第22話 実力社会

 学園生活3日目。ここからが本当のです。午前は通常の高校生も行っている勉学のカリキュラム、午後は冒険者としての訓練プログラムとなっています。授業内容を圧縮しているせいか、結構ハイスピードでハイレベルです。ホヨは勉強がとても苦手なので頑張らねばなりません。はゎゎゎ。

 午後の訓練は、まずDFでの肉体強化に慣れるところから……という事で、訓練場での基礎体力トレーニングを行います。ホヨは昨日に一昨日とダンジョンでたくさん動いたのでもうすっかり体が馴染みました。軽やかな後ろ宙返りや短距離の壁走りもお手の物。大人の2倍近いスピードで動く事だって出来ます。でもこの場でやってしまうとLv1っぽくないので、しっかりと抑えておきましょう。う~~~む、他に出来そうな事は……あっ! せっかくなので踊りましょう! ダンシンダンシンなのですよ~。


▽ホヨヨ

「よいですね~~~」

▽Fクラス生徒達

*穏やかな笑い声*

▽イオ

「…ふむ…全身をスムーズに動かす訓練としてダンスは合理的か

 少々目立ちはするが…まあいいんじゃないか?」

▽ルウク

「へえ…面白そうだな! 俺もいっちょ踊っとくか!

 ブレイクダンスとかなら得意だぜ!」

▽シン

「ウケる~~~ もうちょい面白かったら

 ディノッター(※1)でバズるかも~」

▽インク

「まったく 気楽なものだ………」




――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――




▽千堂先生

「は~い 今日の授業はここまで!

 ここで解散となりますので、片付けは各自で行ってくださいね~」


 放課後になり、先生が一足先に帰った後各々が片付けやダンジョン探索のミーティングを行いながら帰り支度をしていると……外の方から数人、Fクラスではない生徒達がやってきました。手には訓練用のゴム剣を持っていて、肩を揺すらせてニヤニヤと笑いながら出入り口を塞ぎます。


▽大柄な男生徒

「おうおう!! 待ちやがれFクラス共!

 俺は1年Eクラスの条坂じょうばんだ!

 ダンジョンフィールドには慣れたかよぉ?」

▽インク

「………Eクラス? 私達に何か用でも?」

▽条坂

「お前らダンジョン探索は素人だろ?

 ジェリーはともかくゴブリン共は素人じゃキツい相手だ…

 先公の代わりに俺達がレクチャーしてやってもいいぜぇ?

 模擬戦ならダンジョンと違って大したケガなんてしねぇからなあ」

▽インク

「模擬戦…なるほど それはありがたい申し出だ

 上位クラスならば中等部から鍛錬を積んできている…

 是非ご教授願いたい」

▽条坂

「模擬戦には

 見学でもいいが観戦はしとくといいぜぇ

 闘技場の…3番に集合するんだな」


 Fクラスの皆は少々訝しみながらも、条坂くんに先導されて次々と闘技場に向かっていきます。でもホヨは少し前からお手洗いに籠っているワルミちゃんが心配なのでここで踊りながら待つ事にしました。ダンシンダンシンなのですよ~。


~(数分後)~


▽ワルミ

「オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛………

 まさか朝食のトマトが傷んでいたとは………

 このワルミ…一生の不覚でしてよぉ………! オゴゴゴ………」

▽ホヨヨ

「ワルミちゃんだいじょぶですか~?

 ぽんぽんいたいいたいの治りますか?」

▽ワルミ

「医務室に行けば治ると思いましてよ…

 軽度の肉体的な状態異常を治療できる【リトルキュア】なら

 食あたりもおそらく…」

▽ホヨヨ

「ほへ~ それはよかったのですよ~」

*踊っている*

▽ワルミ

「それより…

 他のFクラスの皆さんはもうようですわね…

 わたくしは医務室に行かねばなりませんし、

 このタイミングでは参加も見学も出来そうにありませんわね…

 のかもしれませんが………」


 ワルミちゃんが言うには、これから始まるのはEクラス生徒による主人公達のだそうです。Fクラスの皆が主人公含めて全員Lv1、ダンジョン探索の経験も浅い素人だらけだという事を知っておきながら、Lv3~4のメンバー数人で参加者を一方的に叩き潰す…というもの。

 単純なステータス計算でLv1から見たLv3~4の戦闘能力は1.4~6倍。特に低レベル帯は1違うだけで結構な差が生まれてしまうのだとか。良質な装備で戦力差はある程度埋められるものの、訓練用のゴム剣とプロテクターではそれも望めない。そうです、これは上位クラスによる指導などではなく……クラス間の格差を見せつけ虐げる為のなのです。

 仮にLv10の自分が介入しその敗北イベントを覆せたとしても、Fクラスが自分に依存してしまい自身の鍛錬を怠ったり、上位クラスからのいじめが自分の目が届かないより陰湿なものになる危険もある……と。このイベントはFクラスが団結し主人公達が奮起するきっかけでもあるので、出来る限り正史に順じておきたいとの事です。常人を大きく超える力を手にしたことによって、強さに酔い傍若無人に振る舞う冒険者はたくさんいます。実力社会であるこの世界ではそれが許されてしまうのでしょう。優しさや正しさでは上手くいかない……世知辛いものです。


 医務室で治療を受けすっかり元気になったワルミちゃん。その直後にFクラスの生徒が医務室の先生……ヒーラーを呼びに駆け足でやってきました。Eクラス生徒数人との模擬戦によってFクラス生徒の何名かが気絶やケガをしてしまったそうです。模擬戦システムはそういった事故を抑える為のものだと言うのに……一体何があったのでしょうか。ホヨ達は模擬戦に不参加だったので、Fクラスの皆さんと顔を合わせづらいです。

 担架を運び入れる為の戸が開け放たれ、医務室全体がバタバタと忙しくなり始めました。邪魔にならないよう一足先にダンジョンに行ってしまいましょう。


 ……と言っても、向かうのはダンジョン入口ではなく……ホヨの家ですが。






(※1)ディノッター(Dinotter)

この世界で広く普及している短文投稿型SNS。

文章だけでなく画像や動画なども添付可能。

ダンジョン探索中に起こった出来事を撮影し投稿するユーザーもいるが、

ダンジョンの機密情報や冒険者の個人情報が外部に漏れる危険もあり

近年問題視されている。

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