ファイナルセレクション編

プロローグ

ピッ、ピッ、ピ~


 部活とクラブチームが一同に会する全国大会『レジェンドリーグ』。今俺たちは『レジェンドリーグ』ただ一つのクラブチーム枠を懸けて、全国から集った計64のクラブチームとしのぎを削っている。


 と、言いたいところだが、準決勝に当たる5試合目、俺たちのチームは10-0で相手チームを圧倒していた。俺たちが地区予選を勝ち上がってきている訳ではないように、彼らも何かしらのトーナメントを勝ち上がってきたというわけではないのだろう。こういう大会は競争を勝ち抜いた精鋭たちが出場する場だと思っていたが、各クラブチームに何かしらのスポンサーがついていたり、地区予選を設けていないのに異様に整ったチーム数が集まっていたりと、興行のような雰囲気を感じる。


 それはともかく、俺たちのチームは順調に決勝までたどり着くことができた。準決勝を終えた後、会場は俺たちの話題でもちきりだった。


「なんなんだあいつらは。」


「できてから1年しか経ってないチームな訳がない。」


「シュートは止められないし、ドリブルも止められないし…。そのくせ俺らは止められるんだ。」


「結局才能かよ。おもんな。」


 俺以外のメンバーに対する驚愕や妬み嫉みで溢れかえる会場で、憂さ晴らしの話題として俺が標的となるのは当然の流れだった。


「なんであんな雑魚仲間に入れてんだろうなw」


「技が弱いとかじゃなく使えないってw」


「数合わせで入れてもらえたんじゃねぇの?w」


「なら俺代わってあげようかなw」


「ばぁか、お前より俺のが求められてるってのw」


 俺にガン見されてるのを知ってか知らずか自慢による椅子取りゲームはどんどんと勢いを増していく。結論が出たのか集団の中から一人の男が勝ち誇った様子でこちらに向かってくる。


「なあ、あんた。良ければ俺が代わりに試合出てやろうか?」


「何言ってんだ?」


 本当に行動に移すその精神にに頭が痛くなる。どうしてここまで他人のことを考えずにいられるのか。


 決勝戦の招集を理由に逃げ出そうとしたが、チームのため、君のためと謳う男の話は終わらない。フィールド内まで付いてきたその男は他のメンバーに対しても己の価値を話し続ける。


「人が見つからなかったんだろ?俺ならこいつよりも役に立つし、俺にとってもあんたらと戦えるのはありがたい。Win-Winってやつだ!」


「無理を言わないでほしいな。第一君にもチームがあるだろう?」


「あんなやつらとじゃ本気を出したくても出せない。環境が整っていれば俺はもっとやれるはずなんだ!」


「おいおいおいおい、いつになったら始まんだ?」


 待ちかねた対戦相手の一人が声を上げた。その男は、かつて勇牙ゆうがに難癖をつけにきたヤンキー、白狼はくろう 義一ぎいちだった。


 義一ぎいちはズカズカと部外者の男に近づくと荒っぽく肩を組み、事の子細を尋ねた。俺のこと、このチームのこと、自分のことをツラツラ話し続ける男に対して、うんうんうんうんとわざとらしく首を縦に振りながら義一ぎいちが相槌を打つ。


「分かる、分かるぜぇ。日元ひもと まこととかいう奴は弱ぇくせに妙に自信があって夢見がちな大馬鹿野郎だよなぁ。」


「いや、そんなに言ってな…」


「でもなぁ、てめぇが負けたのはそいつじゃねぇだろ。」


 先ほどまでの演技じみた親しさは消え去り、襟を掴み邪魔者をフィールド外へ投げ飛ばす。


「凡人代表みてぇなスペックの勇牙ゆうがくんに10点も取られやがってよぉ。その他の天才君達に負けることすらできないてめぇに次はねぇよ。」


 失せろ、と一喝した義一ぎいちに捨て台詞を吐きながら男が走り去っていった。シッシッと追い払うようなしぐさをした後義一ぎいちがこちらに振り向く。


「ありがとう義一ぎいち。なかなか分かってもらえなくて。」


「気安く名前を呼ぶんじゃねぇよ」


 予想通りトゲトゲした態度で返されわざとらしく眉をひそめる。その様子を見た義一ぎいちがこちらを睨みながら距離を詰めてくる。


「お前、忘れてんじゃねぇだろうな?今日お前らの夢物語は終わるんだぜ?」


「夢は終わらせないし、義一ぎいちとサッカーもする。最高の決勝だ。」


 文句たらたらな目でこちらをしばらく睨んだ後、義一ぎいちはイライラした様子で自陣に戻っていった。


 勇牙ゆうが義一ぎいちの因縁、頂点に挑む切符、クラブチームの闇、それぞれの思惑が交錯するファイナルセレクション決勝戦が始まる。

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