第34話 それぞれのハーフタイム

~FC vanguardサイド~


 レジェンドリーグ初の、得点をリードした状態で迎えたハーフタイムは、リードしてるとは思えない緊張感で始まった。


「同じ攻撃は通用するのか?」


 そう全体会議に問いかけたのは灯理ともりだった。


「現在うちが持つ有効的な攻撃手段は3つ。1つはごうの攻撃。次にかけるまことの合わせ技。最後に神住かすみ。ただ、守りの要である神住かすみを使うのは、あまりにリスクが高いと思う。」


「そうだね。少なくとも、リードしているうちはやめておこう。ごうに対して相手はどんな対策を立ててくるかな?」


「基本、人数を割いて止める以外ないと思います。突破力・得点力共に高水準ですから。ただ、さっきみたいに完全にフリーな状態じゃないとシュートを打つのは厳しい気がします。」


ごう自身はどうだい?」


「おでは、えっと、ボールを持つことができたら何でもできると思うど。」


 どこか申し訳なさそうなごうに対して、その言動のギャップから和やかな笑いが広がる。


「そりゃ頼もしい限り。」


「本当だね。じゃあ、ごうには守備を捨てて攻めに専念してもらおう。陣取る位置は……ゴール前か、中央か。」


「リードしているうちはゴール前でいいんじゃないですか。敵の主力をごうのマークに回せますし、もしノーマークでごうが立てれば雑にボールを放り込んで終わりです。」


「そうだね。もし点を取り返されたら中央まで下がってもらって攻撃の起点になってもらいたいところだけど……。」


「問題はそこですよね。」


「……そんなに考え込むほどのことなのか?前半みたいにごうからまことにパス出して終わりじゃないのか?最悪俺がまことのサポートすれば、第二の矢みたいな感じでむしろ強そうだけど。」


 そうかけるが聞いた。


「まさに、それが問題の核なんだよ。かける。」


「?」


「このパターンで動く場合、ごうかけるも、まことなしでは効果的に動けないんだ。」


 確かに、ごうを中央から展開する場合、俺がごうの狙う空きスペースに潜り込むか、俺がかけると共にシュートを打つしかない。そして……。


「俺を完封するのはそんなに難しくない。」


 無能力の人間を抑え込むのはたった一人技を使える人間がいれば大体問題ない。きずなたちも認識は同じようで、深く頷いていた。


まことが完封されるとなると、前線で動く機動力要員がかける1人になる。それに対する相手の対策は、まずかけるを潰すこと。そして、かけるからのパスをごうに通さないこと。」


「潰せるもんならやってみろってんだ!」


「まあそう憤るな。最悪を考えた場合、かけるが動けなくなるのが一番まずい。いよいよ追い込まれて神住かすみを攻めに参加させるとなったときも、依然突破力と機動力の主力はかけるだからな。」


 そう灯理ともりに真っすぐ言われてたじろぐかける。それを見て冷たい目を向けるふう。表と裏が共存するロッカールームに、突如完全な部外者やってきた。


「なんか難しい話してるとこすまねぇがよぉ。要は、まだ攻撃力が足りねぇってことだろ?」


義一ぎいち!?」


 関係者以外立ち入り禁止のこのエリアになぜか白狼はくろう 義一ぎいちが紛れ込んでいた。


「よぉ、久しぶりだなまこと。随分調子よさそうじゃねぇか。」


 何も気にしない様子でそう言ってくるので拍子が抜ける。義一ぎいちは何かを探すようにぐるっと部屋を見回した後、会議の中心にいた2人に向かって話し出した。


まことは実質0人だとして、現状お前らと戦うときに警戒すべき人間は2人。けど、ボールを持たせたらまずいと相手に思わせれる人間が3人は欲しいよなぁ。サッカーの基本は3人だからよぉ。とはいえ、その頭数に神住かすみさんとやらを含めるのはリスキーだ。なら、誰がやるか。」


「……それを示すのは、自分が適任だと言いたいんだね?」


「さっすが、話が早くて助かるぜ。」


 大げさにきずなを褒めた義一ぎいちは、つかつかと歩きながら、ロッカールームの隅にいた勇牙ゆうがのもとへ歩み寄った。


「ちゃんと話は聞いてんだよな?」


「あぁ。」


「お前が3人目だ。へっぽこストライカー。」


 静かなにらみ合いが勃発する。勇牙ゆうがは何も言葉を返さない。その様は、自分の罪を認めているかのようだった。


「お前、あんまりうぬぼれるなよ。」


「……うぬぼれてなんかねぇよ。」


「おいおい!随分と返答がゆっくりじゃねぇか!!自覚してんじゃねぇの!?てめぇの空っぽさをよ!!」


 煽る義一ぎいちに対して項垂れることで返答する勇牙ゆうが。その様子を見てゆっくり諭すように義一ぎいちが口を開いた。


「凡人は妄想し、天才は事実をかき集める。お前が心底憎んでる天才はそうやって強くなってきたんだ。……で、お前が積み上げてきた事実は何だ。不屈の精神か?凡人の光になったときのファン対応か?違うだろ。お前が積み重ねてきた事実は、そんな小綺麗なものじゃねぇ。思い出せ、なんでお前が負け続けてもなおサッカーを続けたのかを。まさか、諦めないことに価値があるだなんて言わねぇだろ?」


「……俺は、」


「おっと、返答はフィールドの上の事実で頼むぜ。こんなとこで吐いた言葉なんざ、ただの妄想だ。」


 そう言い残して、義一ぎいちは去っていった。自身の分身に思いを託して。

 

 その後再開した会議の結論は、ごうを囮に展開するというものだった。相手の裏をかく戦術を取り、かけるきずなで場を翻弄する。そして、ごうへの警戒が薄まった瞬間にゴールを狙うという方向性だ。とても相手の失敗依存の作戦だ。だが、こちらのアドバンテージを大いに利用しようとすると、中盤で相手を引き付けるのはそれなりに理にかなっている。だが、そのこの中盤での維持は当然リスクも伴う。そのリスクを踏まえたうえで、追加得点を狙いにいくという決断で会議は終わった。



~大国天原サイド~


日元ひもと火囃ひばやしのマークを徹底する。」


 南方みなかた主導で進められた会議の大筋はこのようなものだった。


「具体的には?」


「日元には大河内おおこうちを付ける。火囃ひばやしには氷室ひむろと俺が付く。」


ごうの対応はどうすんだ?」


「雑なパスは天津あまつ、お前が全て回収しろ。強行突破を仕掛けてくる場合は、総力を持って止める。」


「……攻撃は?」


 天津あまつがそう聞いた。それに対して、南方みなかたは分かっているだろうと言わんばかりに見つめ返す。


「リスクを取らずに点を取ることはできない。」


 その言葉を聞いて、そのリスクが、守備が薄くなるというだけのリスクでないと天津あまつは理解した。


 思想ばかりで実力が伴わなかった若者。成功の奴隷と化した功労者。若者は、功労者のことを過去に囚われ未来を諦めた軟弱者だと嫌悪し、功労者は、若者のことを何もわかっていないにもかかわらず、血反吐を吐きながら積み上げた基盤を崩そうとするならず者だと嫌悪した。ただ、どちらも勝利を求めていた。それだけは間違いなかった。

 過去の過ちを謝る気はない。相手にも非があるのに、こちらだけが謝る気など決してない。ましてや、お互いに仲良くしようねなどと言うことはあり得ない。だが、それでも……


「「やるぞ。」」


 過去と未来、互いに望む過程は違えど、望む結末は同じだった。今この瞬間、大国天原にチームの芽吹きという風が吹いた。


 後半戦が始まる。

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