第13話 ジェリー錬金術

――SIDE.明都院 割美




 【ホワイトジェリー】を……さらに他のジェリーと合体させる。正直、発想自体はあった。その場合候補となるものは1種類しかいない。【ブラックジェリー】だ。


 【ブラックジェリー】は1時間に一度、エリア全体のどこかに3匹まで出現する。全体的に明るいエリアなので透明感はあれどその黒い体は見つけやすい。以前1Fの魔物はノンアクティブ型と言ったが…【ブラックジェリー】は例外で【アクティブ】型だ。しかしこちらの存在に気付いても能動的に襲い掛かってくるのではなく、逆にのだ。


 ……ある時、膨大な時間をかけて【ホワイトジェリー】と【ブラックジェリー】を合体させようと実験したプレイヤーがいた。逃げる【ブラックジェリー】を大量に生成した【ホワイトジェリー】のいるエリアに追い立ててどれか一匹にでもくっつけようと動き回らせる。

 そして2匹は重なった……が、何も起こらなかった。その結末にラブたんプレイヤーは大いに落胆した。そうしてこの稼ぎワザ…【ジェリー錬金術】は【ホワイトジェリー】までしかないという結果となった。


 ………だが、もしかするとこの世界なら………そんな期待を込めて待つこと十数分、【ブラックジェリー】を両手で3匹抱えたホヨヨちゃんが戻ってきた。


 いやいや待ってくださいまし。【ブラックジェリー】は冒険者を見ると逃げ出す魔物なんだけど。なんで君が持ってるその子達そんなに無警戒でのんびりしてるの。おかしくない?

 あっ、待って。そんなノータイムで【ホワイトジェリー】に向けてくっつけられたら心の準備が……


*ぷにょん*


 ウソでしょ。なんか灰色になったんだけど。慌てて灰色になった謎の【ジェリー】を《初級鑑定》で見てみる。名前とレベルだけなら分かるはずだ。



【Lv4:グレージェリー】



 Lv4!? 【ホワイトジェリー】より1高い……という事は、より上位の魔物という事になる。そしてジェリーのセオリー通りならこの【グレージェリー】も簡単に倒せる……ジェリー錬金術がとんでもなく有用になってしまうぞ。素材となる【ブラックジェリー】は出現数が非常に少ない為時間当たりの効率は少なくなるものの、CLv9まで1Fだけでレベル上げが出来てしまう。

 ………レベル上げの革命をこの目で見届けたのも束の間、残りの【ブラックジェリー】も【グレージェリー】に合体させると……今度は【グレージェリー】同士を合体させようとしているではないか。いやいやいや。さすがにそれ以上はもう……


*ぷにょん*


▽ワルミ

「ぉ゛ふん」


 いや、変な声も出ますわよ。一体何が起こっているんですの。【グレージェリー】2匹が合体して……また黒くなってしまいましたわよ。でも【ブラックジェリー】に比べてサイズがものすごく大きくなっているしなんだか絶妙にメタリック……ああもう《初級鑑定》!!


【Lv5:アイアンジェリー】


 【ジェリー錬金術】とはよく言ったものだ。まさか本当に金属の名を冠するジェリーが生まれてしまうとは。マッドアルケミストホヨヨちゃんはふにゃりと笑いながら【アイアンジェリー】を優しく撫でている。こうなったらとことん付き合ってやりますわよ、ええ。




――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――




 【ブラックジェリー】の再出現を二度ほど待ち…2時間経過した。【アイアンジェリー】同士を合体させてLv6の【ゴールドジェリー】を爆誕させてしまった。しかも2匹。マジで金を生み出しちゃった。もう笑うしかない。


▽ホヨヨ

「………では、合体させます」

▽ワルミ

「はい」


 体長2mほどにまで巨大化した【ゴールドジェリー】同士をゆっくりと近付け……くっ付いた瞬間、強烈な光を放ち始めた! あー!! ヤバイ!! たすけて!!




 ――― 光が収まり、おそるおそる目を開ける。そして目の前には………




▽???

「プイ」




 少女の形をしたが佇んでいた。


 ……錬金術ってさ。賢者の石だとかエリクシルだとかホムンクルスだとか……不老不死や人工生命について研究してたよね……もしかしてそっち系……? 恐る恐る《初級鑑定》を使ってみる。




【Lv7:☆プリンセスジェリー】




 わあ、ラブたんの敵データに無い種類ばかりか【ユニークモンスター】だ。低確率で出現する特殊な魔物で、見た目や強さは通常個体と変わらない…が、倒すと2倍の経験値と魔石を得る事ができ、通常のドロップアイテムとは別にレアアイテムが入った宝箱を1つ必ず落とす。階層を問わず貴重なアイテムを手に入れられるボーナスモンスターである。これはレアモンスターやボスモンスターにも適用され、そうなった場合得られる報酬はとても豪華になる。一度は拝んでみたいものだ。


 ………改めて【プリンセスジェリー】を眺めてみる。この個体もノンアクティブ型らしく、襲い掛かってくる様子は無い。体長は人間の…中学生くらいか。ホヨヨちゃんより高い。姫の名を冠しているだけあってドレスを着たような造形をしており、顔立ちやスタイルも美しく整っている。そして仄かにピンク掛かった艶やかで透明感のある色味は……なんだかえっちだ。


▽プリンセスジェリー

「………オマエ タチ モ ワレ ヲ イジメル ノカ?」


 ワルミでも、ホヨヨちゃんでもない、可愛らしい第三の声色……間違いない、は人間の言葉を解し話しかけてきたのだ。


▽ホヨヨ

「ノン! ホヨはいじめません

 おともだちになりたいです!」


 ホヨヨちゃん、ドストレートに行った! 正直私も魔物と友達になってみたいという思いはある。だがラブたんは勧善懲悪の色が強いゲームだ。魔物は「絶対悪」として決して相容れない存在として描かれている。仲間として迎え入れるのは容易ではないはずだ。【プリンセスジェリー】はホヨヨちゃんを見定めるようにじっと見つめて………少しだけ表情を緩める。


▽プリンセスジェリー

「………オマエ ナカマ イジメ ナカッタ シンジテ モ ヨイ ノカ?」

▽ホヨヨ

「………ホヨは立派な冒険者になりたいです

 でもそのためにはダンジョンの魔物を倒して強くならねばなりません

 ホヨは……これからたくさんの魔物をいじめようとしています」

▽プリンセスジェリー

「……カマワヌ ホカ ノ マモノ ドモ モ ワレラ ヲ イジメル

 ユエ ニ ワレ モ ツヨク ナリタイ

 トモ ニ タタカッテ クレル カ?」


 ……ジェリーはラブたん最弱の魔物。ここはジェリー以外の魔物は出現しないが、様々な種類の魔物が同じエリアに現れる【ランダムダンジョン】では……よく他の魔物達に攻撃されていた。アレは……そういう事だったのか。心中お察し申し上げる。


▽ホヨヨ

「………はい! 一緒に頑張りましょう!!」

▽プリンセスジェリー

「………コレ ヨリ ワレ ハ ナンジ ト トモ ニ」


 ………そうだ。彼はラブたんの事を。私達プレイヤーの固定概念を持っていない。彼にとってこの世界は……すべてが未知で、限界が無い。私達が「出来ない」と断定していたを知らないからもう一歩先に踏み込める。だがそれはゲーム知識というがあるからこそではないだろうか。

 私の「ゲーム知識」と彼の「踏み込む力」。この二つを上手く噛み合わせる……そうすれば、私達の未来はもっと明るくなるだろう……と、そんな予感がした。


 ホヨヨちゃんと堅い握手を交わした【プリンセスジェリー】が、光を放ちながら薄ピンク色の可愛らしい指輪に変形する。あの輝きは……恐らく【アーティファクト】。世界に一つしか存在しないと言われる、冒険者ならば誰もが羨む希少なアイテムだ。そっと《初級鑑定》で名称を確認してみる。




装備/指 【Lv7:★リングオブジェリー】(祝)




 この★マークはアーティファクトである証。絶対に壊れたり盗まれたりしない性質を持つ。(祝)とは祝福状態の事。聖水などの触媒を使い、《エンチャント・祝福》スキルを使う事でアイテムの性能と耐久力を少しだけ上げる事が出来る。効果は永続。そして装備を外せなくなる呪いも弾いてくれる付け得の効果だ。もっと高い等級の鑑定ならこのアイテム自体の効果も調べられるのだが……


 そしてレベルが付いている、という事は……このアイテムはする。ラブたんには【精霊エンチャント】や【生きた武器】などレベルアップして保有効果を強化できるアイテムが存在する。【プリンセスジェリー】が言っていた「共に戦う」とはそういう意味なのだろうか。




―――【フリーストーリー完了:ジェリーの願い】―――




 突如、体に異変が起こる。全身の細胞が隆起するような違和感と、今なら何でも出来そうな全能感。話には聞いていたが……が体験するのは初めてだ。


▽ホヨヨ

「わわわっ………! こ、これは………!?

▽ワルミ

「…【レベルアップ症状】………わたくし達冒険者がレベルアップした時に起こる

 一時的な身体と精神の異常ですわ

 健康には何も問題ありませんわよ…ほら、達成感だけが残りましたわ」

▽ホヨヨ

「わ、わぁっ……… ホヨはレベルアップしたんですね! やったー!!」


 なるほど、これは【フリーストーリー】だったのか。ラブたんにもアーティファクトが入手できるフリーストーリーがいくつか存在していた。決して変な事では無い。しかしLv8の私もレベルアップするほどの経験値……予想外だが非常に美味しい。今日はホヨヨちゃんと来て本当に良かったと思う。

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