第12話 ファースト・ダンジョンダイブ

▽受付のお姉さん

「それではここにお名前と住所を………

 そう そこだね カウンターが高くて書き辛いだろうけど…頑張って」

▽ホヨヨ

「ん゛に゛に゛に゛に゛に゛………ほあー! ほあぁぁぁ」

▽ワルミ

*穏やかな笑み*


 ホヨは今、冒険者のライセンスを発行するべくギルドの新規冒険者受付に来ています。冒険者学園の生徒であれば生徒証代わりにもなる冒険者端末と個人情報の登録だけで発行してもらえます。

 本来は明日のオリエンテーションで一括登録するらしいのですが、一日でも早くダンジョンに入ってみたかったので一足お先にしちゃいます。ホヨは一歩先の未来をゆくのですよ。フフリ。

 冒険者にはレベルの他にも【ランク】があって、10級から始まり1級まであるそうです。このランクは冒険者としての名声や格を表しており、ランクを高める事で報酬がたくさんもらえる高ランクのクエスト受注や上質な装備の製作依頼が行えるようになるなど特典がいっぱいあります。冒険者学園の生徒は登録時点で9級になれるそうです。とてもお得です。


▽受付のお姉さん

「………記入漏れ無し 登録は正常に完了したよ 今日からキミも冒険者だ!

 頑張ってね~~~」

▽ホヨヨ

「えへへ………がんばるます!」


 受付のお姉さんから9級冒険者ライセンスを受け取ります。ついでにホヨの頭を「えらいぞ~」とナデナデしてくれました。ナデナデは嬉しいのですがホヨは高校生です。もうちょっとくらいオトナ扱いしてもらってもいいのですよ……


▽ワルミ

「………ねえホヨヨちゃん…それ本当に素でやってますの?

 あまりにもマスコット味がすごいですわよ………」

▽ホヨヨ

「ほよ? ホヨはいつでもホヨですよ~

 マスカットはホヨも好きですね~」

▽ワルミ

「ああ…うん そうですわね

 ではダンジョンの入口に向かいましょうか」

▽ホヨヨ

「あい~~~」




――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――




 【フジヤマダンジョン】入口。ライセンスを持たない者を侵入させない厳重な警備システムが敷かれ、ゲートの前には冒険者達が長蛇の列を作っています。ワルミちゃんの話によると、ダンジョンには2種類あるそうです。このダンジョンのように同じ場所に存在し続ける【固定ダンジョン】、定期的に新しく作り直されて一定領域内のどこかに出現する【ランダムダンジョン】。


 ランダムダンジョンは固定ダンジョンに比べて階層は浅いものの、内部構造や出現する魔物の種類、攻略推奨レベルなどが毎回変わる為非常に難易度が高く、ギルドはダンジョン攻略をクエストとしてオークション形式で発注しています。

 冒険者の間では一度でも適正な攻略レベルでランダムダンジョンを制覇すれば一流だという程難しく名誉な事だとか。ランダムダンジョンが生え変わるのは1週間に一度。地殻の変動が起きてズゴゴゴってなるらしいです。


 そんなこんなでお話ししながら数十分。やっとダンジョンゲートに辿り着きました。黒いけどキラキラした不思議な壁面。ゆっくりと触れれば不思議な感覚が包み込んできます。そのままゆっくりと歩を進めて………


 十数歩。急に視界が開けました。床や壁、天井は一面ベージュ色の不思議なタイルが敷き詰められていて、冒険者ギルドとは全く違うつくりをしていました。辺りにはたくさんの冒険者に食べ物と雑貨の屋台、レストランなんかもあります。ここは魔物が現れないセーフティエリアで、戦うにはもっと横に逸れていかないとダメなんですって。と言う訳で向かいましょう。


▽ワルミ

「ここ1Fにいるモンスターは【ジェリー】………

 倒しても魔石やアイテムを落とさない、文字通りの魔物ですわね

 Lv1の【レッドジェリー】【ブルージェリー】【グリーンジェリー】、

 Lv2の【パープルジェリー】【イエロージェリー】【リキッドジェリー】…

 レアモンスター枠としてLv2の【ブラックジェリー】がいますわ


 ぶっちゃけどの魔物も強さは同じくらいなのでLv2のジェリーを積極的に…

 と言いたいところですが、実はとあるがありましてよ」


 歩き続けて十数分……人気がまったく無くなり、代わりにたくさんの【ジェリー】がぬおぬおと動き回るやや広いエリアに出ました。地上では見た事の無いカラフルな【ジェリー】達……紛う事なくダンジョンの中なのだと再認識させられます。


▽ワルミ

「試しに…そうですわね

 まずそこにいる赤色と青色のジェリーをくっつけてみてご覧なさい?」


 言われた通りにもよもよと動く【レッドジェリー】にそっと近付き……優しく持ち上げます。ここにいる魔物達は【ノンアクティブ】と呼ばれ、こちらから攻撃しない限り襲い掛かってくる事は無い穏やかなタイプだそうです。現にホヨがよいしょと持ち上げた【レッドジェリー】は、腕の中でもぷるぷると大人しいまま。

 程よい弾力とひんやりぷにぷにした感触がとても心地よく、こんな子を今から倒そうとしてると思うと……いいえ、これも強くなる為です。心を鬼にせねば。持ち上げたそれをすぐそばにいる【ブルージェリー】に同じくそっとくっつけて……


*ぷにょん*


 わお! 合体してLv2の【パープルジェリー】になってしまいました!


▽ワルミ

「………をご存知?

 赤、青、緑の光を重ねると色が変化して、白に近付いていく…というものですわ

 赤と青で紫、赤と緑で黄色、青と緑で水色…そして三色合わせると白。

 この【ジェリー】達にも似たような原理が働くのですわ

 しかしレッド・ブルー・グリーンを合わせても

 残念ながらホワイトにはなりませんの ですが………


 紫、黄色、水色を合わせるとLv3の【ホワイトジェリー】が誕生しましてよ!

 と言う訳で早速合体させてみますわよ!」


 そんなまさかと言われた通りに【イエロージェリー】【リキッドジェリー】を生み出し、3匹の【ジェリー】をそっと近付けて………


*ぷにょにょん*


 わお! 真っ白! まさに【ホワイトジェリー】です!


▽ワルミ

「この【ホワイトジェリー】は他と同様ノンアクティブで強さも同程度ですわ

 でもLv3なので倒して得られる経験値が跳ね上がりましてよ

 ラブたんプレイヤーの間では有名な稼ぎワザなんですの

 この世界でも可能であるか試しておきたかったのですわ


 …これで確信しました

 他にもこういった効率的なレベルアップ方法はたくさんありましてよ

 それらを活用すればわたくし達は短期間でグングン成長できますわね!

 オーッホッホッホッホッホッホ!!」


 急に高笑いを始めたワルミちゃんを見て【ホワイトジェリー】がぷるぷると驚いています。それにしても………【ジェリー】………合体………ホヨにはまだ何かヒミツがあるような、そんな予感がしてきました。そして答えは……すぐそばに。


▽ホヨヨ

「………あの ワルミちゃん

 この【ホワイトジェリー】も……他のジェリーと合体できませんか?」

▽ワルミ

「………いえ 残念ながらラブたんではこれ以上の合体はできませんでしたわ

 ですが……… 可能性自体はありましてよ」



 試す価値は、ありそうです。

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