第28話 駆け抜けろ、15F
――SIDE.明都院 割美
▽シャウトゴートA
「マ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!」
▽ホヨヨ
「ホアアアァァァァァァァァ!!!」
▽シャウトゴートB
「ワ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!」
▽ジェリトワーヌ
「モチイイイィィィィィィ!!!」
▽シャウトゴートC
「ガスパチョベロンベロン」
▽ワルミ
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛
やっかましいわやっかましいですわぁぁぁ!!!」
▽シャウトゴートD
「シ゛カ゛テ゛シ゛タ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!」
▽ワルミ
「ヤギじゃねーか!!!!!」
12F……通称「叫びの森」。
この階層は広大で薄暗い森林地帯になっていて、メインストリートは無くセーフティゾーンも少ない。壁のように遮る木々の間は割と自由に通り抜けられるが、その茂みに魔物が潜んでいる事も多い為注意が必要だ。
そんな12Fの代表的な魔物である【Lv12:シャウトゴート】。体長1.5~6mほどのヤギで、とにかく叫びまくるのが特徴だ。聴覚を痺れさせ運動能力を鈍らせてくる上にこの叫び声によって周囲の魔物を呼び寄せてしまう厄介な性質を持つ。角の振り回しや後ろ足の蹴りが強烈なので側面からの攻撃が望ましい。
原作では効果音やBGMなど音声データの同時再生数に上限があり、またゲームとして極度の騒音は問題となる為【シャウトゴート】の叫び声は動物NPCの鳴き声を使いまわしたAGI減少のデバフスキルだった。
……が、これが
冒険者の間だと12Fでの狩りは圧倒的に不人気なのも納得である。だってうるさいから。こんな所早く通り抜けてしまおう。というかそこの二人も対抗して叫ばないでくださいまし! 余計うるさいですわよ!
▽ホヨヨ
「ホヨビィィィィィィィィィィィィィムッッッ!!!」
▽シャウトゴートA~D
「エン゛ッッッ」
▽ワルミ
「スフィアじゃねーか!!!!!」
ホヨヨちゃんが一まとまりになった【シャウトゴート】に向けて大きく【プラスチャージ】した火属性の球型範囲攻撃魔法、《ファイアスフィア》をブン投げてまとめて焼き払う。半径5mほどの球状に広がる破壊の軌跡……格上の魔物すら一撃で倒してしまうほどの恐るべき威力。絶対に巻き込まれたくない。
魔法には【プラスチャージ】というシステムがあり、発動準備が完了した魔法に追加でMPを消費し魔力を込め続ける事で、魔法の威力や効果範囲が増大するというものだ。この世界でも広く認知されている魔法の特長である。攻撃魔法だけでなく、回復や補助など様々な種類の魔法に使えるので攻撃役以外にも有用だ。
ただしチャージすればするほど消費MPに対する強化量は下がっていき、最終的に2.5倍辺りで打ち止めとなる。それにプラスチャージ中は隙だらけで、行動を阻害されたりとっさの防御や回避などで発動に失敗した場合すべて無駄になってしまうというデメリットもある。
逆に言えばしっかりと守られた後衛によるプラスチャージ魔法は相応に主力となりうるのだ。しかしMPの枯渇も早くなるので濫用は禁物。何事もバランスよく。
私はこのプラスチャージシステムが地味に好きだ。切り札や必殺技のようなロマンを感じるからね。ちなみに武器スキルにもプラスチャージ可能なものが存在し、威力や範囲などを増大させる事が出来る。溜め攻撃はロマン……そうだろう、
▽ホヨヨ
「う゛ぅ~~~……… ヤギさんの声で頭がクラクラします~」
▽ワルミ
「ホントですわ………13Fはレベル的にはキツいですけども…
少なくともココより静かなので格段にマシでしてよ
さっさと上がってしまいましょう」
▽ジェリトワーヌ
「ワルミ ガスパチョ テ ナンダ?」
▽ワルミ
「スペインやポルトガルが発祥の冷たいスープですわね……
………あ!? つまりあのヤギ喋ったって事ですの? なんで?」
――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――
13Fへの階段を発見し、駆け足で上がっていく。ここから15Fまでは3~5Fにいたゴブリン軍団とほぼ同じ組み合わせの【コボルト】シリーズで構成されている。
13Fは【Lv12:コボルト】と【Lv13:コボルトチーフ】、14Fに大型の【Lv14:ホブコボルト】が追加。15Fでは【Lv15:ジョブ持ちコボルト】に【Lv16:コボルトリーダー】が登場。
さらに中ボス格として【ビッグウルフ】に騎乗した【コボルト】の【Lv16:コボルトライダー】が現れる。ウルフの機動力とコボルトの武器攻撃の組み合わせが強力だが、ウルフとコボルト2体分の経験値やドロップが手に入るのでちょっとだけお得。〆にエリアボス枠として【Lv18:コボルトロード】。
【ゴブリンロード】と同じく取り巻きを召喚する固有スキルを持ち、本人も多彩な魔法や武器スキルを自在に扱う超強力な魔物だ。基本的な仕様はゴブリンとほぼ同じだが、レベルが上がり純粋に難易度が上がっている。今の私達では到底敵わないのでこの辺りはもっと強くなってからにしよう。
……今更だが、何故リスクを冒して13Fという格上の階層に来たのか。10Fや11Fの方がいいのではないか?
お答えしよう。「意外とやりやすいから」。
この近辺は前述の通りゴブリン軍団とほぼ同じ構成をしていて、私達はゴブリン軍団と3名という少人数で散々やりあったので対集団戦に慣れている。この経験を存分に活かすという訳だ。
試しに13Fでコボルト達と戦ってみたが……純粋なパワーで挑んでくる10F・11Fの動物系魔物と比べて小手先のテクニックを多用してくる為、相手の動きに合わせて間合いの外から魔法を撃ち込んで崩し、こちらのペースに巻き込んでしまえばレベル差をあまり感じる事もなく割と簡単に攻略できた。
11F以上には他の場所より魔物の出現間隔が短く出現数も多い【フィーバーエリア】という効率の良い狩場も存在し、そこでは以前解説した【スポーンキル】が有効。出現直後の無防備な数秒間に致命傷を与えれば安全に倒せるので精神的にも余裕ができる。エリアは24時間毎にランダムに移転するので毎回探す必要があるが、これはゲーム知識でありこの世界の冒険者にはほとんど認知されていないようなので遠慮なく居座らせてもらう事にしよう。
もう少しレベルが上がったら一旦10Fに戻って腕試しにエリアボスへ挑むのもいいかもしれない。5Fのような事故が起こらない事を願う。
――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――
▽ワルミ
「さて………
帰りの時間もありますし今日はここで切り上げましょうか」
▽ホヨヨ
「それなら15Fまで行ってポータルを見つけましょう!」
▽ジェリトワーヌ
「ウルサイ ノハ ヤーヤー デアル カラシテ」
▽ワルミ
「確かに12Fを通るくらいなら15Fから帰った方がよさそうですわね…
最後にもう一仕事いきましてよ! オーッホッホッホッホッホ!!」
Lv10~11の私達から見ればかなり格上であるはずの【ホブコボルト】や【ジョブ持ちコボルト】もあっさりと制し、阿吽の呼吸で流れるように道を切り拓いていく。
1ヶ月前と比べて私も動きが見違えるように良くなった。視界の端にチラリと映っただけの動きにも対応できるようになり、効率的な体捌きによって連戦しても息が上がりにくくなった。基礎的な身体能力も鍛えられ、ぷよぷよしていた二の腕やお腹、ふともも周りは脂肪から筋肉に置き換わり引き締まってきているのが実感できる。このまま重装備でドカドカ走り回っていればその内腹筋とかも割れてくるんじゃなかろうか。マッシブでビッグなお嬢様かあ……ニッチだなあ。
さてさて、魔石やコボルト種特有のややレアなドロップである【
【犬魔鋼】は単品だと脆い金属だが、鉄や銅、銀などと合わせて【犬魔合金】にすると強力になる。10F以降に挑む中級冒険者達にとって犬魔合金製武具は一つの目標となっているが、一つの鉱石から少ししか採れずかなりの量の鉱石と魔石エネルギーが必要となり、そもそも扱える鍛冶師自体も少なくそれなりに有名な人物に依頼しなければならないので製造依頼費もかなり高い。タタラさんは果たしてどうだろうか。相談してみよう……
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