第27話 背中は任せろ

『どうも皆さんこんにちは~!!先日の勝者側準決勝で起きた大番狂わせはご覧になりましたか?まさかあの天魔てんま 六道りくどう君率いる将皇学院が、今年度初出場の無名校に大差で破られてしまうとは!!王者英熱高校の永遠のライバルと言われている将皇学院を降したチームでは、なんとなんと!無能力者がキャプテンを務めているそうじゃないですか!まさに王道!少年漫画の主人公のような快進撃!!』


 俺たちの試合とは全く関係の無い話が解説席から流れてくる。けれど、観客たちはそんな型破りな語りを許し、そして何かを待ち望んでいるようだった。


『だが!!私たちが求めているのはもっともっと刺激的な下剋上だ!!幾重にも塗り固められた絶望を乗り越え、私たちに、そして何よりも自分自身に感動を与える権利を持っているのはこの2チームをおいて他にない!!』


ソウダソウダ!!


『東コート!!逆境逆境また逆境!!彼らに生ぬるい試練は似合わない!!下馬評も才能も全て覆し、再び王者に相まみえることはできるのか!?神殺しを願う亡者ども!!その名は!!FC~~vanguar~~d!!!』


ワアアァァァ!!


『西コート!!2位争いで満足か!?そんなわけないよなぁ!!中高一貫6年間!受け継がれてきた敗北の怨念は青天井!!人間ごときが道を阻んでんじゃねぇ!!武神宿る地より降臨したアラヒトガミども!!大国天原おおくにてんばら高校~~!!!』


ワアアァァァ!!


『レジェンドリーグ敗者側2回戦!!キックオフです!!』



・・・



百福ひゃくふく きずなは精神を研ぎ澄ましていた。


「背中は俺に任せろ。」


 控室で神住かすみが言ったその言葉は、彼らにどう響いただろうか。分かりやすい反応を見せたのは、FWの面々だった。まことは怖いほどに冷静で、ごうは、この場から消えてしまいたそうに縮こまっていた。そして、勇牙ゆうがは、虚勢を張るかのようにドンと胸を張った。

 前の試合とは違う。1人抜きんでた者が現れたからこその緊張感。仲間と敵、両方から圧力をかけられているかのような緊張感。これは、そんな外圧を跳ね除けるほどの自我を手に入れる戦いだと思った。少なくとも、私にとってはそうだった。



・・・



日元ひもと まことは色々と考え事をしていた。


 もはや整理できないぐらいに色々と考えながら、キックオフと共に受け取ったボールを流れるようにサイドのかけるへと送る。1人目のキーパーソンだ。偵察後の時間を使って、可能な限り可能性を模索した。だが、まだ殻を破れたわけではない。以前よりも火力の上がった燃える闘気は、天津あまつ 御雷みかづちが纏う雷撃を前に打ち砕かれた。かけるの技が面のように襲い掛かってくるとすれば、御雷みかづちの技は点で貫いてくるようなものだった。火力が同じであったとしても密度が違う。敗北は必然だった。

 

 かけるからボールを奪い取った御雷みかづちの前へ立ち塞がる。俺のDFは、相手の体力を消費させることを目的としているため、それ以外の全ては何も考えていなかった。どんな工夫をしようと、力でねじ伏せられるからだ。故にこの一瞬だけは一種の諦めの境地に達していたのだが、ある違和感が俺の思考を加速させた。


 凝縮された御雷みかづちの技は、接触する瞬間まで俺の体へ干渉してこなかった。かけると相対したときは、ボールに触ることもできず体の自由を奪われたのに、御雷みかづちの場合は違った。これは、もしかして……。



・・・



黒血くろち 勇牙ゆうがは焦っていた。


 何者でもなくなってしまう。防御もできなければ攻撃も弱い。挙句の果てにサッカー以外取り柄が無いときた。そんな俺の焦りを加速させるように、神住かすみが敵の速攻を防いだ。そして、俺のもとへボールが回ってくる。誰も俺が点を取れるだなんて思っていないだろうに、機械的に俺のもとへボールが回ってくる。


 俺は、俺はこんなところで終わりたくない。もっともっと……。漠然とした、キラキラして心が滾るような理想を求めるように、足をゴールへと振りぬく。着実に技は成長しているはずなんだ。俺基準ではかなり調子よく成長してる。それでも、目の前にそびえ立つ大木や氷柱、風の塔を前にしてシュートは勢いを失ってしまう。キーパーに届かずに止まってしまう。今までの絶望とは格が違う。


 今までは、雲を掴むような絶望だったからこそ、逆にがむしゃらになれた。でも、今目の前にあるのは、子どもの努力を嘲笑う大人のように痛いほど現実味を帯びていて、ふと我に返ってしまいそうになる。


(古い存在はさっさと絶滅したほうが良いぞ。新時代の枷になる。)


 なんで天帝の言葉を思い出すんだか。ちゃんと現実を歩いてきたやつだと本能的に理解しているのだろう。俺達雑草の努力なんざ夢物語に過ぎないのかもしれない。それでも、このグツグツ煮えたぎる衝動が叫んでいる。絶対に消えてなんかやらないと。



・・・



ごう 如月きさらぎはおびえていた。


(期待はずれだったわw)


 そう声が聞こえてくるようだった。試合前、自分がFWにいるよりも、神住かすみ君と代わってDFになったほうが良いんじゃないかと聞いてみた。「それがお前のしたいサッカーか?」と神住かすみ君が聞き返してきた。何も言えなかった。


(誘ったの失敗だったなw)


 勇牙ゆうが君が打ったシュートを止めて、相手が再び速攻を仕掛けてくる。こんなおででも唯一自信を持って人前で披露できるものがある。それがこの技だ。どれだけ生身の肉体を上手く扱えていなかったとしても、この領域ではみんなと一緒になれる。自身の半径10メートルに空間が歪むほどの重力を発生させる。だが、紙一重のところで雷を纏った子に避けられてしまった。


「ナイスだ!ごう!!」


 失意に呑まれる暇もなく、まこと君の声が響いた。重力で音すらも歪む世界で、彼の声は真っすぐオデのほうに飛んできた。雷少年の持つボールへまこと君が触れると、雷君は若干バランスを崩したようだった。オデの気のせいかもしれないぐらいの微妙な間を挟んで、まこと君は抜き去られた。でも、まこと君は笑ってた。なんで君はそんなに真っすぐなの?最初は同じ境遇のお友達だと思ってた。けど、君はオデのずっと先に行っちゃった。そんな君といるのは辛くて、とても楽しかった。


(お前とやるサッカーつまんねぇわ。)


 オデが弱くなければ、もっと、もっと……。



・・・



南方みなかた たけるはほくそ笑んでいた。


 天津あまつはなかなか神住かすみを突破できていないな。ハイプレス型の戦略を志しているようだが、無駄に体力を消耗するだけだ。やはり、盤石にカウンターを狙うのが良いだろう。次だ。次敵の前線が上がって、ボールを奪ったとき、長年培った堅守速攻というものを見せてやろう。もちろん、対英熱を想定した全力のカウンターだ。年月の深みは、本番にこそ活きてくると知れ。天津あまつ

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