第26話 デカい女
――SIDE.明都院 割美
次の日。授業が終わると全クラスの一年生が大体育館に集められる。
今から行われるのは「部活紹介」だ。一般的な高等学校と違い、フジヤマ冒険者学園には普通の部活が存在しない。各ジョブの特性を学んでいく為の特別訓練枠になっているのだ。
5つある下級ジョブを冠した【ファイター部】【シーフ部】【マジシャン部】【クレリック部】【クリエイター部】がそれぞれ一等から三等まで区分され15種類存在している。
一等部には【総合武術会】【霧の里】【魔導士連合】【聖女教会】【冒険者産業組合】といった冒険者業界で有名な組織や大手企業・貴族が直接的にスポンサーを請け負っており、設備やサポートが非常に手厚い。
二等部に関してもいくつかの貴族・一般企業から支援を受けているが、三等部に関してはスポンサーの支援が無く、主にFクラスの先輩達が独自に立ち上げた本来の意味での「部活」となっている。優秀な成績を残して貴族や企業などから認められれば等級が上の部活へ移籍出来るが、一・二等と三等では決定的な差があるのでハードルが非常に高く難しい。ここでも格差によるあからさまな下位クラス抑圧が行われているのだ。一・二等部に関してはFクラスと言うだけで門前払いになってしまう。どうにもヤな奴が多いわね。
内なるワルミも貴族はダメな人が多いと言っているが、アンタだってズルして入学しようとしたダメな人だったんだぞ。分かっているのか。
――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――
各部活の紹介が終わり、一年生全員に入部届が配られた。上位クラスは中等部から鍛錬を積みどのジョブを目指すか決めている為、どの部に入るかもほぼ決まっている。部活の話でワイワイしているのはFクラスだけだ。
ラブたんの主人公はどの三等部活に入るか自由に決める事ができ、入った部によってステータスやアビリティなどに強化補正が入り、固有のフリーストーリーが発生する。上手くストーリーをこなせばその功績が称えられ上等部へ移籍可能。どれにも入らず帰宅部になった場合補正やストーリーは無いが部活分の時間を自由に過ごせる。
私は主人公では無いが、メインストーリーに関係の無い面倒事は避けたいしジョブチェンジもしまくるつもりなのでまだ部活には入らないでおこう。帰宅部万歳。
▽ホヨヨ
「ワルミちゃん! 部活ですよ部活! 何にしますか!?」
▽ワルミ
「わたくし部活には入りませんわよ」
▽ホヨヨ
「そですか~ ホヨもいろいろあってまだ決められないです~」
▽ワルミ
「そうですの?
一旦保留にしておく事は出来るらしいのでゆっくりと考えればいいですわ」
▽ホヨヨ
「あい~~~」
ホヨヨちゃんは自身の長所を活かした【マジシャン部】か、或いは家業を継ぐ為に【クリエイター部】かと思っていたが……彼にも何やら事情がありそうだ。口出しはしないでおこう。
さて、これからクエストラリーに向けたFクラス強化作戦が始まる。定村くんを始めとしたネームドキャラメンバーも武器のレンタルを既に済ませていてしっかりと準備をしている。……おや、Eクラスの方面から何人かこちらに向かってきたぞ。
▽条坂
「おうおう、Fクラスの雑魚共! これからダンジョン探索か?
荷物運びくらいならさせてやってもいいぜぇ?」
▽ワルミ
「………?」
▽条坂
「あん? なんだこのデカ女…邪魔だな…」
▽取り巻きA
「…条坂さん コイツ例の編入生ッスよ
あの時はいなかったのに………」
▽条坂
「………フン 貴族様ってか?
でもコイツは貴族のクセに上位クラスに入れなかった落ちこぼれだろ?
大した実力なんて持ってねえだろ」
▽取り巻きB
「…いや データベースにはLv8ってあるぞ
条坂さんより高いのにFクラス…? どうなってんだ」
▽条坂
「どうせ金と権力でラクして上げただけだろうよ
図体とレベルだけの奴にビビるこたぁねえ」
Eクラスは貴族の集まるBクラスの雑用をよくさせられているので、貴族に対して良いイメージが無いのだろう。そこに関してはやや同情するが、それはそれとして初対面の相手に対して失礼極まりない。でも何故か悪口が全く気にならないのは……強者の余裕というものだろうか。
特にコメントも無いので黙っていると……私を庇うように定村くんが割り入ってきた。
▽イオ
「………条坂、前回の模擬戦では世話になったな
あいにく今日は彼女と共にダンジョン探索を予定しているのだが…
この場には教師や貴族様だって多数いる
事を大きくしたくないだろう? また今度にしてくれ」
▽条坂
「………チッ 後ろに隠れやがって
まあいい それじゃあまた今度な、Fクラス共」
どうやら条坂くん達は大人しく引き下がってくれるようだ。定村くんナイス!
▽ワルミ
「…定村くんの機転で助かりましたわ
それではダンジョンに向かいましょうか」
▽ホヨヨ
「いてらさいです~~~」
▽イオ
「………僕が言うのもなんだが………
あんなことを真正面から言われて何も思わないのか?」
▽ワルミ
「…いや全然…
実際金と権力を使ってラクしてレベル上げしてたのは本当ですし、
デカいのはまあ見たままですし…
そんなプライドなんてあったら
▽イオ
「そ、そういうものなのか…?」
▽ルウク
「俺はデカい女も好きだぜ! デカいからな!」
▽スウト
「ちょっと鈴瀬くん! それは失礼すぎます!」
▽シン
「スズっちフォローの仕方ズレててウケる~」
▽インク
「…正直私も貴族に対して少々苦手意識があって…
もっと気難しくて近付きがたい雰囲気の方々しか見た事がなくて…
でも明都院さんのように柔和で寛大な人もいると知れてよかった」
▽イオ
「…とは言え他人に対する最低限の礼節を欠いてはいかんぞ
分かっているな鈴瀬」
▽ルウク
「…あっ はい………すみません…」
大きなトラブルが起こらなくて本当に良かった。改めてダンジョンに向かおう。
先日メンバー同士での地稽古を軽く見てみたが……定村くん、原戸さん、鈴瀬くん、朝田さんの前衛メンバーは1Fをスキップしてそのままゴブリンに挑んでもいいくらいに良い動きをしていた。草紗さん、毘沙さん、芽木さんの後衛メンバーもLv1ながら既に魔法の詠唱や発動がスムーズに行えていて即戦力だ。人数は多いが、思ったより効率よくレベル上げが出来そうだ。
しかしこの世界はゲームとは違い全滅すればそこで終わりだ。慢心せず安全第一で事に当たろう。ホヨヨちゃんもこれから一人でダンジョン探索をするようだ。彼にはジェリトワーヌちゃんが付いてるし、引き際の見極めも上手いので無理はしないだろう。お互い頑張りましてよ!
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