第33話 2日目の課題
――SIDE.定村 伊央
7時、フジヤマダンジョン4F。メインストリート脇のセーフティエリアにAAC搭載テントを張り、初めてのダンジョン内キャンプを行っていた。……野宿に慣れていないのもあってか、疲労があまり抜けていない者もちらほらいる。ミーティングは最低限に留めておいて、もうしばらくは休憩時間としておこう。特にラリー後半は疲労が限界に達してリタイアせざるを得ない者も出てくるだろう。決して焦らず、しかして急ぐ。
▽イオ
「さて、クエストラリー2日目だが……
前日の成績や他クラスの動向から
レベルを上げただけでは難しい問題が浮上した
芽木さん、詳細の説明を」
▽スウト
「はい
現在私達は明都院さん以外の全員が
4Fでクエストを受けていますが………
レベル的優位があるにも関わらず、
Eクラスの大部分が同じく4Fでクエストを受けているようです
広く分布して近場の魔物を狩り尽くしFクラスの狩場を奥へ追いやり…
クエスト受注から達成報告までの移動時間を増やすという
妨害工作が目的と思われます
クエストラリーに無関係な一般冒険者の方々にも若干の影響があり、
彼らも魔物を探して同じように奥地まで狩場を移し…
結果、予定よりクエストの達成速度がかなり遅くなっています」
▽インク
「他クラスや一般冒険者との競合もある程度想定して
あまり人が訪れないエリアを選択していたのだが…
まさかここまであからさまに妨害をしてくるとはな
しかし直接危害を加えたり魔物をわざと引き付けて押し付けると言った
犯罪行為を行っていないので残念ながらルール上は反則ではなく、
一般冒険者から見ても単なる学校行事で魔物を狩る生徒達だ
Eクラス自体は妨害とポイント稼ぎを両立できている…
嫌らしい手を使ってきたものだな」
▽ルウク
「これだと他の階層でも同様の妨害を行ってくるだろうな…
このままじゃEクラスとの点差は開くばかりだ
明都院にもこれ以上負担はかけられねえ…
どうする、定村?」
▽イオ
「そうだな………
3Fでの高速周回パーティーを結成するのがいいだろう
2階層に分散すればその分Eクラスによる圧力も減るはずだ
クエストの難易度自体は下がるがその分獲得ポイントも減り、
狩場への往復回数は増える…つまり4Fより多忙で負担が大きくなってしまう
故にこれに関しては希望者を募る事にする 強制はしない
パーティーの数も4Fより増やしてより効率的にいきたいところだが…
これらは希望者各自の判断に任せよう 決して無理はしない事だ」
▽Fクラス男子生徒
「…よし それなら3Fには俺達が行こう
同じゴブリンでも4Fより顔見知りが多いからな…
周辺の地形や狩場との位置関係だって慣れたもんだぜ」
▽Fクラス女子生徒
「私達からはAGIが高めの人を重点的に選出しておくわ
メンバー全体の素早さは大事でしょ?」
▽イオ
「みんな………ありがとう よろしく頼む」
最終的に約半数のメンバーが3Fに行く事となった。どうにかして現状を打開したいところだが……
▽シン
「ん~………あ、そうそう 悪い話ばかりでもなさげっぽいよ
【踏破トライアル】のクラゲっちだけどさぁ…
Eクラスは5Fでリタイアしてるけど
あの子今6Fに到達してるっぽいんだよね~
この時点でEクラスには白星ってコトね」
▽ライチ
「ろ、6F………!?
そんなに高い所まで行って…あの子平気なの!?」
▽フウカ
「…確かAクラスを始めとする上位クラスの人達と一緒に行く…
と初日で話し合いをされていましたね
………もしかするとさらに上層まで同行する可能性もありますよ」
▽ルウク
「ウソだろ…!? 上位クラスのサポートがあるにしても
自分より2倍以上レベルの高い魔物がそこら中にいる場所に行くのは
いくらなんでも無謀すぎるぜ!」
▽イオ
「…そうだな 少々惜しい気はするが…
さすがにこれ以上無理をさせる訳にはいかない
いつでもリタイアしてもいいとメッセージを入れておこう
………よし 今日のミーティングはこのくらいでいいだろう
もう少し休憩を取ってからクエストの続きを始めよう
それでは解散」
海月野 火夜代……今回のイベントで貧乏くじを引かせてしまった子だ。Fクラス生徒は軒並みLv4を達成していたが、彼だけはLv3だった。明都院さんが一緒にいる所をよく目にするので、おそらく彼のレベル上げをサポートしてくれているのだろうが……極端に低い体力が原因でまともに狩りを行えていないのかもしれない。特化型とは難儀なものだ。
このままでは彼が上位クラスによるいじめの餌食になってしまう。上位クラスの圧力を跳ね除けるにしても、他者から守ってもらうのには限界がある。それよりも自身が力をつけた方がいい。明都院さんが単なる用心棒ではなくFクラス全体の強化に力を貸してくれているのもそれが理由だ。僕達も彼を何か手助け出来ればいいのだが……。
――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――
――SIDE.明都院 割美
▽ワルミ
「はぁ゛ぁ゛ぁ゛~~~どっこいしょ………
いやぁ~骨が折れますわね~~~
折れてるのは魔物の顎の骨なんですけども オホホのホ」
11F、奥地のセーフティエリア。巨大なミートテンダライザ(※1)をその辺の岩に立て掛けて、鎧を着たまま地面にだらしなく寝転んで休憩を取る。
この階層に出現する魔物はとにかくデカくて表皮も硬く、生半可な刃物では有効打を与えづらい。そこで膂力と武器の重量を最大限に活かした両手持ちの大型鈍器を頭部や胴体に直撃させるのが良い……とドロップ品から持ち出してきたものだ。
鈍器類ならば少々乱雑に扱っても攻撃部位が壊れず、より長く戦場にいられるのもある。慣れない武器種ゆえに熟練度は下がるが、そこはレベル的優位と戦闘センスである程度カバーできる。
……それはそれとして。
ラブたんというゲームではファームもコントローラ一つで寝転びながら行えるので特に思う所はなかった。しかしこの世界においてファームとは……そう、仕事だ。もし冒険者という職業だけで生きていくならば……一日に何時間も武器を振るい、魔法を使い、心身を擦り減らして戦い続けなければいけない。それを何ヶ月も、何年も続けなければいけない。その内成長の兆しは見えなくなり限界が訪れ、余計に目新しさは無くなっていく。しかし油断をしていれば、ふとした瞬間にあっけなく命を落とす。冷静に考えてみれば……仕事環境は最悪である。冒険者達の心が荒みがちなのもむべなるかな。
それでも職業として成り立っており、今もなお多くの冒険者でダンジョンが溢れかえっているのは……需要とロマンがあるからだ。今やインフラの基盤となった魔石エネルギー、そして時折手に入る不思議で強力な素材や装備にマジックアイテム……ダンジョンとは言わばほぼ無限の宝物庫なのだ。
では何故そこまで人間に都合の良いものが突如現れたのか。残念ながらダンジョンが発生した原因や内部構造の秘密、魔物や魔石などについては数十年経った今でもほとんど解明されていない。人間の欲望が凝縮し形を取ったもの……という説があるが、オカルト話止まりである。ラブたんゲーム内で言及は一切されておらず、攻略本や設定集にもダンジョンについて詳しい記載は無かったのでゲーム知識としても不明な点だ。果たしてこの謎が解明される日は来るのだろうか?
……さて、考察もほどほどにして。スタミナも回復したのでそろそろクエストの続きをするとしよう。この近辺の獣型魔物は序盤の冒険者が目標としている【獣魔革】というアイテムを落とす。一般的な鋼鉄より軽くて丈夫、さらに加工が容易で装備製作時にランダムエンチャントが付きやすい良質な防具用の素材だ。作ってよし、売ってよしと【犬魔鋼】同様冒険者にとって重宝されている。
ただ……ドロップ率は中々に渋い。昨日は4個しか取れなかった。体や背中など大きい部位は約15個、小さな部位は約6~10個で装備が1つ作れるのだが……製作者のALvによっては失敗する事もあり、魔物素材での装備作製がいかに茨の道かを物語っている。
ちなみに私の防具類はすべて【犬魔鋼】と鉄の合金である【犬魔鉄】製だ。DEFが非常に高く、さらに体装備のプレートドレスアーマーには《DEF+10%》という良質なエンチャントまで付いている。タタラさんが【犬魔鋼】の合金作製と鍛冶をほぼ失敗せず行える程製作アビリティが高く、素材はすべて自前なのもあり格安で作ってもらえたのだ。
今の私はここ11Fの魔物の突進を真正面から押し止められるほどにガッチガチ。内なるワルミもニッコニコですわね。でも今の状態で体重を測るとヤバイ事になる。
ただでさえ生身で85kgとかそのくらいはあるのに、そこに計30kgの鎧一式に20kgほどの両手持ち鈍器を加えると……圧巻の135kg! しかもこんな金属の塊がそのまま時速40~50kmで軽快に走り回ってるんだから余計にヤバイ。冒険者なら割と日常風景なのでいよいよヤバイ。ウケる。
ガシャガシャと音を立てて立ち上がり、立て掛けていた鈍器を担いで魔物の現れるエリアへと足を運んでいく。今日は魔石以外にどれだけのアイテムを手に入れられるだろうか……
(※1)ミートテンダライザ
食肉を叩いて柔らかくする為殴打面に起伏がある調理用のハンマー。
ミートマレット、ミートハンマーとも呼ばれる。
本作では大きさと重量が大幅に強化され戦闘用の両手持ち鈍器に改造されている。
熟練の戦士になると数十kgの重さがあるものでも軽々と振り回す事が可能。
(※2)ファーム
「農園」「農場」を意味する英語。作物を育て収穫する様子から転じて、
キャラクターの育成やアイテム収集などを目的とした
エネミーの大量討伐などを指すゲーム用語。
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