第37話 跳弾

 ホヨは今、冒険者ライセンスの昇級試験会場に来ています。6級までなら1ヶ月から3ヶ月ほどの間隔で定期的に試験が実施されていて、失敗しても特にペナルティはありません。5級以上になると信頼のおけるクランや冒険者組合からの推薦状が必要となり、試験内容も格段に難しくなる……との事。すごいですね~。


▽ホヨヨ

「ワルミちゃん!! ホヨは8級を受けます!!」

▽ワルミ

「ワタクシは7級でしてよ」

▽ホヨヨ

「え!! いつの間に8級になったんですか!

 ズルいですよ!!」

▽ワルミ

「中等部の頃に…ちょちょいっとね

 8級までなら実技試験だけだし

 今のホヨヨちゃんなら余裕ですわよ オホホのホ」

▽ホヨヨ

「え!! 7級から筆記試験もあるんですか!?

 嫌です~!」

▽ワルミ

「ありますわよありますわよ

 強さだけでなく冒険者に関する法律・規則も

 しっかりと身に付けておく必要がありましてよ


 ライセンスとは冒険者の………

 力を得るからには相応の責任を負わねばなりませんの」

▽試験官

「………そちらの方の言う通りですよ お嬢さん

 無秩序な力はただの暴力でしかない………

 冒険者達の良識を高め、平穏を維持する為に必要な事なのです」

▽ホヨヨ

「ほぁぁ~~~」

▽ワルミ

「……ここ廊下でしたわね すみません」

▽試験官

「いえいえ まだ試験開始まで時間はありますので

 7級の方は案内通りこの先の右側にある部屋にて筆記試験を行います

 私は8級の試験監督ですので…お嬢さんは私に着いてくれば迷いませんよ」

▽ホヨヨ

「は~い!」

▽ワルミ

「………ではまた後程」*丁寧なお辞儀*


 ホヨは試験官の人に付いていって、30人ほど集まっている部屋で8級の試験内容……その概要の説明を受けました。どうやら学園で行ったクエストラリーとほぼ同一のもののようですね。実地にてクエスト内容を発表し、その場でパーティーを組んで出発するそうです。

 ホヨはお父ちゃんから貰った新しい白い金属製の防具を身に付けます。これは上級品だらけの《白光》シリーズを隠す為のサブ装備……今のホヨはそこまで白くてキラキラしていませんよ。この装備については……少し前の話に遡ります。




――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――




 ――― タイマン、トーナメント、クラス合同……。学園の生徒なら誰しも一度は憧れる、『学園最強の冒険者』……


 すみません、ちょっと待ってください。確かにホヨも憧れる人はいますが、学園は特に関係ありません。


▽ホヨヨ

「と言う訳で模擬戦トーナメントは徒手格闘で挑もうと思います」

▽ワルミ

「なるほどね?」

▽ジェリトワーヌ

「チカラト ワザト タマシイヲ キタエ サイキョウヲ メザスノダ」

▽タタラ

「それなら………ホヨ、コレを使うといい」

*白く輝く金属製のライトアーマーセットを取り出す*

▽ホヨヨ

「わお! ピカピカです! よいですね~」

▽ワルミ

「この軽鎧と手甲は………アルミニウムですか?」

▽タタラ

「半分正解だよ、ワルミちゃん

 これは【犬魔ジュラルミン】………アルミを主原料としたものだ


 軽さと高い強度を併せ持つ【ジュラルミン合金】に犬魔鉱を配合して、

 さらに強度を高めた特製の軽金属なんだ

 ホヨのSTRでも十分に扱える軽さで高い防御力を得られるぞ

 見た目だけなら普通のアルミと似ているから

 《白光》を隠しておきたい時にサブ装備として持っておくといい」

▽ワルミ

「ジュラルミン合金って…

 鉄道やスポーツ用品にも使われているアレですの?」

▽タタラ

「そうさ 良く知っているね

 金属を扱う鍛冶師なら現代化学の知識は必須でね…

 化学の祖である錬金術の歴史に詳しい人も多いんだ」

▽ワルミ

「化学に錬金術………とすると

 ダンジョンでドロップする回復ポーションなどに関しても

 研究はされているはずですわよね

 でも作製技術は未だに確立されていない………」

▽チリリ

「ダンジョン素材を用いない製薬技術に関しては

 色々と進歩しているけど…未知の部分が多くて解析が非常に困難なの

 人体への副作用が小さく、かつ肉体の損傷や疲労を瞬時に修復する…

 通常の薬剤とは別物、消費型魔道具として分類されている理由ね


 アビリティ習得書なんかも同じ

 どうにも魔力マナが絡むと途端に難しくなるみたいでね…

 あの【魔導士連合】ですら手を焼いているの」

▽ワルミ

「なるほどですわ~…

 とにかくホヨヨちゃんはしばらくの間

 これを使って格闘家スタイルで頑張るって事ですわね

 まずは【格闘マスタリ】の発現を目標にしましてよ」

▽ホヨヨ

「あい~~~」

▽ワルミ

「………あっ! そうですわ!

 ワタクシも模擬戦トーナメントの装備について

 タタラさんにご相談したい事がございまして………


 防具に少しばかりを施しておきたいのですわ」

▽タタラ

「………ふむ 面白そうだね

 話を聞かせてくれるかい?」

▽ワルミ

「ありがとうございます

 ワタクシが用意したいのはですね…―――」




――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――




 【犬魔ジュラルミン】製の装備を使うようになって1週間ほど。【格闘マスタリ】も発現し、格闘家としてのスタートラインに立てた……という事で腕試しに昇級試験を受ける事になったのです。


▽試験官

「………さて 皆さん準備は出来ているようですね

 それでは、改めまして冒険者ライセンス8級の試験内容を説明いたします


 パーティーの結成は自由、ただし結成後の一時脱退は不可

 目標は………『当階層の魔物、1人あたり100体分の魔石収集』です

 制限時間は6時間、魔物のレベルは不問、

 魔石以外のドロップアイテムについては提出不要です

 パーティーで相談して分配してください


 では、これよりパーティー結成の猶予を10分設けます」


 ……ここは5F。つまりは『ゴブリン100体組み手タイムアタック』と言う訳ですね。往路と復路でちょうどよくなるようにルートや索敵範囲を調整しておきましょう。



▽生意気そうな女学生

「ちょっとアナタ! そこの白くてチビッ子のアナタ!

 こっちを向いてアタシ達の話を聞きなさい!!」


 白いチビッ子と言えば……ホヨでしょうか? 声のした方に顔を向けると、そこには見た目中学生辺りの少年少女が計4名、ホヨと面向かっています。確かワルミちゃんは中等部で8級をクリアしたと言っていましたし……恐らく彼女達もそうなのでしょう。エリートさんです。素晴らしいですね~。


▽ホヨヨ

「ホヨですか? こにちは~~~」

▽気弱そうな男学生

「君もフジヤマ冒険者学園中等部だよね!

 一人じゃ大変だと思うから、僕達と一緒に行かない?」

▽ホヨヨ

「わお! お手伝いですか? ありがとござます~

 でもホヨはソロでタイムアタックをしたいのです!

 なので一人で頑張ってみたいのですよ~」

▽生意気そうな女学生

「ソロで? タイムアタック?

 これは試験であって遊びじゃないのよ?

 油断したら死んじゃうかもしれないのよ!?」

▽ホヨヨ

「にひひ………平気です!

 5Fのゴブリンさん相手ならホヨは負けませんよ!」


▽試験官

(あの子は………廊下で7級受験者と話していた…

 ふむ プロフィールは………と


 『海月野 火夜代』…フジヤマ冒険者学園高等部1年………高等部!?

 冒険者はレベルが上がると肉体の老化が改善されて

 容姿と実年齢にズレが生じてくると言われていますが…


 いや、この子は単に元から背が低くて童顔なだけでしょうか

 レベルは…6ですか 5Fのゴブリン達が相手となると…)


▽試験官

「…すみません 横から失礼します 海月野 火夜代さん…ですね

 あなたのレベルですと…最低3人以上のパーティーを組んだほうが

 よいと思われますが…」

▽ホヨヨ

「えー!! 大丈夫ですってー!」

▽生意気そうな女学生

「そこまで自信満々だから逆に心配になるんじゃない

 試験が始まったらもうパーティーメンバーの追加は出来ないのよ?

 あんまり無茶しないでよね!」

▽試験官

「…ご本人がそう仰るのでしたら…

 私に強制させる権利はありませんので

 ………ちなみにどのくらいのタイムを予定しているのですか?」

▽ホヨヨ

「そうですねぇ………

 30分…いえ 25分を目標にしたいと思います!」

▽試験官

「…いや、さすがにそこまで短時間で終わらせるのは

 難しいと思いますが…」

▽生意気そうな女学生

「にじゅっ………!?

 ああもう分かったわよ! 好きにすればいいじゃない!」

▽試験官

「………おっと そろそろ開始時間ですね

 それでは皆様 ご武運を」


 ……皆さんはとてもお優しいですね。ありがとうございます。それならば。


▽ホヨヨ

「………では、ソロでも平気だと信じてくれるように…

 ホヨの力、お見せしましょう」

▽生意気そうな女学生

「………え?」




▽試験官

「それでは………試験開始!!」




▽ホヨヨ

「《アトリビューション》………《ウィンド》《ファイア》《アクア》

 《トライセット・火吹き》」


 クエストラリーでのリタイア後は、ひたすら【宴会芸】のスキル上げをしていました。その時、以前ワルミちゃんにも見せた『属性付与が可能』という隠し効果の他に……もう一つ特殊な技を会得したのです。


▽気弱そうな男学生

「うわっ………! 両手と両足から湯気が吹き出てきた………!

 一体何のスキルだろう? 見た事無いや!」


 宴会芸スキル《火吹き》。言葉通り口から火を吹く芸です。口の中にアルコールなど引火性の物質を含んでおいて、手に持った火気に向けて霧状に吹き付けます。するとその引火性の霧に火が燃え移り……まるで火を吹いているように見える、と。


 つまり今ホヨは……『口以外から複数属性を付与して吹いている』のです。いつの間にか出来るようになったのですが、それはそれとして。


 まず手足から《火》と《水》の複合属性ブレスを生成。水を沸騰させる事で発生する膨張エネルギー……を発生させます。それを《風属性》によって指向性を持たせて……そう、蒸気エネルギーによる爆発的なです!!

 ホヨには【空中機動】による重量軽減効果があるので……より少ない力で効率的にスピードアップ出来ます。……そして、その果てに。トンと垂直に跳躍して……ブレスを吹かせば。


▽ホヨヨ

「レディー………ゴッッ!!!」


*バシュウウウウウウウウ!!*


▽生意気そうな女学生

「そ、空を飛んで………!?

 ああっ! 壁や天井を足場に走って………もうあんな遠くに!

 あの子………一体何者なの………!?」

▽気弱そうな男学生

「………す、すごいや………!!

 ねえ! 僕達も負けてられないよ!!」

▽生意気そうな女学生

「………!

 そ、そうね! 皆、行きましょう!!」


▽試験官

(………ふふっ これから3年間、

 学園は面白い事になりそうですね………)




――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――




▽気弱そうな男学生

「ハアッ…ハアッ…ハアッ………!

 ま、間に合ったぁ………!!」

*地面にへたり込む*

▽試験官

「…提出された全魔石に問題無し………

 4時間23分05秒、8級昇格試験は合格です

 皆様お疲れ様です 本当によく頑張りましたね」

▽生意気そうな女学生

「…は、8級でこれだけキツイなら…7級はまず無理ね…

 もっとレベルとアビリティを鍛えて強くならないと………


 …そ、そうだわ! ねえ試験官さん!

 あの子は…ソロで行くって言ってたあの子はどうなったんですか?」

▽試験官

「………すみません 守秘義務がありますので

 試験者の情報はお教え出来ないんです」

▽生意気そうな女学生

「………そ、そうですよね…ごめんなさい」

▽試験官

「………ですので

 これから私はをつぶやきます

 …聞かないでくださいね?」

▽気弱そうな男学生

「………え? それって………」




▽試験官

「………試験時間18分55秒

 同条件の試験において歴代最速であった48分10秒を更新し

 レコード記録を樹立して合格しました」




▽生意気そうな女学生

「………ッ!!」

▽気弱そうな男学生

「………海月野…火夜代ちゃん…か

 ………出来ちゃったね」

▽生意気そうな女学生

「………そうね でもいつか追い付いて………

 いえ やるわよ」




 ……これは後から聞いた話なんですが、つい張り切りすぎちゃったホヨの姿は色んな人に見られていて……


『蒸気を吹き出しながら跳弾のように暴れ回ってゴブリンを蹂躙する子供がいる』


と変な噂が立っていたようで、ワルミちゃんにやりすぎだと怒られてしまいました。ぐにゅにゅ……反省です。

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