第18話 オリエンテーション2_施設案内

――SIDE.明都院 割美




 学習棟から各クラスの1年生がぞろぞろと出てくる。さすがに240人もいれば壮観だ。その内Fクラスを除いた200人は中等部からダンジョンに関する訓練を受けていて、その辺の大人の冒険者よりレベルが高い者も多い。エリート揃いである。隣のEクラスからFクラスの面々に向けて品定めをするようなニヤニヤとした視線が送られてくるが……その理由は明日分かるだろう。今は無視しておく。

 Aクラスは全員がCLv10を軽く超えていて、ほぼすべてが【貴族位】を持つ家系である。【貴族】とは昔からの富豪や武家・文家であったり、ダンジョンによって資産や名誉を勝ち取り栄える限られた家系にのみ与えられる称号で、ダンジョンの機密情報や利権の大部分を握っている。一部の位が高い貴族は国家や法律にも口出しできるほどの権利を持つらしい。


 そんなAクラスの一番前……首席。ラブたんのメインヒロインであり、パッケージイラストのセンターにも堂々と描かれている神々々こうごうじん 輝世姫きせき様、攻略対象キャラ。ラブたんキャラ特有のネーミングセンスも眩い程に輝いている。


 腰ほどまでに伸びた漆黒の前髪ぱっつんストレートは純白の光を反射し、ルビーよりも鮮やかな紅い瞳は見ていると吸い込まれそうだ。背丈は130cm程と低く顔立ちも幼さが残っているが、メリハリの付いた豊満なスタイルが奇跡的なバランスを保ちより強い魅力を引き立てている。

 性格も「清純」をそのまま形にしたような存在で、平民にも分け隔てなく接する人格者。原作でも圧倒的な人気を誇っていたが……こうして実在する人間として見てみるとそれがよりはっきりと伝わってくる。周囲にいる生徒の大部分も彼女に釘付けだ。

 彼女について語りたい事はまだまだたくさんある。貴族の中でもかなり位の高い立場であるとか、【聖女第一候補】として【聖女教会】の幹部を務めているとか、自分や相手の未来を正確に見通せる固有アビリティを持っているとか……キリが無いので一旦締めておく。


 その後ろにいるのは鳴句めいく 明華めいかさん、非攻略対象の仲間キャラ。冒険者用武具の有名ブランドである【MAQメイク】の社長令嬢にして、自ら会社の新商品を担いで実戦でのプロモーションを行う広告塔でもある。

 身長170cmを超えスリーサイズの一部も三桁cmに迫るダイナマイトボディーを金属鎧で重厚に固めていて、とにもかくにも存在感がすごい。鎧もピカピカに磨かれている。ダンジョンや学園内外問わず常に鎧を着ているのは……恥ずかしがり屋だから。陽気で人懐っこい振る舞いは兜で顔を隠すことで保たれている。あと単純に全身鎧フェチなのもある。神々々様とは古くからの付き合いで、数人の護衛を引き連れ一緒にダンジョンに挑む事もある。


 ワインレッドの滑らかな髪を靡かせ悠々と佇んでいるのは煉国谷れんごくだに 九印くいん様、攻略対象キャラ。彼女もまた高名な貴族であり、齢14にして【魔導士連合】の幹部にまで上り詰めた天才魔導士だ。【エディットオーブ】により登録された冒険者情報からMAGの潜在能力が高い者を選出し、有力な魔導士を育成する事を目的とした組織で、ステータスという概念や基準値を制定し世界基準で冒険者のデータを整えたのは彼らの功績だ。最近は新たな【アビリティ】の研究や【冒険者産業組合】と提携して新しいマジックアイテムの開発に力を入れている。


 Aクラスにはまだネームドキャラが何人かいるが……人混みに紛れてよく見えなかったり欠席している人もいるのでまた今度にしよう。

 続いてBクラス……なのだが、ネームドキャラはいれど残念ながら基本的には敵対する悪役だ。Bクラスは貴族の中でも富や利権を独占し平民を支配したがる【抑制派】思想の者が多く、外部生であるFクラスの才能を潰そうと目論んでいる。

 その思想にはD・Eクラスも賛同、或いは従属していて、FクラスにもたらされるトラブルはほとんどがB・D・Eクラスによるものである。なのでこの3クラスは一旦飛ばしておくとしよう。精々私達の成長の糧となってくれ。


 さて、Cクラスには面白いネームドキャラがいる。「いろづき5」というグループだ。全員非攻略対象キャラだが、5人のキャラストーリーを進めていくと主人公がアイドル冒険者を目指すルートに突入する。難易度は高めだが、見事完遂するとアイドルとして大成し、各攻略対象キャラの好感度が非常に上がりやすくなるのだ。

 そんな彼女達は現時点で全員Lv10、ジョブも【ビギナー】から【下級ジョブ】に転職している。【下級ジョブ】はCLv5、【ビギナー】JLvM(10)で転職可能。【エディットオーブ】でいつでも転職可能だが、JLvM未満で転職するとJLvが1/3低下するペナルティがある。LvMになればペナルティは免除されるだけではなく、キャラクターそのものに常時効果のあるステータスボーナスが加算され、アビリティとスキルの上限枠も増えるのだ。

 なのでどんなキャラでも全ジョブをマスターしておいた方がいい……のだが、これはあくまでもゲームの話。レベル上げが困難で命懸けなこの世界ではそんな悠長な事をやってられない。早々に自らの得意分野を見つけ、それに特化したジョブにならざるを得ないのだ。

 話が脱線してしまったが……ここに「いろづき5」は来ていないようだ。確か今はドラマが連載中だったか。どこかで撮影しているのだろう。


 ………そろそろ本題の施設案内に戻るとしよう。

 まずは私達の教室。何の変哲もない普通の学習棟だ。その隣には部活棟と訓練棟。畳張りの剣術道場や強力な防壁で囲まれたスキル実験場、生徒同士の模擬戦を行う闘技場などがある。

 付近には医務室もあり、高レベルのヒーラーである教師が常在している。学園生徒であればいつでも無料で治療が受けられるのはありがたい。

 もう少し奥に行くと製作棟があり、生徒が製作アビリティの鍛錬を行ったり一般企業が各種武具の生産と修理、生徒用レンタル武器の手入れなどを行っている。

 【ダンジョンフィールドDF】とはダンジョン内部、および固定ダンジョンの周囲数kmに渡って常時展開されている特殊な領域で、冒険者のレベルとステータスによる肉体強化はその領域内でのみ発揮される。


 一応外部でも肉体強化はされるのだが、その強度は1/10ほどに減衰してしまう。フジヤマ冒険者学園の場合、部活棟と訓練棟が丸々DF内にあり、製作棟には【人工ダンジョンフィールドUDF】が設置されている。ダンジョンから離れていてもDFを展開させられる装置で、これの悪用による冒険者の犯罪を防ぐ為使用と開発が厳しく取り締まられている。現在は一部貴族や認可された訓練施設と武具生産施設でのみ使用可能となっている。


▽千堂先生

「ダンジョン入口の案内をした後は解散となりますので、

 もしダンジョンに入る場合は装備の準備をあらかじめしておいてくださいね~

 武器を持っていない人はこっちで貸し出しをしていますよ~」


 Fクラスのメンバーはほぼ全員ダンジョンに潜るようだ。周りに話しかけてパーティーを組み、次々と武器をレンタルしていく。私とホヨヨちゃんも潜る予定なので、更衣室で着替えていく。


 私は鉄製のドレスアーマーに同じく鉄製の篭手とブーツ、豪華な羽根飾りの付いたヘッドギアを装着。武器は標準的な鋼鉄製ロングソードだ。

 一方ホヨヨちゃんは……重い装備を身に付けられないので急所のみを保護するアルミ製のプロテクターだ。腰には鉄製のスティレット……しかも柄の部分に【魔宝石】が埋め込まれている。


 魔宝石は魔法の発動や威力を補助する効果のある素材で、それらを使用した武器群を総称して【魔法武器】と言う。魔法自体は素手でも発動できるが、魔法武器を介して発動すればより強力になる。

 つまりあのスティレットは近接武器でありながら魔法武器でもある便利な武器なのだ。プロテクターも体の小さなホヨヨちゃんにピッタリ合うオーダーメイド品っぽかったし、あんなものを自前で用意できるのは……実家が【クリエイター】で装備を自作しているからか、或いは冒険者業に関するコネを持っているか……ともかくホヨヨちゃんはレベルに加えて装備面でも他のFクラスメンバーから一歩進んでいる。頼もしい限りだ。


 一通り施設を見た後は……お待ちかねのダンジョンだ。受付や入口は相変わらず冒険者達でごった返している。一気に40人増えてしまってもそんなに変わらないように見えるほどだ。Fクラスの主人公達はこの後冒険者ライセンスを取得し、やっとダンジョンに入れるようになる。


▽千堂先生

「は~い まずはここで冒険者登録を行います!

 この用紙に必要な情報を書いて提出してくださいね~

 ええと……明都院さんは中等部からの進学だから必要無いとして………あら?

 海月野さんも登録済みですねぇ

 ではお二人以外に用紙を配りま~す

 ………あっ そうだ

 海月野さんはこの後残って先生に付いてきてくださいね~」


 ……おや? ホヨヨちゃんが先生に呼び出しを受けている。原作には無かったイベントだ……何だかちょっと気になるな。ダンジョンに潜るのはホヨヨちゃんの用事が終わってから……長引きそうならまた明日にしよう。幸い私に話しかけてくれそうな人は誰もいない。決してぼっちという訳ではない。決して。うん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る