第35話 知啓の蔵書館
――SIDE.明都院 割美
クエストラリー5日目。まだ途中経過ではあるが、FクラスのポイントはわずかながらEクラスを上回っている。狩場占有による妨害は相変わらずだが、ホヨヨちゃんと私によるポイントのブーストに活気付いたクラスの士気は衰えず着実に戦果を挙げてきている。精神的余裕も出来たので無茶をするメンバーはおらず、脱落者もゼロ。ラリー中にレベルが上がってより高い難易度に挑めるようになったパーティーもいて、まさしく順風満帆といったところだろう。
早々にリタイアしたホヨヨちゃんは、「【宴会芸】のレベル上げをする」と言って3Fや4Fのメインストリート……運営キャンプの付近で宴会芸を披露している。邪魔にならないかと心配していたが、意外とウケが良く一般の冒険者達からも好評のようだ。すっかり【宴会芸】がお気に入りのようでレベルもどんどん上がっている。やはり人間は心の余裕があってこそだね。
11Fにいる私の所にもちょくちょく遊びに来てくれるので、単調で無機質なクエスト周回にまろやかな彩りを添えてくれる。ホヨヨちゃんのような華……もといユニークな友人がそばにいると、ここまで日常が楽しくなってしまうものかと感慨深い。
▽ホヨヨ
「ワルミちゃん!
ホヨは………ホヨは世界の真実を知ってしまいました」
▽ワルミ
「急に改まってなんですの」
▽ジェリトワーヌ
*直立不動で爆睡している*
▽ホヨヨ
「なんと………なんとですね
【宴会芸】スキルにも属性を付与できる事が分かりました」
▽ワルミ
「なんで?????」
▽ホヨヨ
「例えばこの…《狸寝入り》っていうスキルあるじゃないですか
普通に使うと…こうやって布団が出てくるだけなんですけど」
*布団が生成される*
▽ワルミ
「まずそれが宴会芸になるのかどうか疑わしいと思いませんこと?」
▽ホヨヨ
「これにですね…《アトリビューション》で属性を付与させながら使うと
布団の性質が変わったり小物が追加されたりするんですよ!」
▽ワルミ
「そう………」*無関心*
▽ホヨヨ
「ではまず火属性から!
見た目は普通ですが………なんと布団の中に湯たんぽがあります!」
*布団の中から湯たんぽを取り出す*
▽ワルミ
「うっわマジじゃん」*急に興味が湧く*
▽ホヨヨ
「氷属性は…布団が夏仕様の薄地に変わって枕が保冷材入りに!
ひんやりですね~~~」
*涼しそうな感じの布団セット*
▽ワルミ
「あ~~~寝苦しい夏の夜とか熱出した時とかよさそうですわね
ダンジョン内での急な発熱にも使えそうですわ」
▽ホヨヨ
「水属性はですね~………」
▽ワルミ
「待って これは分かりましてよ
ズバリウォーターベッドですわね!?」
▽ホヨヨ
「残念!
正解は水浸しの布団です!」
*ビショビショ*
▽ワルミ
「やだーーー! こんな布団やだーーー!!」
▽ホヨヨ
「雷属性は電気スタンドが付いてきます!」
*カチッ*
▽ワルミ
「これは地味に便利ですわね
まあダンジョン内は基本的に昼夜が無いし照明要らずなんですけど」
▽ホヨヨ
「風属性は敷布団がエアーマットレスになります!」
*ふよふよ*
▽ワルミ
「え~~~ それならなんで
水属性はウォーターベッドじゃありませんの~?」
▽ホヨヨ
「地属性は岩盤浴用の岩です!」
*カチカチ*
▽ワルミ
「ちょっとした嫌がらせの障害物としても使えそうですわね」
▽ホヨヨ
「光属性は布団が七色に光ります!」
*ぴっかぴか*
▽ワルミ
「ウワーッ! ゲーミング(※1)布団!! やだーーー!!」
▽ホヨヨ
「そして闇属性は………アイマスクです!」*装着する*
▽ワルミ
「うわ地味だけどまとも」
▽ホヨヨ
「………といった感じですね~」
▽ワルミ
「………あっ!?
ってことは………実は攻撃にも転用できる事が発覚した
《ジャグリング》や《火吹き》なんかも………?」
▽ホヨヨ
「その通りです!
《ジャグリング》は属性付きの投擲攻撃に、
《火吹き》は火以外の属性が付与されたブレス攻撃になるんです!
ただ投擲はSTR依存、ブレスはVIT依存なので
ホヨとは相性が悪いんですけども…」
▽ワルミ
「ん~~~なるほど~~~
原作だとスキルの属性を変更するスキルはなかったし…
仕様がよく分からないから他にも色々と試してみたり
上手く活用できる機会があるとよいですわね~」
▽ホヨヨ
「そですね~~~
それじゃあホヨは少しお昼寝をするをします~
お休みのなさいですよ~~~」
*ゲーミング布団にアイマスク*
▽ワルミ
「しれっと複合属性にすなーッ!!」
その後ホヨヨちゃんはマジでゲーミング布団で寝ていた。いくらセーフティエリアだからと言って気が緩みすぎだ。すれ違った冒険者達も何事かと二度見していて……いやあ目立つ目立つ。もしかするとトライアルでも他クラスのメンバーに色々とバレているかもしれない。ホヨヨちゃんにはもっと気を付けてもらいたいものだが……。
その隣には全身鎧の少女が突っ立ったまま寝ているので何かもうアレだ。鎧の中身がジェリー娘である事はバレていないようだが……その内こっちもバレてしまいそうだわよ。助けてくれ。
ところで一つ気付いた事がある。《狸寝入り》は文字通り寝たふりをするスキルだが……ホヨヨちゃんは今本当に寝ているにも関わらずスキルが解除されていない。
スキルは本来ならば発動者が意識を失った時点ですべて解除され、召喚系のオブジェクト類も消滅するはずなのだ。現に先程ホヨヨちゃんは布団を自由に出現・消滅させていたのだが……いや、なんたって屈指のネタアビリティ【宴会芸】だ。【★天魔特異点】の派生スキルと同様にゲーム知識やこの世界の法則が及ばない何かがあるのかもしれない。或いは気にするだけ無駄か……またアビリティ習得書が手に入ったら私も使ってみようかしらん。
さてさて、一息つけた事だしクエストの続きでもしますかね。散々ハンマーを振り回し続けたおかげで【武器マスタリ・鈍器】を習得出来たし、両手持ち用重量武器の扱い方にも少しずつ慣れてきた。今後は特質ではなく属性耐性として……斬属性の攻撃が通りにくい魔物や耐性強化の魔法を使う魔物も現れる。それらに対応する為に突属性・衝属性の武器種もある程度扱えた方がよいだろう。
他にも【闇属性魔法】以外で使う事の無いMPを有効活用するべく、補助や妨害、回復魔法なんかも習得したいものだが……はてさて、【アビリティ習得書】もポーション類と同様にドロップ率が大幅に低下している気配はある。原作であれば、これだけ大量の魔物を狩っていればユニークでなくとも習得書の2つや3つ拾えてもおかしくないのだが……【獣魔革】や私達も食べられる【獣魔の肉】、その他有象無象の凡庸な装備ばかり。う~む渋い。
――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――
魔物を倒しつつ、【アビリティ】について考えていく。……『アビリティの習得方法』についてだ。この世界におけるアビリティの習得方法は3種類。
まず「先天的な習得」……先天的な才能開花。冒険者になる前からALv1となっているものだ。
次に「鍛錬や授業での習得」……潜在的な才能開花。特定の条件で行動を繰り返し行ったり、他者から概要や仕組みなどを教わる事でALvを0から1に上昇させる。
そして「習得書の使用」……後天的な才能開花。個人の保有する才能に左右されずアビリティを習得、ALvを上昇させる。逆に言うとどんなに鍛錬を行ったとしてもALv0未満……潜在的才能を有していなければアビリティが発現する事は無い。
原作ではそのような制限は無く、主人公含め操作可能なキャラクターは魔物専用アビリティを除いたすべてのアビリティを習得可能だが、この世界はそうではないらしい。そして現時点でALv0のアビリティを確認できる術が存在しないため、どんなに鍛錬を積んだとしても発現せず努力が無駄になってしまう……という事も多い。
そんな背景もあり、アビリティは基本的にALv1となっているもののみを鍛錬し、習得書や偶然で発現したものを追加で鍛えていく……というものが一般的となっている。特に魔法系アビリティにおいては発現可能な人物が少なく、Lv0を1に引き上げる方法も未だ研究中なので発現させる体制すら整っていないのだ。
……さて、ここで一つ面白い実験を紹介しよう。ズバリ「アビリティ習得書の解読と複製」だ。原理は一切不明、開いて読めば消失し、読者のアビリティを発現・上昇させてしまう不思議でステキなマジックアイテム。ならばこのアイテムを研究、解読して複製するまでに至ればすべての冒険者があらゆるアビリティを得る事が出来るだろう……と始まったこのプロジェクト。
まずは「使用中の様子」をハイスピードカメラで写真と動画を記録。頭上から真下へのアングルを中心に、使用者を囲むように設置する。使用方法は静止して表紙を開くだけ。その後は勝手にページがパラパラと高速で捲れ続けて、最後のページが開かれた直後に消滅。頭の中に知識が入ってくるような感覚がすれば成功。途中ページを掴んで本の動きを止めてしまうと失敗する。
肝心の撮影結果だが……使用者には「文字のようなもの」が見えていたが、他の人物やカメラには「白紙のページ」しか写っていなかった。使用者はその文字や記号を思い出そうとしたが、何も記憶に残っていなかったそうだ。
次に行ったのは人のいない部屋で本を開く自動プログラムを組んだロボットアームとカメラを使って撮影……すなわち無人の状態で開き中身を写真に収めようというものだ。結果は失敗。まるで強力に接着されているかのように表紙を開く事が出来なかったのだ。
最後に行った実験は……今までで一番大掛かりなものだった。先程行った実験に条件を追加する……のだが、未来予知に加えて透視の力を持っている今代聖女様に協力を要請し、部屋の外から透視により内部の本を機械で開く……というものだった。聖女様は「面白そう」と快く了承され、実験を開始。
結果、聖女様は見事習得書により【武器マスタリ・斧】の習得に成功。アイテムを使用したとみなされる条件が「人間による中身の目視」である事は確定したが、肝心の中身は結局何も分からず仕舞いだった。実験はここで一旦終了となっている。
このようにゲームの仕様……フィクションとして軽く流していた事象も、この世界においてはそれが
……とか何とか考えてたら今さっき倒した魔物はどうやら星付きだったらしい。足元には魔石とレア宝箱が鎮座している。ひょー。開けますわよ開けま……ん?
>宝箱【知啓の蔵書館】
まあ、端的に言うとランダムな種類の【アビリティ習得書】や【スキル習得書】が確定で計3~5個入っている宝箱だ。まさかアビリティの事を考えていたこのタイミングで出てくるとは……偶然にしては出来過ぎている気がするが、この際気にしないことにする。サンキュー天運の女神様。自分やホヨヨちゃんに合いそうなら使い、必要そうでなければ売ってしまおう。出てきた4冊の魔法書を【初級鑑定】で確認してみる。
消費/魔法書 【アビリティ習得書:妨害魔法】
消費/魔法書 【アビリティ習得書:跳躍】
消費/魔法書 【スキル習得書:◆アーマーパージ】
消費/魔法書 【スキル習得書:◆メガネビーム】
【妨害魔法】……直接的な攻撃能力は無いものの、状態異常や局地的な地形変化などにより敵に不利な状況を作り出す補助型の魔法だ。しかしこれ単体で習得する魔法はそこまで強くない。
各種【属性魔法】と並行して鍛える事により習得する複合魔法が真骨頂……各属性の特色を活かした強力な効果を持つ魔法が多い。
私が持つ闇属性ならば、視界を遮る黒い霧を散布する《ブラインドミスト》や魔法の詠唱を阻害する《サイレンスマーク》などがある。ボス属性を持つ魔物は状態異常耐性を持ち無力化は出来ないが、副次効果としてステータスの低下などを狙えるのでボス相手でも割と腐りにくい。
丁度こういうのが欲しかったんだよね。これは私がいただこう。
【跳躍】……ジャンプ力が少し上がる。それだけ。
上層にはアスレチックのような足場やパズルギミックが存在する……が、このアビリティが必須になる状況は基本的に全く無い。
何故なら冒険者はSTRやAGIが上がっていけばジャンプ力も相応に上がるからだ。わざわざ枠を1つ潰して入れるようなものではないハズレアビリティである。
ホヨヨちゃんにあげよう。こういうの好きでしょ?
さて、残る2つはスキル習得書。保有するアビリティやALv、適性などに関わらず直接スキルを使えるようになる。アビリティの鍛錬する時間を省ける為、痒い所に手が届くような便利アイテムだ。また、習得書でしか得られない特別なスキルも存在する。
《◆アーマーパージ》は一時的に自身の装備している防具全ての重量・DEF・MDFを半減させ、減らした数値に比例してAGIを割合上昇させる特殊バフスキル。
パージ……解除とあるが本当に防具を脱ぎ捨てる訳ではない。お色気シーンにはならないぜ……残念だったな。私のような重装備の冒険者に有用であり、スピードが必要な場面やボス戦でのラストスパートなど、奥の手として持っておくといいだろう。これも私がいただこう。
《◆メガネビーム》は……そう、あのメガネビームだ。芽木さんとお揃いだね。でも私もホヨヨちゃんも眼鏡はかけていないから……そうだ、定村くんにあげよう。
問題はあの真面目な定村くんがこんなネタスキルを受け取ってくれるか……どうにかして説得しなくては。
――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――
▽ワルミ
「ホ~ヨ~ヨ~ちゃんっ♪ イイモノ手に入れましたわよぉ~~~?
プレゼントしますわ!」
▽ホヨヨ
「わお! アビリティ習得書じゃないですか!
いいんですか?」
▽ワルミ
「むしろホヨヨちゃんに使ってもらいたいものなんですのよ
いいからいいから~ 使ってごらんなさいよぉ~」
▽ホヨヨ
「わー! ありがとうございます!
それじゃあ早速………」
*習得書を使用*
▽ホヨヨ
「………ありゃりゃ!?
ワルミちゃん、大変です!
ホヨの【軽量化】と【跳躍】がくっ付いて………
【□空中機動】になっちゃいました!!」
▽ワルミ
「そ! アビリティの中には効果が合体して
【□複合アビリティ】になる特定の組み合わせが存在しましてよ!
アビリティ枠を圧縮できるのはさる事ながら、
新たな効果や習得アビリティが追加される場合もありますわね!」
▽ホヨヨ
「わぁ………!
なんだかお空をバビューンって出来るような気がしてきました!
やったー!!」
*すごいジャンプ力(2.8m)*
▽ワルミ
「待って 思ったよりすごい跳んでる ヤバ………」
▽ジェリトワーヌ
「ワルミ ワルミ ワレ ニハ ナイ ノカ?」
▽ワルミ
「ファミリアには習得書が使えませんのよ………」
▽ジェリトワーヌ
「エー」
▽ワルミ
「ジェリちゃんはそろそろ新しい装備が一式揃うはずだから…
それで我慢してくださいまし?」
▽ジェリトワーヌ
「シカタ ナシ」
ホヨヨちゃんの複合アビリティは……実を言えば知っていた情報だ。私がラブたんをやり込んでいなければ【跳躍】の習得書は売ってしまっていた事だろう。こういう所でゲーム知識が活かせるのは嬉しい事だ。いやぁ今日は大金星。このままクエストラリーもぶっちぎってEクラスに勝利できるよう最後まで頑張ろう。
(※1)ゲーミング
ゲーム用デバイスのパーツが「虹色に発光する」機能を有する事になぞらえて、
虹色に発光している事象に装飾語として用いるネットスラング。
光らせる理由は「光の刺激で集中力を増幅させる」、
「スペックの高さを表現している」など諸説あるが、
これと言って有力な情報が見当たらないので
あまり気にしない方がいいのかもしれない。
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