第27話 ケサラン・パサラン

 そんなこんなであっという間に1ヶ月。

 Eクラスからの嫌がらせは何度かあったものの、特に問題無くダンジョン探索を進めていくことが出来ました。転移ポータルによって狩場への到達が格段に早くなったので、土日のみの探索だけで家族全員のレベルが2上がりました。よいですね~。平日はジェリちゃんとのペアで挑んでいるのですが、【ゴブリンロード】や少し格上の魔物ともしっかりと戦っていけます。

 順調にレベルは上がっていき、「序盤でもレベルは1ヶ月に1程度しか上がらない」という常識を覆して、ジェリちゃんはLv11、ホヨはなんとになってしまいました。【ビギナー】のJLvも最大値の10になり、アビリティとスキルの枠も増えました。

 お姉ちゃんから「バトルのペースが早すぎて追い付けない」と言われてしまいましたが……う~む、ホヨ自身ではよく分からないですね。


 さて、ビギナーがJLvMになったという事は……そう、ジョブチェンジです! そう言えば【魔導士連合】【聖女教会】【冒険者産業組合】のお三方からスカウトを受けていたんでしたっけ。5つある下級ジョブ、【マジシャン】【クレリック】【クリエイター】【ファイター】【シーフ】から一つずつ順番にメリット・デメリットを考えていきましょう。


 【マジシャン】になればMAGと攻撃魔法がさらに強化され、魔法に関するアビリティやスキルも習得して純粋なパワーアップが出来ます。ただし防御能力は全く上がらないので油断は禁物。【魔導士連合】、いけます。


 【クレリック】になればMNDと魔法によるサポート能力を高めて後衛として万能的な立ち回りが出来るようになりますが……肝心の【回復魔法】や【強化魔法】をまだ習得していないので見送りです。【聖女教会】、無理そうです。


 【クリエイター】になればSENが高まり装備品の製作や修理、分解が得意になります。両親の仕事をお手伝い出来るようになるにはまだ早いですが、いずれは工房を継ぐのもいいかもしれませんね。ただしダンジョン探索における戦闘能力はほぼ上がりません。JLvMになると《初級鑑定》の上位互換である《下級鑑定》を習得できますが……今は戦う為の力が欲しいのでまだいいかなぁ。【冒険者産業組合】、微妙です。


 【ファイター】はSTRとVITが高まり前衛として攻防バランスよく強化されるのですが……成長率が低すぎて欠点を補う事すら出来ません。長らく縁のないジョブになるでしょう。南無~~~。


 最後の【シーフ】ですが……ステータス上昇補正はSENとAGI。SENはもちろん、意外とAGIの成長率も高かったので適性はあるようです。罠の解除や周辺の探知といった探索系アビリティとスキルを積むことで、【クレリック】とは異なる方向でのサポートが出来ます。もちろんソロや少人数での探索でも有用です。

 SENとAGIは攻撃や回避に幅広く影響するので、攻防バランスよく高められるのも魅力です。ただし攻撃能力を直接高められないので習得した攻撃系アビリティだけで何とかしないといけません。


 ホヨもワルミちゃんと同じく最終的に全ての下級ジョブをマスターするつもりなので、決めるのは順番だけです。最初になるのは【マジシャン】か【シーフ】の二択ですが……せっかくなのでホヨはこの【シーフ】を選びますね!

 JLvMになると魔物や敵意を持つ冒険者からの敵対心を減少させるパッシブスキル《◇気配遮断》が習得できます。気付かれにくくなる訳ではありませんが、これを使えば魔物への不意打ちをしやすくなりますし、Eクラス生徒からの嫌がらせも減るかもしれません。


――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――


▽チリリ

「………そう言えばホヨちゃん

 最近冒険者の間で『幸運の白毛玉ケサラン・パサラン』っていう

 ちょっとしたウワサが話題になってるのは知ってる?」

▽ホヨヨ

「なんですかそれ~?」

▽チリリ

「白を基調とした装備のふわふわした幼い子供みたいな冒険者が

 5F~10Fの奥地を徘徊してる…っていうものよ

 でもメインストリートにはほとんど姿を現さないし

 足も速くて少し目を離すとすぐにいなくなってるから

 本当に人間なのか分からなくてちょっと不気味なんだって

 でもその姿を見た冒険者は探索中にラッキーな出来事に遭遇した…

 という妙な報告が相次いでるわ

 それをとある民間伝承になぞらえて広まってるってわけだけど……」

▽ホヨヨ

「へ~ そうなんですね~」

▽チリリ

「ただって………もしかしなくてもホヨちゃんの事かな~って

 ラッキーな出来事についてはよく分からないけど、

 装備は白色が多いしエンチャントやアビリティで体が軽くなってるし…

 転移ポータルを使ってダンジョンを出入りしてるから

 メインストリートにもあまり用が無いでしょう?

 なんだか変に目立っちゃってるみたいね…

 装備の染色は家の設備で出来るから地味な色合いに変えてみたら?」

▽ホヨヨ

「えー! ホヨはピカピカでキラキラがいいです~!」

▽チリリ

「じゃあせめてあまり顔を見られないように

 フード付きマントでも羽織っておいた方がいいわよ…?」

▽ホヨヨ

「あい~~~」


 言われてみれば……魔物からドロップした装備品でホヨが使えそうなものは白やパステルブルー、淡いピンクなどを基調とした明るい色合いのものが多めでしたね。ホヨはこういう色が好きなのでまったく気になりませんが、偶然とも言いにくい何かがあるのかもしれません。不思議ですね~。

 ちなみに二つ名【ゴブリンロード】以降も何度かエリアボスを倒しているのですが、装飾語付き以上のレアな装備はまだ出てきていません。10Fにもエリアボスはいますが……今のホヨとジェリちゃんだけで敵う相手ではないでしょう。その辺りはワルミちゃんと一緒に探索出来るようになってから考えます。

 でも普通の魔物なら十分に戦える相手です。転移ポータルも発見して登録を終えたのでこれからの探索は10F以上をメインにしていきましょう。


▽チリリ

「…待って 待ってホヨちゃん

 私達はまだLv7~8なのよ

 さすがに10F越えはキツすぎるわ しんじゃう

 というかなんで1ヵ月でLv10になってるの?

 お姉ちゃんちょっと怖くなってきたよ………」

▽ホヨヨ

「おひぃ~~~」


 ……家族と行く時はもう少し下の階層にしておきます。




――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――




 次の日。放課後の教室ではワルミちゃんと初月重点強化メンバーの皆さんが集まって今後のプランについて打ち合わせをしています。……どうやら話がまとまったようですね。ホヨも話を聞きに行きましょう。


▽ホヨヨ

「ワルミちゃん! 進捗どうですか!」

▽ワルミ

「あ~ホヨヨちゃん ホヨヨちゃん来ましたわ~

 いきなりソレはどうかと思いましてよ~~~」

▽イオ

「海月野ちゃんか

 僕達の方は非常に順調だ…この1ヶ月でLv4になった

 少し背伸びをすれば5Fのゴブリン集団にも挑めるだろう

 他のクラスメンバーもほぼ全員Lv3になっている

 それにクラス全体やパーティー間の連携もうまく取れていて

 クエストラリー本番ではレベル以上の強さを期待できそうだ

 上位クラスからは落ちこぼれだの何だの言われているが……

 そもそも難関エリート校であるこの学園に入学できている時点で

 皆才能はあるはずなんだ

 順当に努力を重ねて十分な成果が出ているのがその証拠だ」

▽Fクラス女子生徒

「みんなちゃんと戦えるんだと分かって自信を取り戻してきているわ

 この調子でクエストラリーまであと1~2くらいレベルを上げておきたいわね」

▽Fクラス男子生徒

「ああ 今の俺達なら2~3Fのゴブリンも楽に倒せるようになってる

 頃合いを見て4Fに上がる予定だ

 正直最初は心配してたんだが………

 海月野ちゃんもしっかりレベルが上がってるようで安心したよ」

▽ルウク

「これからは俺達が皆のサポートをしていくぜ!

 レベルは1しか違わないが…それでも序盤なら貴重なアドバンテージだ

 魔物との戦いにも慣れてきたからな ドンと任せとけ!」

▽フウカ

「魔法に関しても定期的に勉強会や実習を行っていて…

 皆最初の頃と比べて見違えるように上手くなりました

 クラスメンバーの内8名は【攻撃魔法】が実用レベルになり

 私を含めて5名は【回復魔法】や【強化魔法】を扱えるようになって

 後衛の戦力も着実に高くなってきています」

▽シン

「そ~そ~ 魔法と言ったらやっぱりサダっちが体得した

 元はアクドっちが使ってた戦い方だけど…アレすごい便利よね~

 重装備で生存能力を高めたヒーラーならテレビで見た事あるけど…

 近接武器と魔法攻撃は片方しか使えない人ばっかりだったよね

 よくあんな戦い方を思いついたもんだよ~」

▽イオ

「ああ…初めて見た時は驚いたよ 武器なら武器、魔法なら魔法と

 それぞれ分けて特化させていくのが定石だからな…二足の草鞋というやつだ

 だが一つの戦法として組み合わせられるどころか、

 それを僕自身が扱えるようになってしまうとは…慣れとは恐ろしいものだな

 確かに便利だが…MPとSPの管理が大変だ 常に気を配る必要がある」

▽ルウク

「二足の草鞋じゃなくてアシンメトリーの靴下みたいな感じだな

 俺は【攻撃魔法】が全然使えないからな~

 代わりに投擲武器を扱えるようになった方がよさそうだな」

▽ライチ

「あたしも武器の扱いは苦手ね…

 悔しいけどその分魔法を極めてやるんだからねっ」

▽インク

「武器と魔法、両方に一定の適性があるメンバーは

 あの二刀流の体得も並行した方がいいかもしれないな

 海月野ちゃんは………武器は苦手そうだね

 STRがFランクとか初めて見た…」

▽スウト

「わ、私より非力………そんなに適性低いの…?」

▽ホヨヨ

「フフフ…ところがどっこい!

 ホヨは魔物さんに武器をグサッとして魔法をドーン!

 としてやっつけています! ホヨもニトウリュウ?ですよ~」

▽ワルミ

「いやそれは…なんかこう…違うんですのよ…

 不利な間合いや武器攻撃の隙を潰す為に魔法を使うのであって

 魔法を近接攻撃手段として使うのはあなただけですわ………」

▽ホヨヨ

「え~~~」

▽シン

「近接型マジシャンとか逆じゃん ウケる~」

▽ライチ

「アンタSTRと同じくらいVITも低いんでしょ?

 敵の攻撃を一度でもまともに受けたら危ないんだから気を付けなさいよね!」

▽ホヨヨ

「あい~~~」


 ……そう、ホヨのSTRとVITのレベルによる成長率は一般的な冒険者のおよそ半分程度しか無いのです。どんなに頑張って体を鍛えてもその差を埋める事はまず出来ないでしょう。

 なので成長率の高いSENやAGIを重点的に鍛えて攻撃を楽に避けられるようになればいいのです。当たらなければどうという事はないのですよ。それにのスキルも習得したので意外と何とかなると思います。

 これからまたワルミちゃんと一緒にダンジョンに行けそうなので、10F以降にチャレンジしていきましょう。

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