第29話 クエストラリーに向けて
――SIDE.明都院 割美
▽千堂先生
「学園より
『クラス対抗クエストラリー』についての概要が通達されました
これから皆さんに資料を配りますね~」
▽Fクラス女子生徒
「………ついに来るわね…初めての学園行事が………」
▽Fクラス男子生徒
「Eクラスは意外と静かで少し拍子抜けだったな
もっと邪魔してくると思ったんだが………」
クラス全体が少し騒がしくなってくる。私はゲーム知識で何をするかは大体頭に入っている……が、一応配られた資料に目を通してみよう。
『クラス対抗クエストラリー』は以前先生が話したように、学年とクラス毎に分かれてパーティーを組み、「指定魔物の討伐」や「指定アイテムの収集と提出」などギルドが委託し冒険者に斡旋する【クエスト】と同じ形式で学園から出される課題に挑み、クリア時に貰えるポイントを稼いで合計値を競う……というものだ。期間は1週間。その間学園での授業は中断されるので、全員がダンジョン探索に専念できる。
クエスト受注は一度に1件まで、受注中のパーティーメンバー変更は反則となりクエストが即時破棄される。より上の階層で難しいクエストを少人数で達成するとポイントが高くなる。
またクエスト達成とは別枠に【踏破トライアル】【総獲得魔石量】【最大魔石格】の3部門があり、上記のクエスト達成ポイントに合算して最終的なスコアを競うことになる。
【踏破トライアル】は「どこまで上層に行けるか」というチャレンジ部門で、選ばれた者はクエストを受注出来ず、ひたすら上を目指しリタイアするまでに到達した階層に応じてポイントが加算される。最低1人以上選出しなければならず、効率低下の兼ね合いから選りすぐりの少数精鋭で挑むのがセオリーだが、個々の強さが物を言うので下位クラスは捨て部門となっている。Fクラスはレベルが低い者を数人だけ捧げ、他の部門でポイントを稼ぐ方がいいだろう。
【総獲得魔石量】は催事全体でクラスメンバーが取得した魔石の総量を集計し、量や質に応じて最終日にポイントに加算される。【踏破トライアル】以外の参加者は必ずクエストを受けなければいけない訳では無く、ただひたすらに魔物を狩っていてもいいが、クエストと魔石収集を並行して行う方が効率的だ。下位クラスが上位に挑む為に最も重要とされる項目でもある。
【最大魔石格】は討伐して取得した魔石の格……大きさや質をクラス全体でまとめてランキング形式で集計、上位1~5位の魔石を取得したクラスにそれぞれボーナスポイントが加算されるオマケ要素だ。難易度の高いクエストは同じ階層でも強い魔物を対象にしたものが基本なので、取得できる魔石の格も高くなる。高難易度クエストに挑む導線の一つとして用意されているが……下位クラスにはやはり縁が無い。
ホームルームが終わり、クラス委員長となった芽木さんと定村くんが教壇に立つ。クエストラリーのミーティングだ。
▽イオ
「………よし 早速ミーティングを始めよう
芽木さん、よろしく頼む」
▽スウト
*クイと眼鏡を直す*
「…クエストリレーにあたり、
クラス全体のクエスト達成スピードを第一に考えて
私達集中強化メンバーをリーダーとした
4~5人パーティーを8~9組構成する予定です
メンバーは自由に決めても構いませんが………
前衛と後衛のバランスが取れているものが望ましいです
これからの1ヶ月はラリー本番を想定して
チームワークの強化もしていきましょう
それと………明都院さんには基本的にソロで行動し、
出来るだけ上階層・高難易度のクエストに挑んでいただこうと思います
ハズレくじの【踏破トライアル】参加者は………
メンバー確定〆切である開催日の1週間前…その3日前である
10日前時点で最もレベルの低い人からの抽選を予定しています
リタイア後は【総獲得魔石量】と【最大魔石格】も集計対象外となるので
自由時間として有意義に過ごしてください
…現時点での決定事項は以上です」
▽イオ
「…捨てるとは言え獲得ポイント量の比重は大きい
それに低レベルのまま上層に挑む事から非常に危険な種目だ
下手をすれば命にも関わる………決して手を抜かないように
さて…今日はこのくらいでいいだろう 解散だ」
……大方予想通りの作戦だ。他メンバーに比べレベルが抜きんでている私を低階層に縛るよりは、ある程度自由にしてもらった方が効率が良い……というのは理解出来る。【踏破トライアル】にソロで突っ込むよりクエスト達成メンバーに組み込んだ方が最終的に得られるポイント量が多いという計算もあるだろう。べ、別にぼっちじゃないんだからねっ!
さて、そんな問題の【踏破トライアル】だが……個人的にはホヨヨちゃんにハズレを掴ませソロで投入させたいという思惑がある。【フェイクコサージュ】によって学園のデータベース上ではLv2と偽っているが、フタを開ければ「不自然に高いレベル」「脅威的な戦闘センス」「詳細不明の固有アビリティとスキル」「アーティファクト級の装備」「ファミリアの保有」などなど他者に知られたくない機密情報が盛り沢山。彼は私と違いぼっちになる必要があるタイプの子なのだ。Fクラスの友達にもバレないようにしないといけない。
決してイジワルで孤立させようとしている訳ではないのだが……とは言えなんかこう、良心の呵責がある。偽装を外せる地盤が整うのはまだまだ先だ。申し訳ないがぐっと堪えてもらいたい。
――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――
ダンジョン14F。この付近の魔物……それも格上になると不意を突いても一撃で倒せる事が少なくなる。スキルでの攻撃を交えつつ3~5回ほど有効打を与える必要があり、効率が悪い。しかし強敵とより長く戦闘行動をする分「鍛錬」になるのでCLv以外の成長に向いているのだ。
ステータス固定値を鍛え、ジョブを極めて有用なアビリティやスキルを取得し補正によるステータスボーナスを多く得たならば、同レベルの冒険者よりも総合能力が高くなる。ただレベルを上げるだけでは本当の強さは得られない。相応に鍛えた地力やアビリティ、強力な装備……様々な強化要素を揃えてこそ真に強くなりえるのである。内なるワルミが事あるごとにサボって楽をしようと唆してくるので尚更気を引き締めなければ。
▽ワルミ
「と言う訳でCLvが付近に釣り合うまでは
ジョブレベルとアビリティの鍛錬を意識的に行っていきますわよ
MPやSPの消耗が大きくなるので休憩時間も多めにしますわね」
▽ホヨヨ
「あい~~~」
*両手に持った扇子の先から水を出す*
▽ジェリトワーヌ
「アバババババババ」
*寝転んだところに水をひっかけられている*
▽ワルミ
「んんんんん【宴会芸】ぃ~~~↑↑↑
変なのを手に入れたせいで面白マスコット化が止まりませんわ………」
▽ホヨヨ
「とりゃりゃ~~~」
*水をかける*
▽コボルトリーダー
「???」
*水をかけられて困惑している*
▽ワルミ
「コラーーーーーッッッ!!!」
――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――
▽イオ
「………さて、予定していたクエストラリーの10日前だ
Fクラスメンバーはほぼ全員がLv4~6となったが……
残念ながら1名、間に合わずLv3で止まってしまった人がいる」
▽ホヨヨ
「ホヨですよ~~~」
▽イオ
「いくら作戦とは言え………嫌な役どころを押し付けるようで申し訳ない
…1ヶ月で1上がっているならば順調だ どうか気に病まないでくれ」
▽ホヨヨ
「なんの! ホヨにお任せください!」
▽スウト
「………あの ホヨヨちゃん…
ホントに無理しないでね…?
なんか私どうにも心配で………」
▽ルウク
「さすがに1Fじゃポイントは入らないみたいだからな…
2Fには上れるだろうし、出来れば3Fだな
メインストリートから出る必要は無いぜ」
▽シン
「ウチらクラゲっちが戦ってるとこ
授業の地稽古以外で見た事無いからさぁ~…
どんな風にやってんのか想像もつかないワケよ」
▽ホヨヨ
「だいじょぶです!
ホヨはなんと攻撃魔法が使えます!」
▽ワルミ
「いざとなればわたくしがこっそり道を作っておきますので…」
▽イオ
「………うむ よろしく」
……と、クラスの皆から心配されている頼りなさそうなホヨヨちゃんであるが、ここで偽装を解いた本来のステータス(補正込み)を確認してみよう。
―――――――――――――――――――――――――
◇海月野 火夜代(みゆえの ほよよ)
CLv:13/9級
JLv:5/シーフ
HP:64/64
MP:182/182
SP:116/116
STR:19 VIT:25 SEN:59
AGI:58 INT:19 MND:55
MAG:89 AC/SC:5/9
・アビリティ
【Lv20:★天魔特異点】
【Lv12:無属性魔法】
【Lv6:宴会芸】
【Lv7:軽量化】
【Lv3:探知マスタリ】
【Lv1:ギミックマスタリ】
・スキル
《マジックアロー》
《マジックスフィア》
《アトリビューション》
《ブレンダリーエレメント》
《マナ・リカバリー》
《マナコンバータ・シールド》
《◇マナ・スナッチ》
《◆ファミリア:プリンセスジェリー》SC2
《威嚇》SC0
《初級鑑定》SC0
《パントマイム》SC0
《ジャグリング》SC0
《水芸》SC0
《火吹き》SC0
《狸寝入り》SC0
《皿回し》SC0
―――――――――――――――――――――――――
確かに以前よりレベルの上がりは悪くなった。が、それでもこの1ヶ月で3も上昇している。【フィーバーエリア】は一般エリアと見分けが付きにくいはずなのだが、ホヨヨちゃんの探知能力が異常に高くなんとなくでアタリを見つけてしまうので予定以上に捗ってしまった。もちろんアビリティの鍛錬などもしっかり行ったので相応に強化されている。だがそれでも同学年のA・Bクラスには及ばない。学園のデータベースによると彼らは現時点で平均Lv16~18程度あるのだ。
ステータスに関しては……う~む、相変わらず極端に命の軽いマジカル特攻スタイルだぁ……。だが彼の特長を十全に活かせば、Lv20前後の魔物が相手でも互角以上に戦えるだろう。Lv13の一般的な冒険者はMAGが30、他は37程度が平均値となっているので、いかに彼のステータスが尖っているかがよく分かる。
そんな彼のメインウェポンである魔法に関するスキルも着実に揃ってきている。
《ブレンダリーエレメント》は攻撃魔法スキルに複数の属性を持たせられるようにするスキル。消費MPは増えてしまうが、《アトリビューション》と組み合わせる事で複数の弱点属性を持つ魔物により有効な攻撃を与える事が出来る。
《マナ・リカバリー》はSPを消費し自身のMPを回復する後衛にピッタリの便利スキル。
《マナコンバータ・シールド》は受けるHPダメージを一定割合MPで肩代わりする効果を一定時間自身に付与するスキル。HPの低い彼には非常にありがたい保険機能だ。ただしダメージを肩代わりした際にMPが尽きてしまうと無防備になってしまうので非常に危険。
《◇マナ・スナッチ》は敵を攻撃すると対象のMPをわずかに奪い取るパッシブスキル。あらゆる攻撃に追加効果として適用されるので、フォトニックソードで近接攻撃も行うホヨヨちゃんとの相性は抜群だ。
あとはスキルコストを消費しないSC0のスキル群だが……はい、【宴会芸】のスキルが大量に増えていますわね。ちなみにスキルを使用すると小道具類はMPを消費して無から生成し、SPを消費してネタを披露する。ちゃんとスキルとして判定されているらしく、小道具を使うものはDF外では扱えない。知らんがな。
……とまあ、【宴会芸】部分を除けば能ある鷹なのでしっかりと爪を隠してもらいたいのだが……3Fリタイアという不名誉なレッテルを貼られてしまえば、Eクラスをはじめ上位クラスからどんな扱いをされるか想像に難くない。極端に低いSTRとVITのせいで、表面的な強さが分かりづらいというのもある。私達がフォローするにもやはり限界はあるだろう。どうしたものか……。
ともかくラリー本番まであと10日。最後まで気を抜かず鍛錬に励むとしよう。
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