ空きとなった条坂の胴体に向かって一歩踏み込み、《サークルスラスト》!  全身を捻り、遠心力と膂力を加えた時計回りの回転斬り……攻撃範囲が広いので当てやすく、短距離吹き飛ばし効果で間合いを取り直す用途にも使える。


▽条坂

「ぐあぁッ………!!」

▽ワルミ

「………ごめんあそばせ」


 《サークルスラスト》で85%ほどのバリアを削った。胴体には横一文字の鮮やかな赤い切断痕がクッキリと浮かび、同じ色の粒子がほろほろと放出されている。切断こそされていないものの、どうやらダメージ表現は魔物と同じらしい。一撃で仕留められなかったが……既に追撃の準備は終わっている。

 吹き飛ばしで体勢が大きく崩れたところに、チャージが完了した《ダークネスボルト》を左手から速射し直撃させれば……条坂のバリアは全損。勝負あり。


▽審判

「………! そこまでッ!

 勝者…西方、明都院割美!」


 開始線に戻って剣を収め一礼をし、呆然としている条坂や観客のどよめきを尻目にステージを後にする。神々々様がいるAブロックと同じ試合会場なのでギャラリーが非常に多いが、少しくらい目立っても問題無い。次戦の相手はDクラス。まだ何とかなるだろう。


▽観客の生徒

「お、おい…!? 見たか、今の………」

▽観客の生徒

「ああ………間違いねえ

 あの貴族も剣術と魔法を扱ってやがる…!

 魔法って動きを止めて集中しないと使えないんじゃねえのか…?」

▽観客の生徒

「そのはずなんだけどな…

 新種のアビリティやスキルでも見つかって貴族内で発表されたのか?

 あの重装備で魔法まで使ってくるとか厄介すぎるぜ…」

▽観客の生徒

「まあ、神々々様だって刀で接近戦を行いながら

 強化魔法を詠唱して自身に使っていたもんな………」

▽観客の生徒

「………神々々様………強かったな………」

▽観客の生徒

「………ああ………」


▽スーツの男性

「ふむ………随分と余裕のある動き…

 そしてクエストラリーや模擬戦でのご活躍…

 御令嬢は予想以上に上手くやっているようですね

 当主様もさぞお喜びになるでしょう」




――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――




 戦果報告。Bブロック代表になりました。おわり。


 ……いや、待ってほしい。まさか上位クラスの貴族たちがここまでとは思わなかった。確かに武術の腕は良い。優秀な指導者の下で鍛錬を受けているのだろう。だが……だった。自身の体格や武器の種類、そして戦況に合わせた動きがまるで出来ていない。ただお手本をなぞるだけの動き……実戦で力を磨いてきた下位クラスの方がはるかにマシだ。


 一方、Aブロック代表となった神々々様は……言葉通り強さだった。あまりの実力に上位クラスすら棄権するほどである。


 《★天命の瞳》による先読みで相手の攻撃やフェイントを的確に捌き、並行して自身に強化魔法をかけて身体能力をブースト。そこから繰り出される洗練された攻撃スキルと攻撃魔法は回避も防御も行わせず相手のバリアを粉砕していた。というか当然のように武器と魔法を同時に扱ってるんですけど。「元ラブたんプレイヤー」というアドバンテージが失われていく。ヤバイわよ!


 まだまだ近接武器の扱いや魔法の並行使用に慣れていない感じはあるが……つまりこれからどんどんと言う事。さすがはメインヒロイン、ヤバイわよ!!


 さらに言うと彼女は国宝にも指定されているアーティファクト装備をなんとも所持している。1つだけでも十分強力なのだが、恐ろしいのはこれら3つを合わせて装備すると「セット効果」が発現してさらに強力になる、という事。

 ラブたんでは彼女の専用アーティファクトとして最終盤に登場し、正式に【聖女】の称号を継いだ際に国から賜る……というものだが、実際は中等部の時点で現【聖女】の母から譲渡済みであり、母の承認を得れば現時点でも使えるらしい。

 ブロック代表になった時点ではまだアーティファクトを1つも装備していない……つまりホヨヨちゃん同様、真の実力をまだ隠している。ヤバイわよ!!!


 ……『対神々々様戦術』は用意してきた。してきたが……通用しそうにない気がしてきた。助けてくれ。


――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――


 そんなこんなで各ブロックの試合がすべて終了し、ブロック代表の8名が同じ会場に揃った。


 Cブロック代表は……おお、すごい。1vs1では不利なはずの純魔法使いである煉国谷様だ。……いや、【魔導士連合】幹部ともなれば対策手段もいくつか持っているのだろう。さすがである。


 Dブロック代表は……鳴句さん。通常の貴族と違い、率先して前に出て魔物と戦っているので実力も相応に高い。Aクラス最高峰の【ウィザード】と【ウォリアー】の一戦……これは見逃せない。


 Eブロック代表は……ここでも来ましたこと幕田様。多彩な武器と魔法、特に【属性攻撃】と【妨害魔法】を得意とするトリックスターだ。他者への態度こそ高慢ではあるが、レベルの高さに驕らず自身の安全マージンを確保しつつ堅実に戦うので余計に厄介。もしホヨヨちゃんが彼女と戦うとなれば……果たして決勝戦に勝ち上がれるだろうか?


 Fブロック代表は……おっと、まさかの『聖々院せぜいん 夕斗せきと』様。Aクラスでも指折りの格式高い貴族で、ラブたんでは主人公のライバル兼大親友というポジション。


 金髪碧眼に同じ日本人かと疑うほどの甘いマスク、一見華奢なようでしっかりと鍛えられ引き締まった肉体、強力な武器スキルに回復魔法も扱える優等生。それでいて平民への偏見も無く、ゲーム内外問わずファンクラブが出来ている。もちろん主人公との掛け算も妄想されている。ヒョー。


 冒険者として頭角を現し始めた主人公と意気投合し、模擬戦などでお互いを高め合ったり、何かと手助けをしてくれるようになる。ただし仲間にはならず、クエストでお助けキャラとして参加してくる程度。彼との親交をトリガーとした希少アビリティやアーティファクト取得クエストもいくつか存在するので、出来れば仲良くなっておきたいが……。


 ちなみに主人公が神々々様ルートを通らない、或いは攻略に失敗した場合は大抵彼とくっつく。まあ正統派スパダリ系イケメンだからね。そりゃ神々々様も惚れるよ。私も一目惚れしそう、顔が良すぎる。でも一部の過激なお嬢様方は逆に「神々々様が主人公から聖々院様を奪った」と憤慨するらしい。こわいねぇ。


 Gブロック代表はBクラスの……モブ。名前知らない……。


 そしてHブロック代表には満を持して登場、我らがホヨヨちゃんだ。ちゃんと代表まで勝ち進めていて偉いぞ。まあ特化型でもない私が代表になれたくらいだ、私より強い(と個人的には思っている)ホヨヨちゃんなら楽勝だったかもしれない。現にまだ格闘家スタイルであり、《白光》も《フォトニックソード》も解放していない。



 それにしても……今年のトーナメントはかなり異常かもしれない。何故ならクラスが2名もブロック代表になっているからだ。定村くん達もホヨヨちゃんの実力に目を丸くしていた。あんなふにゃふにゃのもちもちがこんなに強かったなんて夢にも思わなかっただろう。騙して悪いな。


▽審判

「それでは、これよりブロック代表による

 決勝トーナメントを行います

 第1試合、東方…神々々輝世姫 西方…明都院割美

 両者は準備ができ次第ステージに入ってください」



 ……さあ、ついに神々々様との直接対決だ。私は『対神々々様戦術』の為……カーテンで仕切られた更衣スペースで端末から「装備セット変更」を選択した。

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