第36話 想定外のフラグ

――SIDE.明都院 割美




 冒険者学園の一年生徒達が大運動館に集まり、ザワザワと雑談を交えつつもステージに設置された大きなモニターを気にしている。……そう、クエストラリーの結果発表である。


▽スタッフ教師

「………それでは、集計の方が終わりましたので発表させていただきます

 皆様、モニターにご注目ください」


 モニターにクラスの順位と総合ポイント、そして各種目の内訳が表示され……辺りは一段と騒々しくなった。


▽スタッフ教師

「…1位、Aクラス………48148点

 クエスト達成26863点、魔石収集6785点、魔石格7000点、

 踏破トライアル7500点です」


 さすがは学園の上澄みが連なるAクラス。全員が13F以上での狩りを可能とする実力を持っているので、すべての種目において非常に高いスコアを誇っている。Aクラスの生徒達もそれが当然とばかりに凛とした面持ちを保っている。さすがは貴族。


▽スタッフ教師

「…2位、Bクラス………45710点

 クエスト達成26208点、魔石収集7002点、魔石格5000点、

 踏破トライアル7500点です」


 Bクラスも負けず劣らず非常に高いスコアを叩き出している。実力的にはほとんど差異がなかったが……魔石格の部門でわずかに差を付けられてしまったようだ。


 ……魔石格と言えば、少し気になる所がある。一番希少な魔石が5000点、そこから1000点区切りで5位までポイントが貰えるのだが……どうにも合計点が合わない。そう、3位、或いは4位と5位のポイント……足りないのだ。心当たりはあるが……いや、まさかね。


▽スタッフ教師

「…3位、Cクラス………30591点

 クエスト達成20790点、魔石収集4801点、

 踏破トライアル5000点です」


 A・Bクラスから大きく離されたものの、Cクラスもよく頑張っている。こちらは8~10F辺りをメインに狩りを行っていて、さすがに魔石格のランキングは奪い取れなかったようだ。


▽スタッフ教師

「…4位、クラス………24344点

 クエスト達成15200点、魔石収集3144点、魔石格3000点、

 踏破トライアル3000点です」




 館内に大きなどよめきが起こる。それもそのはず……まさか入学してたった数ヶ月の素人クラスが、中等部で3年間鍛えてきたはずのD・Eクラスを遥かに上回った成績なのだから。しかしそれは当然とも言える。

 何故ならFクラスにはこのわたくし、がいるのだから。ソロで13Fのクエストをこなし続けていればポイントは爆上がりするに決まっている。うふ、ちょっと張り切りすぎちゃったかしら。ごめんあそばせ。

 そして魔石格3000点……十中八九アビリティ習得書の宝箱を落とした星付きだろう。とするとアレは3位か。もしBクラスがこの星付きを倒していたならば、Aクラスに勝てていただろうに……いやぁすんませぇん(笑)

 おーおー、DクラスとEクラスの連中がすごい顔でこっち見てますわよ。悔しいのう、悔しいのう! オーッホッホッホッホッホッホ!!


 ……いや、さすがにやりすぎた。Fクラスの生徒達に何かあったら大変だ。反省しよう。


▽イオ

「………まさか…Eクラスばかりか

 Dクラスにまで大きく離して勝ってしまうとはな

 一体どれだけの割合が君一人の功績なんだろうな…」

▽ワルミ

「さあ? 多くても1割程度じゃなくて?*すっとぼけ*

 途中で倒した星付き…ユニークモンスターが魔石格にランクインしたのも

 デカいと思いましてよ ラッキーでしたわね」

▽イオ

「………まあ、成績以上の収穫もあった

 Eクラスからの妨害がありながらも、

 一人も脱落する事無く一週間戦い抜いたんだ

 この経験は皆にとって大きな自信となっただろう」

▽ワルミ

「………ええ そうですわね

 皆様…本当によく頑張りましたわ」


▽スタッフ教師

「………皆様、皆様お静かに まだ発表の最中です

 5位、Dクラス―――」


――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――


 教室に戻っても、興奮冷めやらぬクラスメイト達は談笑を続けている。……千堂先生が教室に入ってきて、教壇に立った。


▽千堂先生

「はいは~い! 皆さん、クエストラリー4位おめでとうございま~す!

 私も担任としてとても喜ばしい限りです!

 ………もう少し話に華を咲かせてあげたいところですが、

 そろそろの話をいたしましょう~」


 ……次。そう、次だ。学園のイベント……もとい実力検査はこれ限りでは無い。賑やかだった生徒達は、その言葉を聞いて自然と落ち着き……先生の次の言葉を待つ。


▽千堂先生

「………では~

 これより約1ヶ月後、7月28日から3日間……

 全クラス合同の『学年別模擬戦トーナメント』が行われます~


 試合形式は1VS1で制限時間は3分、リタイア申請可、

 武器や魔法…及び武装の制限は無し、

 模擬戦専用UDFによる完全バリア低減方式となります

 ………一般冒険者による『全日本闘技大会』と同じルールですね~


 全生徒強制参加であったクエストラリーと違い、

 今回は自己申請による任意参加となっています~

 対人戦が苦手という人もいますし、

 ジョブでの有利不利もありますので~

 ですが試合の様子は会場や録画のアーカイブなどで

 後学のために見ておく事をオススメします~


 ………ちなみに、とは言葉の通りですね~

 A~Fクラスの参加者全員が同列に扱われて、

 端数を除きシード権はありません~

 クラス評価にも影響しない完全に個人戦という事ですね~」


 …要は学年ごとに誰が最強の冒険者なのかを決めるトーナメントだ。スポーツや武道・武術などと同じノリでいいと思う。しかし先生の言う通り、試合形式はいわゆる。パーティーを組み互いに補い合えていたクエストラリーとは違い、後衛のマジシャンやアーチャー、サポート特化型のクレリックなどは自身の力を十全に活かす事が出来ない。だからこその任意参加である。


▽千堂先生

「参加申請期限は1週間前、

 トーナメント表は試合前日に学園中央掲示板へ貼り出され、

 参加者は端末にも同時に一斉送信されます~


 そしてトーナメント後の8月からは待ちに待った夏休みです! が!

 遊びすぎて冒険者としての鍛錬を疎かにしてはいけませんよ~?

 一般的な高校と比べて宿題の量も少ないので、

 ダンジョンの探索時間を増やした強化月間として頑張ってくださいね~」


 ホームルームが終わり、生徒達はまた話に華を咲かせ始める。模擬戦トーナメントはラブたん原作でも重要なイベント。成績によって知り合った攻略キャラ全員の好感度が上昇し、同じくトーナメントに参加したヒロインとの直接対決で勝利すればさらに好感度が上がるという恋愛ゲーム要素が関係しているのだ。


 ……ただし私に関しては各ヒロインとの好感度が目的では無く、明都院家という貴族のが主と考えていいだろう。両親はワルミが冒険者として大成する事を望んでいる。実力を示すまたとないチャンスだ。あとは各クラスのジョブ比率や全体的な成長速度などもある程度把握しておきたい。


 以上の理由から私は参加が確定しているが……逆にホヨヨちゃんに関しては参加しない方がいいだろう。表示レベルに見合わない強さが露呈しレベル詐称がバレるのを防ぐ為だ。MAG特化型という珍しいステータス成長傾向や固有スキルは既に周知されている。エディットオーブで登録され学園の生徒一覧から確認可能であるが、それ以外は特段目立った事はしていない……と思うが、正直少しだけはある。


 ……おや? ホヨヨちゃんは誰かに呼び出しを受けていたようだ。ドアを開けて教室に戻ってきた。トーナメントへの参加はしない方が良い、という私の意見とその理由は既に伝えてある。コソコソと私に近付いてきて、小声でそっと話しかけてきた。この感じ……なんだか嫌な予感がする。


▽ホヨヨ

「………ワルミちゃん 大変です

 ホヨはトーナメントに参加する事になってしまいました」

▽ワルミ

「んんんんんんんんんん」

▽ホヨヨ

「………いや………その~………

 煉国谷様がですね? どうしてもホヨの本気を見たいからだって…

 それにキセキちゃ…いえ 神々々様も参加されるそうです…」

▽ワルミ

「ウソでしょ………」

▽ホヨヨ

「ホントです………

 『私達も参加するからアンタも来なさい』、とのことで…

 はゎゎゎ………どうしましょう」


 神々々様は固有アビリティのパッシブ効果が「全ステータス上昇」なので、能力的にも十分に前衛で武器を振れるポテンシャルを秘めているし、煉国谷様も【魔導士連合】の幹部にして魔法のエキスパート。レベルの高さも相まって前衛ジョブに近付かれる前に魔法で吹き飛ばす事も出来るだろう。だがそれはあくまでも可能性の話。原作では両名ともトーナメントに不参加だったはず。一体どうした事だろう。……というかなんて? 「ホヨヨちゃんのが見たい」?


 ……私はそっと手で顔を覆った。うん、間違いなくねこれ。Aクラスであり高名な貴族であり各種冒険者組合の幹部でもある彼女達から直接指名のようだ。わざと手を抜いて初戦敗退したとしても、追及は止まらず余計に拗れてしまうだろう。ヤバイわよ!!


 まあ私も私で予想以上に高いレベルと実力が広まってるもんだからE・Dクラスもかなり警戒してて、関連イベントがことごとく潰れちゃって未発生なのよ。その分Fクラスの皆は邪魔されずのびのびとレベルを上げていけてるから結果オーライだけど。


▽ワルミ

「ど~~~~~しますかねぇ~~~~~………

 神々々様は看破可能だから想定内として…

 問題は煉国谷様ですわね

 あの方原作でもかなりの天才キャラでしたわよ

 状況証拠などで看破されている可能性は大いにありますわね

 それでいてわざわざ公衆の面前で実力を見せろと直接通告してくる………


 ………まさかホヨヨちゃんを【魔導士連合】に取り込むつもりで…?

 …ありえますわね ホヨヨちゃんはMAG特化型…

 マジシャンとして最高の逸材ですわ

 実力を示させて、彼の後ろ盾として囲い込む………

 そんなシナリオと言ったところですわね」


▽ホヨヨ

「………ええと………その………

 最初に言われた事がですね

 『神々々様がホヨと戦いたいから』だって………」


▽ワルミ

「へぇ…煉国d………なんて???」


▽ホヨヨ

「神々々様がホヨと戦いたいそうです」

▽ワルミ

「あの人に嫌われるような事しまして?」

▽ホヨヨ

「ま、まさかぁ! 逆ですよ!

 すっごいキラキラしたお顔で手合わせ願いたいって!

 なんでですか~!」

▽ワルミ

「えぇ………」


 ……おかしい。私が知っている神々々輝世姫様は、例え魔物が相手であろうと無益な殺生を好まない心優しく穏やかな方だったはず。まさかトーナメントに参加した挙句名指しで模擬戦を申し込んでこようとは。一体どういう……と思いかけたところで、一つのが思い浮かぶ。


 そう、『ヒロインの好感度上昇イベント』。それも直接対決チャンス有りの。


 煉国谷様に関してはまだ不明瞭だが、少なくとも神々々様に関してはほぼ確定だろう。ホヨヨちゃんと戦う為にトーナメント参加しようとしているのが何よりの証拠だ。それは同時に、ホヨヨちゃんにまさかのが立っている可能性があるという事。

 ラブたんを代表するメインヒロインであるが、攻略可能になるタイミングが遅く難易度も高いのが特徴だ。最初のクエストラリー……1年の6月下旬時点で彼女の攻略可能フラグが立つイベントは原作には一切存在しない。よって、どのような行動をすれば正解なのか何も分からない。


 ……いや、そもそもゲーム内の彼女と同列に考えてはいけないのか。確かにここはラブたんを模している。しかしゲームの中ではない、あくまでも現実世界なのだ。ゲームの情報を忠実に再現してあるものだから完全に失念していた。私が真に神々々様の心の内を知る由など無いのだ。


 ……だが、もし彼女がホヨヨちゃんの『強さ』を望んでいるのならば……。


▽ワルミ

「………ホヨヨちゃん

 トーナメント、本気で戦いなさい

 もし神々々様か煉国谷様と戦う事になったら………

 《白光》と【フォトニックソード】を解放してよろしくてよ

 ………もちろん、もね

 全力でやる事…それが彼女達への誠意ですわ」

▽ホヨヨ

「………分かりました」


 ……知る由など無い……と言ったが、少し嘘をついてしまった。神々々様はホヨヨちゃんが全力で戦う姿を見た……のだろう。だから、ただ……ただ純粋に、のだろう、と。


 ……そして武器を取るまでに至った。分かるよ。私もあの子と戦ってみたい。

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