第6話 壕と灯理と晴己
全国大会のクラブチーム枠を勝ち取るための大会まであと5日。
チーム加入後初の練習を通してこのチームの特徴が見えてきた。このチームは個人の能力は比較的高い者が多いらしいが、チームとしては器用貧乏なチームだ。メンバー数は11人、
<FW>
3年。シュート技のみのストライカー。人情に厚いが、さっき吹っ飛ばされてた。
2年。チームどころか世界でも一番を取れそうなほどの体格の持ち主。見た目に反して弱々しいプレーをする。さっき焦ってボールを蹴った結果、
<MF>
3年。このチームの創設者。器用富豪といった感じで何でもこなすが、自分をあまり主張しない。
2年。参謀。動くよりも先に考えてしまうタイプ。嫌われてるのではないかと思ったが、その目線は別のもののように感じる。
2年。ムードメイカー。
<DF>
双方1年。このチームの両翼を担う攻撃的なチビ。スピードでごり押す
3年。堅実に強いプレイヤー。穏やかな性格も相まって、やんちゃな1年DFラインをうまくまとめてくれている。
1年。
<GK>
3年。
ちなみに俺、
「
そう唐突に提案してきた俺に、
「危ないがら…やめておいたほうがいいど。」
だが、当然俺の身を案じてくれる
「確かにものすごい威力だったけど、あれは技じゃないんだろう?」
「うん…。」
「なら、どんと任せてくれ。」
そう言って俺は、大げさに胸を張った。俺のことを信じて欲しいという思いだけでなく、先ほどのミスを気にする必要はないとおどけてもいるつもりだった。それでも言い淀む
「おでは下手だがら…綺麗に
案の定、
これだけちゃんと断られてなお頼み込むのは本当に面倒なことだろう。だが、もとより押しかけてチームに入れてもらった身である以上、多少厚かましくとも頼み込ませていただく。
「
「え?」
「ですが、私の成長のためにどうか寛大なるパスをお出しいただけないでしょうか。」
「
「どうか!この通り!」
「なにしでるの!?」と、ためらいなく土下座する俺を見て慌てふためく
「わがった!わがったがら!」
了承せざるを得ないような状態になった
「
先ほど
「近場に専門店があるからそこで買おうか。」
「悪いな。ちょっと調子に乗ったわ。」
「気にすることないよ」と、本当に気にしてなさそうに
先ほどの
そうして俺たちは靴屋へと向かった。
・・・
久々にお店というものに入るもんだから、緊張して3人の後ろからこそこそと入店した。だが、店内のスパイクの山を見たらそんな緊張は一瞬にして消し飛んだ。多種多様なデザインに、ピボットブースターだとかカーボンフィットだとか様々な機能を持ったスパイク達が所狭しと並んでいる。
この中から一体どれを選んだものかと悩んでいると、店員さんが話しかけてくれた。だが、俺が無能力者だと分かると気まずそうな様子でレジへと戻って行ってしまった。ふむ、ここにあるスパイクは技を使える人向けの物なのかもしれない。確かに、俺がこれまで履いていたようなシンプルで丈夫そうなスパイクが見当たらない。どこかに俺に合うスパイクはないものかと店内を探索していたら、1つのスパイクを凝視している
「そのスパイクがいい感じなのか?」
「あ!えっと、うん!そう!
「あんたが技無しでサッカーやってるって人か」
どうやら先ほどの店員さんが情報を共有したらしい。「そうです」と答えると、「足見せてもらうぞ」と言われたので了承する。そのおじさんは、ぼよんぼよん跳ねる俺を捕まえ優しく椅子に座らせると、まじまじと俺の足を観察し始めた。少し間をおいて低く唸ったおじさんはおもむろにメジャーを取り出すと、足の各寸法を測り始めた。その後、継ぎ接ぎが目立つ明らかな試作品を試着させられ、店内の芝生スペースで動かされた。「金は?」と聞かれたので、絆を呼ぶ。そのおじさんは絆と一言二言言葉を交わすと、レジ奥へ行ってしまった。絆曰く、スパイクを作るから少し待てとのことだった。
待ち時間を潰すようにぶらぶらと店を見て回っていると、テレビでサッカーの試合が流されているのを見つけた。この試合は過去の試合らしい。ダイジェスト方式で流されていく激しい技の応酬に自然と目が釘付けになる。映像以外の全ての情報が入らなくなっていた俺に「
「良いものが流れているじゃないか」
「この試合知ってるのか?」
「俺がサッカーを始めるきっかけになった試合だよ」
「ほう」と、面白そうな内容に興味を持つように相槌を打つ。先ほどの訝しむような気持ちは目の前の興味に飲み込まれてしまった。続きを促すと、
「この試合はリーグの首位とドべの試合であり、サッカー史に刻まれるほどのジャイアントキリングを成し遂げた試合でもある。ドべのチームは格下なりの戦略でどうにか戦えていた。が、地力の差でじりじりと点差がついていき、しまいには疲労によるアクシデントでレッドカードまで出されてしまった。
点数不利に人数不利、もはや消化試合と化していた戦いの中で一人の男が覚醒した。その男はチームのキャプテンでありながら、技数も少なく、能力値も平凡以下だった。だが、土壇場で覚醒したその男は単独で相手陣地を切り裂き、ゴールを奪い取っていった。その後はご覧の通りだ。」
そう言って
『今回、土壇場で起こした覚醒の要因は何だったと思いますか?』
『正確なことは分からないですね。いろんな積み重ねや勝利への執念、それを抱くに至った仲間との絆とかいろいろあるんだと思います。多分、どれだけ言葉を尽くしてもこの衝動を伝えることはできないと思います。ただ、一つアドバイスするとすれば、「人生を賭けろ」ってところですかね。』
浮かれた様子でインタビューに答えていたその男の言葉は、己の人生への誇りで満ちていた。
「これが俺がサッカーを始めたきっかけだ」
俺と同じように映像に見入っていたのか、乾いた眼を潤すように忙しなく瞬きをする
「俺はもともとサッカーどころかスポーツに興味がなかった。生まれ持った勉学の才を用いて安定した生活を過ごすつもりだった。だが、たまたまテレビに映ったこの男の言葉に魅かれてしまった。才の無い男が、バグと言って遜色ないほどの覚醒に至った衝動を感じたいと思った。だから、俺は今ここにいる。」
「そして…」
と、言葉を区切った
「お前と出会った。」
そう告げられ、
「で、実際バグってる人間に出会ってみた感想は?」
そう自虐なのか尊大なのか分からない質問を
「なんっも分からん」
先ほどまでの知性を感じる言動とのギャップに思わず笑いが漏れてしまう。
「
「どうした?」
「この前は冷淡な態度をとってしまって申し訳なかった。」
謝る機会が欲しくて、買い物についてきていたのか。
「あれは当然の反応だろう。謝るようなもんじゃないよ。」
「そう言ってもらえると助かる。改めて、これからよろしく頼む。」
そう言って差し出された手を握り返す。
「おやおや、知らぬ間に随分と仲良くなったね」
握手している俺たちを見つけた
そんなスパイクの値段は、
店の外に出ると、夕焼けがまばゆく街を照らしていた。手で日を遮ろうとするも、夕日が見えなくなるだけで影ができず、眩しくはないけどなんか眩しい気がするという変な感覚を味わった。仕方なくスパイクを入れた箱で日を遮っていると、何かを気にした様子の
快く承諾した二人に連れられ、俺は帰路についた。
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