第32話 VS5分20秒

――SIDE.神々々 輝世姫




▽キセキ

「………………

 私の【強化魔法】をすべてあなたに使い、

 その効果が消失するまでの制限時間です

 その間、あなたのステータスや攻撃力、防御力は約18%強化されます

 私からの………せめてもの手向けです」

▽ホヨヨ

「………はい ありがとうございます」


 私は海月野ちゃんに向け、最大にプラスチャージしたありったけの【強化魔法】をかけました。これが、今の私の限界。『神々の寵愛』『聖女の再来』などと呼ばれてはいるものの……私自身はそんなに大層な存在などではありません。

 私は、私は……聖女の直系である神々々の家に生まれ、偶然に《天命の瞳》を持ち、【回復魔法】や【強化魔法】などが扱えるの……神様を信じ祈る15歳の子供です。本当はなんかじゃない。ただの……ただの弱い人間なんです。




 ―――だとしても。




▽キセキ

「………さあ、はしって!!」

▽ホヨヨ

「はいッッ!!!」


 白い防具を身に纏い、光の剣と盾を構えて彼は翔ける。【白光のゴブリンロード】はその存在に気付き、雄叫びをあげて4体の【ゴブリンガード】を呼び出します。同時にエリアの境界に強力な境界が張られ……彼以外の一切を拒絶するように区切りました。

 私よりも小さく細いその背中が、どんどん遠ざかっていく。それなのに……どうしてこんなにも眩く、大きく見えてしまうのでしょう?


 彼は翔けながら美しい歌声で魔法を唱えていきます。しかしそれは……今まで聞いた事の無い、不思議な詩でした。




『火よ猛れ 汝の臓をおこしたまえ 氷よ囁け 汝の耳を鎮めたまえ

 水よ濯げ 汝のかなを清めたまえ 雷よ瞬け 汝の瞳をあかしたまえ―――』




 火属性、氷属性、水属性、雷属性……4つの魔法球が彼の周囲に浮かびます。複数の属性魔法を扱えるだけでもすごいのに、それを同時に4つも?

 ……一体何が始まろうとしているのでしょうか。




『風よ踊れ 汝の香を伝えたまえ 地よ唄え 汝の声を届けたまえ

 光よ示せ 汝の脚を運びたまえ 闇よ包め 汝の涙を拭いたまえ―――』




 風属性、地属性、光属性、闇属性……さらに4つの魔法球が浮かびます。それらはやがて一つに混ぜ合わさり……煌々とした極光の玉となって魔力マナを彼の元へと集わせていきます。

 それは支配ではなく……まるで。あんなに和やかで整然とした力の流れは今まで見た事がありません。




『裂き 穿ち 震う 力の源よ 無有の夜に命を灯せ

 千代の静寂しじまに音色を捧げよ 久遠はてなそらに魂を掲げよ―――』




 ……今、彼の秘密が少し理解できたような気がします。何故あんなにもMAGの適性が高いのか。何故全ての属性魔法を扱えるのか。

 それは……彼がなんですね。大いなる源を信じ感じて、そばにいて……一緒に戦ってくれるから、瞳の光を失わずに微笑んでいられるのですね。


 私も……私にも出来るでしょうか? ……いえ、出来ます、やってみせます。もっと……もっと強く信じます。己の力と心に宿る光を。もっと感じます。天の奇跡を、地の恩恵を、人の希望を。それが偶然ではなく、必然になるように。私は……私が描く【聖女】を目指す。もう……決して憧れなんかで終わらせない!


 私の運命は、自分わたしの手で切り拓く―――!!




 ―――少しだけ彼は振り向き、そっと微笑みを返してくれました。




――― いこう、いっしょに ―――




▽ホヨヨ

「魔導究むるともの調―――応えよ!!

《アルテムレイ・オルヴァータ》ァァァ!!!!!」




 ―――接敵すると同時に極光が爆ぜ、大いなる破壊の奔流が【白光のゴブリンロード】と呼び出された【ゴブリンガード】を包み込みます。


 巻き起こる砂塵が鎮まった先に残された影は……2つ。海月野ちゃんとゴブリンロードです。周囲には【ゴブリンガード】の魔石が4つ転がっています。……思わず見惚れてしまいました。あまりにも長い……しかし余韻を残す間も無く、2つの影は激しく揺らいでぶつかり合います。


 火花を散らす互いの剣戟と、至近距離から放たれる攻撃魔法の容赦ない応酬。私の目でも追いきれないほど高速で変わり続ける戦局。……しかし彼はゴブリンロードをようです。

 《鑑定》によって敵や味方の最大HPに対する現在HP比率を見る事が出来るのですが、ゴブリンロードのHPは先程の魔法攻撃も加えて既に40%ほど減っているのに対し、彼のHPはほとんど減っていないのです。攻撃を受ければ、例え完全に防ぎきったとしても反動と衝撃で防御の上からHPを減らされる事は少なくないのですが……。つまり彼はあの猛攻を効率的にいなし続け、反撃までしているという事。本当に底知れぬ戦闘能力を持っているようです。


 ……ふと見れば、海月野ちゃんのレベルやステータスが事に気付きました。【フェイクコサージュ】……? 全く知らないマジックアイテムですが、【エディットオーブ】すら騙せるほど強力なものなのでしょう。本来のLvは14。Cクラスを越え、私達AクラスやBクラス相手でも通用しそうなほど。それにいくつかの希少な装備も持っているようです。なるほど、5F程度では全く怖くないのも納得です。聞きたい事が増えてしまいましたが……今は、今はただ彼の勝利を信じて祈る事しかできません。


▽白光のゴブリンロード

「ギャギャギャ! ギャギャギャ! ギャアー!!!」

▽ホヨヨ

「ハハハハハァァァーーー!!!」


 ……激烈な攻防の最中、お互いを認め合うように笑っています。男の子ってこういうの好きですよね……。でも、今はちょっとだけ分かる……ような気がします。


――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――


 ―――3分50秒。ついにゴブリンロードのHPが5%を下回ります。海月野ちゃんがトドメとばかりに左手で攻撃魔法を構え、それを読んでいたゴブリンロードはカウンターを……あ! 魔法を失敗してフェイントに……!? カウンターを受け流されたゴブリンロードに決定的な隙が生まれ、光の剣が砕けた鎧の隙間に深々と突き刺さり……


▽白光のゴブリンロード

「ギ………ギィ………」


 ゴブリンロードは魔物らしからぬ穏やかな笑みで勝者を称え、黒い光となって消え去ります。13F…いや、それ以上の大きさがありそうな魔石、換金用のマナ・トークンが6個、そしてエリアボスの宝箱とユニーク宝箱を落としました。

 エリアを隔絶していた結界が解除された瞬間、私は全速力で海月野ちゃんの元へと走り寄り……気付けば彼に抱き付いていました。強く……強く。


▽キセキ

「―――!! ~~~ッッ!!!」

*声にならない歓喜の音*

▽ホヨヨ

「………あっ… ごめんなさ……

 今………かなり疲れ………うわぁぁぁ~~~」

*すごい勢いで吹っ飛び押し倒される 7ダメージ*

▽キセキ

「…わっ………私まだ………!

 ずっと…ドキドキして…て……!

 やりましたね……! やりましたよホヨヨちゃん………!!」

▽ホヨヨ

*ぐったりしている*

▽キセキ

「………あら? あらあら!?

 や、やだ私ったら………! ご、ごめんなさい!

 どどど…どうしましょう!? ヒーラー! ヒーラーの方は………

 あっ! 私でした! すぐ回復しますから!

 ほら《ヒール》ですよ《ヒール》! お口をあーんしてください!」

▽ホヨヨ

「………あ~~~?

 ほ、ほげぇ~~~ッッ!!」

*口の中に回復魔法を撃ち込まれる 効果は上がらない*

▽キセキ

「………あっ!? ごめんなさい!

 【HPポーション】の使い方と間違えちゃいました………!

 う゛ぅ゛ぅ゛~~~…やだぁ…恥ずかしいです………!」

▽ホヨヨ

「だ………だいじょぶです………

 ホヨは大丈夫ですから………

 お゛…お宝の方を…ですね………」

▽キセキ

「………あっ

 は、はい………分かりました………」

*そっと体の上から降りる*


――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――


▽ホヨヨ

「ではまずエリアボスの宝箱から………」

▽キセキ

「ふふふ…《鑑定》はお任せください、のホヨヨちゃん♪」

▽ホヨヨ

「うぅ………バレてしまったのですよ………」*哀しそうな顔*


 ホヨヨちゃんが鉄製の宝箱を開けると……4つのアイテムが出てきました。3色の回復ポーションが1本ずつ、そして……【鼻メガネ】!?




消費/回復 【下級HPポーション】

消費/回復 【下級MPポーション】

消費/回復 【下級SPポーション】

装備/顔 【プラスチック製鼻眼鏡】(呪)

耐久:10/10 OP:1

・装備解除不能

・INT-30%




▽ホヨヨ

「わお! パーティー・グッズが出ました! よいですね~

 早速装備を…」

▽キセキ

「だ、ダメです! この鼻メガネ…呪われています!

 付けてしまうとステータスが下がって

 《解呪》するまで外せなくなりますよ!?」

▽ホヨヨ

!?」

▽キセキ

です」

▽ホヨヨ

「………要ります?」

▽キセキ

「………面白いので飾ってはおきたいかもしれませんが…

 欲しいかと言われたら…いらない………」

▽ホヨヨ

「はい」


 呪われた鼻メガネは厳重に保管する事にして、お次はユニーク宝箱ですが……

 【《白光》の宝物】? 文献にも見られない不思議な名称です。とにかく開けてみましょう。中から出てきたのは……5種類の装備品一式。白銀を基調とした明るい色合いの、所々に付いたレースやリボンの装飾がなんとも可愛らしい魔導士用軽装防具です。





装備/身体 【虹守の銀綺羅製白光ドレスローブ】

DEF:14 MDF:18

重量: 8 耐久:28/28 OP:1

・SEN+2%

・AGI+2%

・MAG+5%

・全魔法属性耐性+5%


装備/腕 【魔星の銀綺羅製白光グローブ】

DEF: 5 MDF: 8

重量: 4 耐久:25/25 OP:1

・SEN+2%

・AGI+2%

・MAG+5%

・MAG成長促進Lv1


装備/足 【静寂の銀綺羅製白光ブーツ】

DEF: 5 MDF: 8

重量: 4 耐久:25/25 OP:1

・SEN+2%

・AGI+2%

・MAG+5%

・消音Lv1


装備/頭 【溢れる銀綺羅製白光サークレット】

DEF: 5 MDF: 8

重量: 3 耐久:25/25 OP:1

・SEN+2%

・AGI+2%

・MAG+5%

・MP自然回復上昇Lv1


装備/背中 【☆銀綺羅製白光フードマント《謳う黎明》】

DEF:10 MDF:15

重量: 5 耐久:不壊 OP:4

・損傷しない

・SEN+2%

・AGI+2%

・MAG+5%

・チャージ速度上昇Lv1

・プラスチャージ限界突破Lv1

・魔力共鳴Lv1




 鑑定結果によると……この装備群は《白光》シリーズと呼ばれる、特有の効果を持つもののようです。【銀綺羅】なんて聞いた事がありませんが……「綺羅」とは上質な絹製品を指す言葉で、つまりは銀色の絹のように滑らかな素材なのでしょう。効果は「MAG+5%」。

 防御性能も優秀で、魔法をメインに扱うホヨヨちゃんとの相性はバツグンです。そして《白光》の二つ名は「SEN・AGI+2%」の効果を持ちます。この装備群にすべてこれらのステータス上昇が付いている理由ですね。

 加えて装飾語やエピックのエンチャント効果が付いて……まさにのような装備です!


▽キセキ

「………ふむふむ、こっちの装備は呪われていないし

 ホヨヨちゃんにもピッタリですよ

 早速装備してみてください!」

▽ホヨヨ

「そですか? ではでは………とりゃ~~~!!」

▽キセキ

「う~ん………なぜ着替えるだけなのに

 アイテムが光ったり消えたりするんでしょうね~………」

*観察している*

▽ホヨヨ

「………あ!? そう言えば装備変更ってつまり服を着替え………

 わ゛ぁ゛~~~!! そんなにマジマジと見ないでください~~~!!」

▽キセキ

「なるほど…ホヨヨちゃんは………と うふふふふふふ」

▽ホヨヨ

「オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛」*装備完了*


 《白光》シリーズを身に付けたホヨヨちゃんは……まるで天界から降り立った天使のような……或いは新雪が朝日に照らされた銀世界のような……とてもすごくて…すごい……


▽キセキ

「よいですね~」*思考放棄*

▽ホヨヨ

「よいですか~?」

▽キセキ

「よいですよ~」

▽ホヨヨ

「えへへ~~~」

▽キセキ

「…それじゃ、そろそろ皆さんがいる6Fに行きましょうか」

▽ホヨヨ

「は~い」




――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――




 ……6Fへの道中、決して口外しないのであれば……とホヨヨちゃんは自分の事について話してくれました。

1Fで魔物の友達が出来てアーティファクトを手に入れた事。

今日と同じように星付きの【ゴブリンロード】と戦った事。

Lvの高い友達と一緒にダンジョンで格上の魔物と戦い続けていたら

自分もLvがとんでもなく上がってしまった事。

これらは自分の家族とその友達しか知らず、

情報が洩れてしまうと悪意を持った人達がそれを狙って

自分や周囲に危害を加えてくるかもしれないから隠している事……。


▽キセキ

「………その…ごめんなさい

 そのような事情があったとはつゆ知らず…」

▽ホヨヨ

「いいんですよ~

 それにホヨはもう神々々さんの事を信頼してますから!」

▽キセキ

「………そう、ですか…

 それなら私の事を…と、名前で呼んでくれますか?」

▽ホヨヨ

「………えっ!? でも………」

▽キセキ

「………信じて…くださらないんですか………?」

▽ホヨヨ

「………

 分かりました、キセキちゃん!」

▽キセキ

「…はい、キセキです♪」


 前略、お母様。私にも男の子の友達ができました。可愛らしい……けれどもとても勇敢な、強くて優しい男の子。彼が隣にいると……なんだかとても安心して、いつまでも傍にいたくなってしまう……そんな不思議な友達です。草々。


――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――


 ―――6F、旅館『牡丹亭』。2~3時間ほど遅れてしまいましたが、なんとかチェックインを済ませます。館内のロビーではトライアルメンバーが寛ぎながらも私達を待ってくれていました。


▽クイン

「あ~~~んらまぁ~~~???

 随分とぉ? 遅いぃ? お帰りですわ…ね………!?

 ちょっと駄犬、なんか装備が丸ごと変わってない?

 ドえらい輝いてませんこと!?」

▽メイカ

「うわ~~~! すっごい! どしたのそれ?

 まさか本当に星付き見つけちゃったのかな!?」

▽キセキ

「ふふふ………そのです♪」

▽ホヨヨ

*ピースサイン*

▽アカネ

「わ、わ、わ………!!

 すっっっっっごく可愛いぃぃぃ~~~…!!」

▽クイン

「………というかさっきからあなた達…

 なんか妙に距離近くありません?」

▽キセキ

「あら………当然ですよ九印様

 だって私達………、ですものね~♪」

▽ホヨヨ

「ね~♪」

▽コガネ

「あら^~~~」

▽クイン

*すごい顔*

▽メイカ

「まあ割と似た者同士なところあるからね~………」

▽キセキ

「それじゃホヨヨちゃん…

 一緒にお風呂に入った後は………寝るまでずっとお喋りしましょうか♪」

▽ホヨヨ

「え!? それはダメですよキセキちゃん!

 ホヨは男ですし…もう高校生です!

 ちゃんと別々じゃないといけませんよ?」

▽クイン

んんん………!?!?!?」*ものすごい顔*

▽コガネ

「男………男!?!?!?」*ものすごい顔*

▽通りすがりの宿泊客

「え、あの子男なんだ!?」*ものすごい顔*

▽ハフリ

「草」

▽アカネ

「…そっか…男の子かあ………

 なんか私…ちょっとアイドルとしての自信なくなってきちゃった………」

▽アオバ

「………アカネ

 可愛い上にからお得、ですよ」

▽アカネ

「なにそれぇ………」*ぴえん*

▽キセキ

「む~む~! ダメですか~~~?」*無自覚なあざとい上目遣い*

▽ホヨヨ

「ダメです とても眠たいので

 お喋りもまた今度にしてください」

▽キセキ

*しょんぼりする*

▽クイン

「寝ますわ」*放棄*

▽メイカ

「キセキちゃん…なんか妙にテンション高くない………?」




―――そして、夜は更けていく……。

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