第2話君と海
ある日の事だった。彼女が突然海に行きたいと言い出した。
その日は学校も午前授業で早めに終わるため時間は問題無かったのだが、俺はその一言に苦言を呈した。なんせこの学校から海までは電車を乗り継がなければいけなく、移動が面倒臭い。加えて田舎に通る電車など数時間に一本程度なため、逃した時の事を思うと頭が痛くなる。歩いて帰るのなど御免だ。
だが、そんな俺を七瀬が気にするはずもなく、俺はズルズルと引きずられながら海へと向かうことになった。
「わぁ…きれー!」
電車に揺られること小一時間、俺と七瀬はようやく海に到着した。着いた頃には既に日が傾き始めており、人も俺達以外には見当たらなかった。
海水を手ですくいながら感嘆の声を漏らす七瀬とは裏腹にぐったりしている様子の俺をおいて彼女は話し始める。
「私、海なんて小さい頃にしか行ったこと無くてさ、こんなに綺麗なんだね!」
「あぁ、そうだな…」
適当な返事を返した俺に七瀬はむっとしながら言った。
「なんか適当じゃない?いいから蓮斗くんもこっち来なって!」
「誰のせいで疲れてると思ってるんだ…少し休ませろ」
「えー?時間がもったいないって!」
そうは言われても体力の無い俺は立っていることすらも辛い。
砂浜にへたり込んだ俺はまるで子供のような目で海を眺める彼女を見つめる。
余命が半年と分かっていても尚希望に溢れた表情を見せる彼女。
体が得体の知れない奇病に蝕まれても下を向かない彼女。
美しく儚い彼女。
対して自分に残ったものはなにもない。俺は自らを酷く蔑んだ。
「どうしたの蓮斗くんそんなお堅い顔しちゃって」
不意に顔を除き込んできた七瀬にためらいながらも俺は聞いた。
「…なぁ、一つ聞いてもいいか」
「何?」
「…こんな事聞いていいのか分からないけど、お前ってなんでそんなに元気なんだ?」
俺の言葉を聞いた七瀬は不思議そうな表情を浮かべるとすぐに答えた。
「?それはだって私、後先短いし…楽しく過ごさなきゃ損でしょ?」
悠然としてそう言い放った彼女を見て俺は固まってしまった。理不尽にも自分の命を奪っていく奇病を憎むことなくその運命を受けれている彼女に。
皆平等に与えられているそれは彼女にはもう残り少ないものだと言うのに今もこうして笑っている彼女のことが俺は理解出来なかった。
そんな事を考えていると冷たい感覚が顔を襲う。
「うわっ!?」
「何辛気臭い顔してんのー?いいから遊ぼうよ」
「…七瀬てめぇ」
「あははっ、怒った〜!」
その後俺と七瀬は気が済むまで二人で水を掛け合った。…なんと痛々しいことか。二人共疲れて終点まで寝過ごしたのも今ではいい思い出…かもな。
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