第3話迫る時

 時は流れて実りの秋。木々も色づき、制服も夏服から冬服へと変わった。

 そんな中俺は相変わらず七瀬に振り回されていた。

 その日は学校の文化祭の日で、俺は屋上でサボろうとしていたがそんな俺を七瀬がみすみす見逃すわけもなく、各教室を引きずり回されていた。

 七瀬は人気者だったため俺と一緒にいたら回りから変な目で見られてしまうのではないかと危惧する俺の気持ちなど置き去りにして七瀬が話始める。


「あ、ラムネだってラムネ!買いにいこーよ蓮斗くん!」


「おい、待てって…聞いてないな」


 彼女は文化祭の空気に興奮していたようだった。昔は体が弱かったと言っていたことから祭りに行く機会が無かったのだろう。本当に子供みたいなやつだと思った。


「ねぇ、これ開けて」


「ん、貸せ。…ほら」


「ありがと。蓮斗くんもちゃんと男の子なんだね!」


「当たり前だろ。病人に無理させられないしな」


「お?言うようになったね〜?もう半年もないんだからな〜?」


 昔は体が弱くて、ようやく育ったと思えば一度の不幸により人生はもって半年。そんな絶望的な状況で彼女は死を受け入れている。

 今もこうして隣で歩いている彼女の心境が俺には理解出来なかった。

 

「あ、あれ見て。お化け屋敷だって」


「びっくりすると寿命縮まったりしないのか?」


「そんなことないから!というか私おばけ苦手だから行かないし!」


 …子供みたいなやつだ。わざとらしく頬を膨らませて怒っている。

 七瀬はしばらくしてから俺に顔を覗き込むようにして声を掛けた。


「ねぇねぇ蓮斗くんしってる?人は死んだときに誰かに対して未練があるとその人を呪うんだって」


「へぇ…」


「私が死んだ時は蓮斗くんのこと呪ってあげるから覚悟してね!」


「…そりゃ楽しみだ」


 当時の俺はこの言葉に苛まれることになるのを知らない。


「あ!クレープだってクレープ!私久しぶりに食べたい!ねぇ蓮斗くん」


「…止めても行くんだろ?」


「分かってるじゃん。行くよ!」


「はは…全く、元気なのやらそうじゃないのやら…」


 俺は前を行く彼女の後をついて歩いた。不意に彼女の胸元から白い何かがはらりと落ちる。拾い上げたそれはカモミールの花びらだった。

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