第23話 VS☆放浪するゴブリンロード

――SIDE.明都院 割美




 ホヨヨちゃんの家からダンジョン5Fへ飛び、周囲を窺いながら通路へ出る。これから行くのは……ここの【エリアボス】が出現するエリアだ。

 【Lv8:ゴブリンロード】はレベルこそ私より低いものの、ボス補正によりHPが他の魔物と比べて数倍ある。自身の戦闘能力はそれほど高くないが、厄介なのは仲間を呼び出す固有スキルを持っている事。SPを消費し、自身の近くに【Lv7:ゴブリンガード】を1回につき2~3体召喚する。【Lv6:ゴブリンリーダー】と同等の装備で、レベルが1高い分基礎能力もわずかに高い。

 【ゴブリンガード】は倒さなければSPが続く限り際限無く増えていくため、適度に処理し続けなければいけない。ラブたんではLv7の魔物を効率よく呼んでくれるボーナスモンスターのような扱いだったが、現実では絶えず戦い続けなければいけないので非常にリスクが高い。


 ではなぜ向かうのかと言うと……腕試しを兼ねたアイテム収集だ。

 【エリアボス】や10F以上に出現する中格以上の魔物を倒すと【裏商店】にて特別なアイテムと交換できる【マナ・トークン】をドロップする。緊急時にダンジョンから一瞬で脱出できる【エスケープジェム】や《中級鑑定》の効果が込められた【鑑定の杖】、良質なダンジョン産武具や各種珍しいダンジョン内素材など有用なものがたくさんあるので、序盤からでも積極的に集めておきたい。

 一般的な冒険者はこのアイテムの使い道を知らないので魔石と同じ扱いをしている。魔石と同様エネルギー源になるそうだ。もったいない。


 ボスが出現するエリアへの道は……あった。「危険区域につき立入禁止」と書かれた看板が立っていて、トラロープ(※1)でしっかりと仕切られている。本来ダンジョン内部は強力な自己修復と異物除去機能が働いていて、ダンジョンの床や内壁をいくら傷つけようとも十数分で自動修復され、魔物と生物以外のあらゆる物質は数時間ほどで吸収されてしまう。

 ダンジョン内に持ち込まれる設備には【対吸収コアAAC】と呼ばれる特殊な核を埋め込んでいて、吸収に抵抗出来るようになっているらしいが……私達にはあまり関係が無い話だろう。

 ロープに沿ってボスがいるエリアへの入り口を探していると……向こうから数人の冒険者が息を切らしながら全力疾走でこちらに向かってきた。何かあったのだろうか?


▽男性冒険者A

「お、おい! そこにいる君達も早く逃げろ!!

 エリアボスが……【ゴブリンロード】がを徘徊している!!

 こっちに向かってくるぞーッッ!!」

▽ワルミ

「………!! なんですって!?」

▽男性冒険者B

「最初は目を疑ったさ! だがギルドのアーカイブで見たに間違いない!

 王族のようなローブと杖………【ゴブリンガード】召喚もしやがった!

 Lv4の俺達じゃ絶対に敵わねえ!!

 ギルドに緊急連絡は送っておいたが…

 上級冒険者の応援が来るまで逃げ切るしかない!

 すまんが俺達はもう行く! お前らも十分気を付けろよ!!」


 本来エリアボスは特定の領域内でしか活動せず、そのエリアから離れればそれ以上追ってくる事はなくエリア内の状態がリセットされる。……だが、実はが存在する。

 ☆印の【ユニークモンスター】には、特別な称号を持つ魔物が出現する事がある。称号によって能力や行動パターンが若干変化し、特殊なスキルを獲得している場合もある。その称号の一つに《放浪する》があり、付与された魔物は階層内をランダムに動き回り続ける移動パターンになる。それがエリアボスに付与された場合……なんと持ち場であるエリアを抜け出してダンジョン内を徘徊し始めるのだ。

 ここ5Fにいる冒険者はほとんどがLv4~6であり、【ゴブリンロード】をメインに狩る者はまずいない。わざわざ立入禁止区域にまで指定している程だ。だがそんな魔物が向こうから寄ってくるのだから……たまったものではない。高レベルの冒険者が早急に討伐して安全を確保しなくてはいけない。


▽ワルミ

「………どうやらが省けたようですわね

 お二人とも準備なさい」

▽ジェリトワーヌ

「ワガ ハドウ フサグ モノ スベカラク ハカイ スル」


 やや開けた通路で、私とホヨヨちゃんとジェリトワーヌちゃんが前衛の……全員前に出てるじゃん。ホヨヨちゃんは脆いんだから後ろで魔法でも撃ってなさい。逆三角形の布陣を取る。

 奥の方からドカドカ、ガシャガシャ、ギャイギャイと騒音が響いてくる……【ゴブリンガード】が6体、【ゴブリンロード】を守るように前を塞ぎながら徒党を組み小走りで向かってきた。お互いに静止したまま対峙し……こちらが逃げないと分かるや否や、ゴブリン達はニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべて武器を構える。

 ……正直、勝算はあまり無い。もしこちら側が不利になってしまった場合エリア離脱で仕切り直す算段だったからだ。だがこの状況では撤退が許されない。逃げても追ってくるだろう。防御や回避に徹して時間を稼ぎ、ギルドの応援を待つのが最善。


 だけど……




【Lv7:ゴブリンガード】×6

【Lv8:☆放浪するゴブリンロード】




 ……自分達だけで倒せれば、非常に美味しい。

 5Fエリアボス級の魔石と経験値を2倍入手でき、マナ・トークンやレアアイテム入りの宝箱まで手に入れられるのだ。それこそ命を懸けてもいいほどの……冒険ロマンである。

 危機的状況のはずなのに、どうにも口角が上がってしまう。傍にいる戦友とももそれは同じようで、不敵に笑っている。ああ、本当に頼もしい。

 フルプレートのドレスアーマーに大きなタワーシールドとロングソードを構えた鉄塊の如きジェリーの姫と、スティレットを構え膨大なマナを滾らせる小さな天才。私もロングソードを握り直し、初動に備える。


▽ホヨヨ

「………ワルミちゃん このゴブリン達の………

 弱点属性を、教えてもらえますか?」

▽ワルミ

「………弱点属性でして?

 2~5Fのゴブリン達は…全種類光属性耐性-10%ですわね

 ですがホヨヨちゃんの魔法は属性ですから関係ありませんわよ?」

▽ホヨヨ

「………、使います」


 ……とっておき……そう言えば【★天魔特異点】のレベルが結構な勢いで上がっていたっけ。何か新しいスキルを入手したのだろうか。まあ、その正体はこれから始まる戦いで分かる事だろう。十数秒ほどゴブリン達と睨み合い……私達は前に大きく踏み込んだ!!


――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――


▽ワルミ

「《パワースラッシュ》!! ………《ダークネスアロー》!」

▽ゴブリンガードA

「グギャアアアァァァッッ!!!」

▽ゴブリンガードB

「グゲーーーッ!!」


 レベル的優位を存分に活用し、防御の上から強引に蹴り飛ばして【ゴブリンガード】の体勢を崩す。すかさず装甲の薄い横腹に武器スキルを叩き込み……剣の間合いから離れた瞬間に左手から魔法を撃ち込みトドメを刺す!

 残心の間も無くバックステップをすれば、直前まで私がいた場所には新たな【ゴブリンガード】のメイスが振り降ろされ地面に傷を付けていた。

 こんな戦い方をボスが倒れるまで続けなければならない……出来る限り短時間で決着をつけたいところ。チラリと横目で二人の様子を確認する。


▽ジェリトワーヌ

「プイプイ~~~プイ!!」

▽ホヨヨ

「《アトリビューション》! 《セイントセット・アロー》!!」

▽ゴブリンガードC

「ミ゜」


 ジェリトワーヌちゃんが掬い上げるように盾を足元に差し込み、【ゴブリンガード】を上空に放り投げる。同じく軽やかに飛び上がったホヨヨちゃんが喉元にスティレットを深々と突き立て……【属性魔法】を放ち頭部を刎ね飛ばした!


 ……《アトリビューション》? ラブたんにもREにもそんなスキルは無かったはず。言葉の響きから推察すると属性を付与するスキルのようだが……本来の属性付与スキルは武器や防具に行い、属性攻撃や耐性を得るというもの。攻撃魔法の属性には影響しない。

 つまりアレは「攻撃魔法の属性を変化させる」スキルという事だ。そうすると実質の魔法を扱える事になる……のだろうか。ヤバイですわよ!


▽ゴブリンロード

「グギギ………ギエェーーーッッ!!」

*付近に黒い光が立ち昇り新たなゴブリンガードが現れる*

▽ワルミ

「そこですわッッ!! 《パワースラッシュ》!!」

▽ジェリトワーヌ

「ハカイ! ハカイ! ハカイ!!」

▽ホヨヨ

「《セイントセット・アロー》!!」


 先日ゴブリンとの乱戦をとことん行ったからだろうか。対多数であってもスムーズに戦う事ができ、1分ほどで6体の【ゴブリンガード】を全滅させる。タイミングを見計らったかのように【ゴブリンロード】が叫んで召喚スキルを使用するが……ラブたんの魔物は出現直後の数秒間が無防備であるため、その隙を狙って致命的な一撃を与えれば安全に倒す事が可能……【スポーンキル】だ。ラブたんでの効率的な稼ぎはスポーンキル前提であるものが多い為、重要なテクニックの一つだ。

 召喚された3体の【ゴブリンガード】を3人同時に速攻で撃破する。攻撃力は十分だし息もそこまであがっていない。予想以上に安定している。しかし慢心はしない。

 そして【ゴブリンロード】と【ゴブリンガード】を交互に相手取ること数回……


▽ホヨヨ

「ほあちゃ! ほあー! ほああぁぁぁ!!」

▽ゴブリンロード

「ッ!! ギ、ギアアアァァァァァ!!」

*黒い光となり消滅する*


 私とジェリトワーヌちゃんの同時攻撃によって【ゴブリンロード】は両腕を斬り落とされ、背後に回り込んだホヨヨちゃんに至近距離で《セイントセット・アロー》を撃ち込まれ……ついに膝から崩れ落ちる。

 5Fでは類を見ない巨大な魔石とマナ・トークンを2個、そして鉄製の宝箱と仄かに光を放つ未知の金属で出来た宝箱をドロップした。周囲には【ゴブリンガード】の魔石や武具のスクラップが散らばっている。

 ……しばしの静寂。それでもまだという実感が全く無い。


▽ワルミ

「ッ……… ハアッ…ハアッ………

 …やりましたの………?」

▽ジェリトワーヌ

「ウム センメツ カンリョウ」

▽ホヨヨ

「わお! すばらしくよいをしますね~~~」


 幸い周囲に他のゴブリンが出現する事は無いようだ。足から力が抜け、私はその場にへたり込んでしまう。二人は……陽気にぬおぬおと踊っている。細かな負傷はしているものの、簡単な回復魔法ですぐに治りそうだ。本当によく凌いだものである。


 数分程休憩していると、連絡を受けたギルドの職員達がやってきた。どうもどうも、残念ながら【ゴブリンロード】はわたくし達がやっつけてしまいましてよ、オホホのホ。


▽ギルド職員A

「連絡があったのは………ここだな

 君達! この辺りに【ゴブリンロード】という強力な魔物が………おや?

 その大きな魔石と宝箱は…まさか君達がやってくれたのか!?」

▽ワルミ

「ええ………そうですわ 識別コードもありましてよ

 エリア外に出てきたのは…ユニーク称号の《放浪する》が

 付与されていたのが原因でしたわ」

▽ギルド職員B

「………【Lv8:☆放浪するゴブリンロード】、討伐者2名………なるほど

 確かにエリアボスのユニークモンスターだわ 人為的なものではないという事ね

 あなた達が食い止めてくれたお陰で被害者はゼロよ………ありがとう」

▽ホヨヨ&ジェリトワーヌ

「「うぃふぃ~~~」」

*バンザイのポーズ*

▽ギルド職員A

「いやあ、さすがは冒険者学園の生徒さんだ

 ギルドには僕達が連絡しておこう 君達も気を付けて帰るんだよ」

▽ワルミ

「ええ お気を付けて………」


 少し休憩して平常心も取り戻した。さてさて、お待ちかねの宝箱を開けてみよう。






(※1)トラロープ

黒と黄色の2色で塗り分けて目立つように工夫されている虎柄のようなロープ。

危険区域への立ち入りを制限する標識の役割があり、

主に工事現場や登山道などに使われている。

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