第25話 失意と希望
――― 次の日。いつものように登校し、いつもの後ろの隅の席に着きます。ワルミちゃんが言っていた通り、教室には重苦しい雰囲気が漂っていました。Fクラスの皆さんは一様に笑顔が無く、中には顔や体に包帯や絆創膏を付けている人もいます。苦悩に沈んだ空気のまま午後のダンジョン座学もそこそこに、放課後が訪れました。
▽千堂先生
「………それではホームルームを始めます」
▽スウト
「…先生! あの………
昨日の放課後の…模擬戦についてなのですが………」
▽千堂先生
「…闘技場の貸出申請、および模擬戦の申請は書類が事前に受理されています
よって結果がどうあれ件の模擬戦は正式な手続きによるものです
それと学園の方針により生徒間の問題について
教師陣による過度な干渉は禁じられています
学園の生徒には貴族位を持つ方々も多く…
我々教師陣より上の立場の方もいらっしゃるからです」
▽ルウク
「…事前に…?
んだよ ってー事は…アレは俺達を潰すために
最初から全部仕組まれてたって事かよ!」
▽インク
「………みんな、すまなかった
もう少しまともに戦えると思っていたが…全然ダメだった
幼少から武道を修めていた身であのざまとは…本当にすまない」
▽フウカ
「原戸さん謝らないで………
私は怖くて見てる事しか出来なかったんだから…」
その時、スッと席から立ち上がる一人の生徒。Fクラス首席の定村くんです。模擬戦では開幕から集中攻撃に遭い、模擬戦のダメージ吸収システムを越えてヒーラーの治療が必要なほど深い傷を負ってしまったそうです。額に巻かれた包帯はそれがいかに凄惨だったかを物語っています。
▽イオ
「………問題がレベル差だけなら対処は容易だ
僕達も早くレベルを上げてしまえばいい
当然あちらもレベルアップはするだろうが…
Lv1の時よりはステータス差が小さくなるはずだ
実戦による経験を重ねていけば、戦い方だって身に付いていくだろう
昨日がダメだったなら…次こそなんとかすればいい
僕は…いや、僕達は………こんな所で挫ける訳にはいかないんだ」
▽ライチ
「…そうよ あたし達はまだ入学して一週間も経ってないのよ
これから見返していけばいいだけじゃない」
▽ルウク
「………ああ そうだな その通りだ
たった一度負けたくらいで何だってんだ!」
▽シン
「…ま やられっぱなしっつーのもアレっしょ
ウチもやってやんよ」
▽千堂先生
「…あなた達を強い冒険者に育てるのがFクラス担任である私の役目…
しっかりとサポートさせていただきます
………そうですね 一つ目標を掲げておきましょう
2ヶ月後に『クラス対抗クエストラリー』が開催されます
学年とクラスに区分され、1週間の間
学園から提示されるクエストを受注、達成しポイントを競う大会です
詳細は後日改めてホームルームにてお伝えします
準備期間は短いですがそこで結果を出し、せめて一つ上の…
Eクラスに追い付けるよう鍛錬に励んでください」
……教室の空気が、少しずつ変わっていきます。クラス上位陣の言葉を皮切りに、互いを励まし合い再び立ち上がろうとするクラスメイト達。う~む、なんだか大丈夫そうですね。よかったです~。
……ホームルームが終わって先生が帰った後、定村くんがゆっくりとこちらに近付いて…ワルミちゃんの席の前で止まりました。
▽イオ
「…明都院さん、だったな 学園のデータベースにはLv8とある
先日の模擬戦は体調不良で不参加だったようだが……
今Fクラスの中で一番強いのは君だ
クラスのリーダーとして…皆を率いてもらいたい」
▽ワルミ
「お断りいたしますわ」
頭を下げてきた定村くんをピシャリと一蹴してしまうワルミちゃん。
▽イオ
「………ッ そ、そうか…
理由を聞いてもいいか?」
▽ワルミ
「Fクラスを立ち直らせるきっかけを作ったのはわたくし?
いいえ、貴方と仲間達の強い意志と言葉ですわ
だからこそリーダーはわたくしではなく………
定村さん 貴方にこそ相応しいものでしてよ」
▽イオ
「…しかし僕では…」
▽ワルミ
「………僕たち、でしょう?
わたくしだってFクラスですもの
この力、存分にお貸しいたしますわ」
▽イオ
「………フッ そう言われてしまってはな
頼りにさせてもらおう よろしく頼む」
ワルミちゃんと定村くんが握手を交わし、周りからは小さな歓声が上がりました。見た目や身分で敬遠されていた彼女が協力的であると知り、緊張も解けてきたようです。そしてワルミちゃんとFクラス成績上位メンバーが主導となって今後のプランを定めていきます。
とにもかくにもレベル上げ。始めの1ヶ月はワルミちゃんが一部メンバーを重点的に育て、残り1ヶ月はそのメンバーが分散して他Fクラス生徒の育成を手伝い、ワルミちゃんは自身のレベル上げに専念する……というもの。
クラス全体のレベルを底上げしつつ、より高レベルの精鋭も揃えていく二段構造です。クラス内で格差が生まれてしまいますが、それなら戦術や魔法、指揮能力などに理解の深い者が相応しい……と、原戸さんや草紗ちゃん、鈴瀬くんなどのネームドキャラが担当する事で落ち着きました。
ゲーム知識での稼ぎ情報も周囲にバレても大して問題の無いほんのりしたものに抑えつつ、それっぽく伝えていきます。【裏商店】や【転移ポータル】は危険すぎる情報なので残念ながら教えられません。ホヨのお家や鈴風商店が大変な事になってしまいます。
……さて。これから1ヶ月間、ホヨはどうしましょうか。ワルミちゃんと別行動となりますが……かと言ってFクラスの皆さんと一緒にいるとレベルや装備、ジェリトワーヌちゃんのヒミツがバレかねないので、何か理由を付けて一人でいなくてはなりません。周りの人達がパーティーメンバーを募ったりダンジョンに関する話題に華を咲かせています。ホヨの所にも何人か来ました。こにちは~~~ホヨです~~~。
▽Fクラス女子生徒
「………ねね、海月野ちゃん
まだパーティー組んでないなら…私達の所に来ない?」
▽ホヨヨ
「わお~ ありがとござます~
でもホヨはお店のお手伝いもありますし
ダンジョンは家族と探索するので大丈夫となります~」
▽Fクラス男子生徒
「へぇ~ 家族でダンジョンに…そういうのもあるのか
お店ってダンジョン関係?」
▽ホヨヨ
「あい~ 冒険者向けの装備や雑貨を売ってますよ~
お父ちゃんとお母ちゃんは【クリエイター】なので
作ったり直したりもできるます~」
▽Fクラス女子生徒
「そっか~ 家から歩きで通ってるって事は
ここからそれほど遠くないだろうし…
今度見に行ってみようかなー」
▽Fクラス男子生徒
「店の事もあるだろうけどレベル上げも頑張らないとな
困った事があったら遠慮なく相談してくれよ」
▽ホヨヨ
「はいです~~~」
*ふにゃりと笑いバンザイのポーズ*
▽Fクラス女子生徒
(本当に大丈夫かな………)
▽Fクラス男子生徒
(なんか…ちょっと心配だな………)
う~む、イイ人達が多くてとてもよいをしますね~。ホヨもクエストラリーに向けてもっと強くならないと! やりますよやりますよ~。……おや? ワルミちゃんがこっそり耳打ちをしてきました。なんですかなんですか。
▽ワルミ
「………あの ホヨヨちゃん?」
▽ホヨヨ
「はいホヨです」
▽ワルミ
「…なんか早速【宴会芸】をセットしてますわね?
こう…もっと他に付けるアビリティはあったりしませんの………?」
▽ホヨヨ
「えっと………あ!
【軽量化】というものがありますね~」
▽ワルミ
「それはLv1あたり1%ほど体重と装備重量を減らすアビリティですわ
重力軽減エンチャントと似たような効果で相性が良いですわね
身軽になって動きやすくなりますが…
踏ん張りが利かず敵の攻撃で飛ばされやすくなってしまいますわ
武器の重量や運動エネルギーを利用した攻撃、素手での格闘術なども
力が入りにくく弱くなってしまうので
よりヒット&アウェイの戦法を心掛けませんとね」
▽ホヨヨ
「わおわお~ 頑張れば空も飛べちゃいそうですね~」
▽ワルミ
「さすがにそれは………
いや、ホヨヨちゃんならやりかねないですわ………」
もし空を飛ぶ事が出来るようになれば、ダンジョン探索がとても快適になりそうです。でもダンジョンの外では使えないのでそこは残念ですね。
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