レジェンドリーグ編

VS 英熱高校

プロローグ

ファイナルセレクションからわずか一週間後


 俺たちはレジェンドリーグこと全国大会の開会式に参加していた。


『主催者挨拶。百福ひゃくふく えにし会長、よろしくお願いします。』


 大きな旗を抱えながらきずなのお父さんが壇上に上がった。


『只今ご紹介に預かりました百福ひゃくふく えにしです。気持ちのいい夏の暑さにも恵まれ、今回無事本大会を開催できたことを嬉しく思います。』


 さて、と社交辞令を終えたえにしさんが本腰を入れる。


『皆さんは、サッカーをする意味を考えたことはありますか?サッカーに限らず、スポーツというものは生きるうえで必ずしも必要なものではありません。誤解を恐れずに言うのであれば、無駄なものです。ですが、だからこそ私たち人間にとって大いなる意味があります。命に関わらない無駄な行いにこそ、人間の本質が出ます。本日、この場に至るまでに、皆さんは自分自身の熱を手に入れることができたでしょうか。できた方も、できなかった方も、この大会を通してより一層熱い思いを手に入れてください。そして、可能であれば、その熱を私たち観客に、世界に届けてくれることを願っています。』


 以上、とえにしさんが話を終えると、聴衆全員による波のような拍手が鳴り響いた。


『続いてトーナメントシステムの説明に入ります。』


『本大会では8チームによるダブルエリミネーション方式を採用しています。一試合目はランダムに対戦相手を設定し、二試合目からは勝者側トーナメントと敗者側トーナメントに分かれ進行していきます。勝者側にいたチームであっても、1敗した時点で敗者側に移ってもらい、2敗した時点で敗退が確定します。なお、決勝に関しては例外で、2敗しているか否かに関わらず、負けた時点で敗退となります。以上の点をご理解いただき、スムーズな大会運営にご協力いただけると幸いです。』


 勝者側のプレッシャーがすさまじいことになっていそうだが、どのチームも平然とそれを受け入れているため、今に始まったことではないのだろう。大きなモニターにまっさらなトーナメント表が写され、各チームの代表が自分の入る番号を引きに行く。


 北海道、東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州・沖縄、クラブ、の8チームがくじを引き終わり、俺たちの1回戦の対戦相手が決まった。1回戦の対戦相手、それは……


 全国大会3連覇中の、はなぶさ 天勇てんゆう率いる英熱えいねつ高校だった。


 試合は後日、大会の始まりを飾る形で行われる。会場を去る際に聞こえてきた下馬評では、100:0で英熱えいねつ高校の圧勝と言われていた。どこから情報を仕入れたのか、技無しの俺がクラブチーム側にレギュラーとして所属していることを知っている人もいるらしい。


 この感覚はだいぶ久しぶりだ。初めて一人で試合に出たとき以来だろうか。あの頃は勝ってしまったときの絶望しかなかったが、今回は違う。未知の強敵に対する高揚感を胸に、帰路についた。


 この時の俺たちは知る由もなかった。


 明日の試合が、俺たちの人生のターニングポイントとなるということを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る