第30話 背番号6番 火囃 駆
「
「なんだよいきなり。」
技の練習中に
「速さだけを追い求めるならサッカーじゃなくてもできるだろ?なのに何でサッカーを選んだのか気になってさ。」
「そんなの……なんでだろ?」
なんかいろいろ理由はあった気がするけど、よく思い出せない。そんな俺の反応を見ておかしそうに
「そうやって笑ってる
収まりかけの笑いと一緒に「俺?俺は…」と
「サッカーを信じてるから。」
そのシンプルだけど聞いたことの無かった答えが、妙に腑に落ちた。サッカーをやってる理由を考えたときに浮かんできた映像たちが、その一言によって整頓されたような気分だった。
俺が1人で呆けていると、
「何してんだ?」
「いや、さっきの自分の答えでなんか良いアイデアが降ってきそうな予感が……。サッカー、サッカーが鍵な気がするんだよな。」
「うーん、うーん」と数十秒ほど捻った
「俺のサッカーと
「?」
こいつは急に何を言い出すんだ。俺のその冷たい反応に気づいたのか、
「俺のサッカーは超能力とか存在しない駆け引きのサッカーだけど、
それすらも俺は上手く理解できなかったが、なんか
「その考え方でいけば……。
そう言って
・ ・ ・ ・ ・
身体能力にモノを言わせるようなサッカーではなく、相手の脳内を上回っていくかのようなサッカー。何か一つの要素で上回っているというよりは、サッカーそのもので上回っているようなその
思考が繋がっていくような感覚と共に瞳孔が開いていくのが分かる。開かれた瞳に対してぼやけていく視界の中、鍵となる思考、いや、思想が浮かび上がってきた。
『あいつに勝ちたい』
そのためにもっと速く。そのために火力を。そのために……。俺の成長の鍵となるもの、いや、俺の成長を妨げていたものはすぐ近くにあった。
「俺が……敵か。」
その瞬間、全てのピースが急速に埋め込まれていった。敵に勝つという手段が目的になっていて、速さというものを見失っていた。俺が信じた速さは、こんなものじゃない。相手に勝つなど意識せずとも、否応なく相手が散っていく。速さが持つ可能性が、俺の思考をグングン加速させていく。自分の世界観を敵視できたことによって、
(線の速さでは頭一つ抜けることができない。自動車が新幹線になるぐらいの成長は誰でもできるだろう。だから、点の速さだ。俺がこの世界に来たときのような、ワープするような速さってどうだ?)
・ ・ ・ ・ ・
無能力者のほうは厄介だが、こっちはなんてことない。猪突猛進だけの雑魚だと侮っていた。そんな
風すらも音を鳴らすことをためらいそうなほどの静止。ボールに添えられた片足は、自分が本来いたはずの場所を探すかのようにゆっくりとボールの縁をなぞっている。そして、その足とボールで1つの作品だったのだと錯覚させるほどの異様な完璧さと共に、得体の知れない圧が
居合後に刀を鞘に収めるときのように踏み込まれた足は、
「勝負だ!
ゴール前で待つ
「来い!
身構える
英熱高校との試合で奇跡的に噛み合った2人の力。それを再現しようと
轟轟と唸る
亜音速の獄炎弾が目にも止まらぬ速さでゴールへと突き刺さった。
1-1
ぐっと握りしめられた小さな拳は、己の勝利を、そして速さの証明への歓喜を押し震わせながら天へと掲げられた。
「しゃあああぁぁぁぁぁああ!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます