第31話 冒険者なので
――SIDE.煉国谷 九印
ダンジョンを上り続けて数時間。道中の魔物を鍛錬がてらDクラスとCクラスが蹴散らしつつ5Fに到着する。魔物の強さが一段階上がり、冒険者において最初の関門とも呼べる場所。Eクラスのメンバーはレベルだけなら適正帯だが……まだ装備の方が整っておらず、これ以上は危険だとやむなくリタイアを宣言した。武器は学園のレンタル品で、防具も鉄や革製の簡単なもの……確かにそれでは厳しいだろう。メインストリートにいる教師が到達階層の記録とリタイア宣言を受理し、同行して1Fまで送る事となった。
他クラスはまだまだ余裕がありそうだ……そう、Fクラスの海月野 火夜代も含めて。
▽コガネ
「あの………海月野ちゃん
ここはもうあなたよりLvの高い魔物しかいませんが………
その、怖くない…んですか?」
▽Dクラス生徒A
「そうだぞFクラス 無理すんじゃねえよ
遠足じゃないんだ…下手したら死ぬぞ?」
▽リョク
「………ん 魔物は常にレベル相応の
微弱とは言え、低レベル相手なら十分に恐怖心を煽られる
長時間受け続けると…心が擦り切れて壊れてしまう 危ない」
▽ホヨヨ
「へ~ そうなんですね~~~
ホヨはいつも家族や友達と一緒に格上の階層で戦ってるので
慣れてると思います~」
▽クイン
「ふーん………まあ、確かにFクラスにも
まさか見てるだけじゃないわよね?
そんなふにゃふにゃしただらしない顔して…本当に戦えるのか怪しいのだけど」
▽アカネ
「わわわっ………
煉国谷様、まさかこの子を魔物と戦わせる気じゃないですよね…?」
▽クイン
「………もちろん、そのまさかよ?
ほら駄犬! 危なくなったらワタクシ達が助けてあげるから
その辺のゴブリン共にケンカ売ってきなさい!」
▽ホヨヨ
「えー! そんないきなりー!」
▽メイカ
「がんばれー」*棒読み*
▽ホヨヨ
「むむむぅ~………分かりましたですよぉ
それじゃあちょっと探してみますね………」
▽ハフリ
「ん~~~? 別に探知なんてしなくても
その辺にいっぱいいるじゃん 何探してんの?」
▽キセキ
「………まさか…星付きですか?
アレは1週間に1体現れるかどうかの魔物ですよ?
それに他の魔物と見分けなんて付かないですし…」
▽ホヨヨ
「にゅにゅにゅにゅにゅにゅ……………あ!!!
あっちに良い予感がします!
早速行ってみるのですよ~~~!」
▽キセキ
「あらあらまあ…仕方のない子ですね
ここは私が同行しましょう」
▽クイン
「ちょっと輝世姫様! そんな勝手に決めて………
ああもう! 二人して何も言う事聞いてくれないんだから…!」
なにかを見つけたらしい駄犬が武器を取り、モチモチと6Fへの最短ルートから外れたエリアへと歩いていく。穏やかに笑いながら犬の散歩のようにその背を追っていく輝世姫様。
……数分後、その輝世姫様から端末にショートメッセージが送られてきた。
<神々々 輝世姫>
海月野ちゃんはこの付近のゴブリン相手なら問題無く戦えるようです。
良い予感…というものはもっと奥のエリアで感じるそうなので、
私達はもう少し奥地に向かいます。 皆様は先に上がっていてください。
予定通り今日のトライアルは6階層で一旦休止とします。
Cクラス、Dクラスの方々全員分の宿泊代も既に出しておきましたので、
旅館『牡丹亭』にて各々チェックインをお願いいたします。
▽クイン
「…スゥ………
はぁ゛ぁ゛ぁ゛~~~~~~~………」
*長い溜め息と共に眉間を指で押さえる*
▽Dクラス生徒B
「………なんか…本当に犬の散歩みたいだな………」
▽Dクラス生徒C
「言うなよ………神々々様に失礼だろ………」
▽アカネ
「わあ…私達の分のお宿まで取ってくれてるなんて………
本当に何てお礼を言ったらいいのか………」
▽クイン
「そこは貴族の特権ですわ
お金は留めるより流すべきものですから…」
▽メイカ
「そうそう! お金と言ったら…
ちょっと値は張るけどいろんなランクがあって品質は保証するから
今度見てってくれると嬉しいな~ なんて!」
▽アオバ
「…この二本の小太刀はMAQ製
ランクは低いけど………とっても丈夫で切れ味の保ちが良い、です」
▽メイカ
「わぁ~ホントだ! 使ってくれてありがと~!
同社装備の調整や修理なんかは直営店とかでやってるからね~」
▽ハフリ
「アタシは【クリエイター】だから
皆の装備を作ったり直したりしてあげたいんだけどね~
まだまだ《製作》や《修理》のレベルが低いから
ちゃんとしたプロにやってもらった方が確実なんだよね~
部活で地道に鍛えてくしかないな~」
▽クイン
「わたくし達はまだ高校一年生ですもの
そこまで焦る必要はありませんわ………と
ここの丁字路を左ですわね あと数十分ほどで6Fですわ
格下のゴブリン相手とは言えあまり油断しすぎないように」
――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――
――SIDE.神々々 輝世姫
―――流れるような急所への突きと、我が身の如く操り解き放たれる強烈な魔力を宿した破壊の矢。立ち塞がる魔物達……5~6体いたはずのそれらを、いとも容易くすべて消し去ってしまわれました。どうにもただのLv3とは思えない手馴れた動きです。
以前スカウトに際して彼の身元調査を行いましたが、父方・母方共に冒険者ではあるものの特筆する所の無い平民の家系との事。しかし今目の当たりにした光景は……彼に秘密がある事を予感させてしまいます。それは彼が持つ固有アビリティ【★天魔特異点】か、はたまた別の何かか……嗚呼、もっと
▽ホヨヨ
「え~と………確かこの先に…ありゃりゃ
ここから先は立入禁止みたいです
もしかすると…【ゴブリンロード】だったのかもしれませんね~
残念ですが戻りましょう」
▽キセキ
「…5Fの危険区域でしょう? 大丈夫ですよ 私が付いてますから
【ゴブリンロード】程度なら私一人で倒せちゃうんですからね?」
▽ホヨヨ
「えー! でもホヨは………
む~ ちょっと覗くだけなら………」
▽キセキ
「ほらほら♪ 行きましょう行きましょう」
▽ホヨヨ
「わぁぁぁ~~~! 分かりました!
だから後ろから押さないでくださいぃ~~~!」
――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――
5Fの【ボスエリア】。魔物に気付かれぬようそっと中を覗いてみます。……いました、エリアボスです。数十mは離れているはずなのにまるで目の前で対面しているかのように濃密な威圧感を放っています。
全身を青白い重厚な鎧で固め、同じく青白い鋭利そうな大太刀を肩に携えた1.6mほどの人型の魔物が手頃な岩に腰掛けていて……あれ?
【ゴブリンロード】はマントを羽織り杖を持った術士系の魔物だったはずですが……何かがおかしいです。
私の持つ固有スキル《天命の瞳》は主に3つの用途があります。
1つ、相手の遠い未来を見通す《未来視》。
2つ、自身に降り掛かる直近の未来を視て、それらに対処する答えを導く《予知》。
3つ、対象の今を詳細に暴き出す……《鑑定》。
早速正体不明の魔物に《鑑定》として使ってみましょう。
―――――――――――――――――――――――――
【Lv13:☆白光のゴブリンロード】
種族:ゴブリン
HP:360/360
MP:500/500
SP:450/450
STR:40 VIT:40 SEN:45
AGI:55 INT:50 MND:50
MAG:50
ATK:20 DEF:18
MAT:15 MDF:12
・アビリティ
【☆領域展開・決闘】
└戦闘制限:1人(ファミリア使用不可)
【☆ラージ・ボス】
└HP・MP・SP4倍
【Lv8:武器マスタリ・刀】
【Lv8:防具マスタリ・重装】
【Lv8:光属性魔法】
・スキル
《☆召喚:ゴブリンガード+》
└Lv7:ゴブリンガード×3~4
《疾風斬》
《円舞斬》
《光輝斬》
《セイントアロー》
《セイントボルト》
・属性耐性
斬:+10% 突:+10% 衝:+10%
火:± 0% 氷:± 0% 水:± 0%
雷:± 0% 風:± 0% 地:± 0%
光:± 0% 闇:± 0% 無:± 0%
―――――――――――――――――――――――――
同時に《天命の瞳》は私に告げます。『手を出すな』、と。あれを相手にするには私でも分が悪すぎるようです。
▽キセキ
「………ユニーク…モンスター………
それも二つ名付きですよ
良い予感とはあながち間違いではなかったようですね
ですが…本来のLv8ではなく13もありますよ
それにエリアに入って戦えるのは1人だけみたいです
私でも相手になるかどうか分かりません…
絶対に手を出してはいけませんよ?」
▽ホヨヨ
「はわぁ~ そんなに強そうなんですか?
それなら諦めるしかないですね~
いやー残念ですー」
*ソワソワしている*
▽キセキ
「 … … … 」
……一つ、確信できた事があります。
▽キセキ
「海月野ちゃん あなたはウソをつくのがヘタですね
レベルが10も離れている…それもボス級の魔物が近くにいたならば
立って歩く事すら困難なほどの恐怖感があるはず
ここまでその威圧が漂ってきているはずなのに、です
ですがあなたは………あなたの眼には一切の恐れが見えない
それどころか闘志の熱すら宿っている
さすがにもう誤魔化せませんよ
………あなたはあの魔物と戦おうとしているんですね?」
▽ホヨヨ
「えっ!? あ、あはは…イヤですねえ
そんな事はベツに……あっ
ほひ~~~ほうへふ~~~!!
ほへにゃはい~~~~~!!」
*ほっぺを伸ばされる 1ダメージ*
… … …
▽ホヨヨ
「はい ホヨも戦えない事はないです
ですが………勝てるかどうかは別です
ホヨはスピードと魔力だけが頼りですが…
感覚的に見たところスピードは互角のようですね
明確な優位性が潰されたとあれば、あとは純然たる実力勝負となります」
▽キセキ
「………ならば…それならば何故、
そんなにも柔らかく自然なままに笑っていられるのですか?
そんなの…死地に赴く者の顔ではありません
怖くないのですか? 後悔などしないのですか?
家族は? 友達は? 残される者達の事を考えないのですか?
本当に…本当に命を懸けるべきものなのですか?」
▽ホヨヨ
「………怖くない訳ではありません 後悔するかもしれません
ですが…それを乗り越えた先に、待っているものがあるんです」
『ホヨは冒険者なので』
海月野 火夜代。そこでそれはずるいですよ。冒険者とは……富や力、名声を求めて危険に自ら足を踏み入れる者達。そして時に儚く、あっけなく命を落としていく者達。
私は貴族で、突然「特別な存在だ」となんだと持ち上げられて、ずっと守られてばかりで、危ない事も出来なくて……冒険なんてさせてもらえないんです。私は冒険者になんてなれないのに。あなたは私にそんな事を言うんですね。
▽キセキ
「………1回だけですからね?
危ないと思ったら…すぐに戻ってきてください」
▽ホヨヨ
「………はい 分かりました
…これからホヨが起こす事は…
ナイショにしておいてほしいです」
……ならば少しだけ。特別な存在だからこそ出来る事を……あなたに。
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