第3話 新しく身近になったヒトたち

 親の仕事の関係で、子供の頃からしょっちゅう劇的に環境が変わるという体験をしてきた。今までの友達から切り離され、母国語でもない全く違う言語の環境になったりすることを繰り返してきた。私、よく耐えてきたな。思い返してみても、あんまり苦労した記憶はなくて、むしろ楽しかったことだけ記憶している。さすがに、最初数日間は泣いてくらすのだけれど、そのあとは何故かすぐに溶け込んでる自分を見出す。今回、日本帰国後もすぐに溶け込めるだろうとは基本的に思っていた。


 とはいえ留学のため大学二年生の途中という最も楽しいはずのときに日本の友人たちから切り離され(というか自分で望んだのだけれど)、3年生の後期というまことにタイミングの悪いところでの復帰なので、友達ゼロになっちゃうのじゃないかと不安だったけど、まずは元友達グループが受け止めてくれて軟着陸した。けど、やっぱなんか違う。なんか空気感が違う。ユキは「帰ってきたヒト」みたいな感じになる。それとすごく親密なコミュニティだったので、この一年間の経緯を共有していないと、なんかゲスト扱いみたいになる。みんなはそんなことを思っていないのかもしれないけれど、でも思っているかもしれないし。

 それに決定的に違和感があるのは、就職活動の話でもちきりということ。3年の秋だからしょうがないか。これは友人たちの問題というより、日本の構造問題なのだろうけれど、でもそういうの気にしない私みたいな人間は異星人扱いされる。お前もちゃんと考えろよ、的に。挙げ句の果て、リクルートスーツを友人たちと一緒に買いに行く羽目になった。というわけで、私のクローゼットにはリクルートスーツがぶら下がってる。時々就活コスプレでもしてみようか。


 そんな中、新しいコミュニティに関わってみることにした。一つは剣道、もう一つはテニス。前者はイギリスに留学した時、日本の武芸で、柔道や空手はグローバル・スポーツになったのに、そういえば剣道はなんでグローバル化しないんだろう?(あ、相撲もグローバル化してないけど、あれはちょっと違うだろうし)、とふと疑問に思ってあれこれ考えたけどよくわからなかった。身近の日本付きのいろんな国からの留学生に尋ねてみたら、日本式の剣術には敬意を払っているけど、実際に自分がやるとなると、あの「気合い」ってやつがうまくいかないんだよ、というのが概ねみんなに共通した答えだった。

 「気合い」?なんだそりゃ。剣道の気合い?早速調べてみた。で、わかったのは剣道って、向かい合った時に甲高い声を出して相手を怯ませるというのが芸の一部にあるらしい。なにそれ。今まで知らなかった!剣道やってる友達、今まで誰もいなかったし。日本人以外に日本文化教えられちゃった。にわかだけど剣道に興味が湧いた。めちゃかっこいいじゃん。ということで日本に帰ったらどこか門を叩いて入門してみようと思った。もし女でも入れてもらえるのなら。

 で、もう一つ、テニスだけど、これは子供の頃から付かず離れずでちょろちょろやる機会はあったんだけど、留学でテニスをしょっちゅうやる友人たちに囲まれていたので、この一年間日常的にプレイしてきて、すっかり虜になってしまった。イギリスだからということかもしれないけど、社交の機会にもなってて、そもそもジュリアンと知り合ったのもテニスだったし。で、日本でもテニス続けたいな、と。あんまり学生がやってるイメージないけど、競技系のガチのやつじゃなくて、楽しんでます、的なコミュニティに入りたい。


 で、実際両方とも始めたのだけれど、めちゃいい人と友達に巡り会えた。大学内の人脈も前とは比べ物にならないくらい多様なものになった。世界広がった。そこでそれぞれ、ホーム的な身近な友達ができた。

 剣道の方では、院生(男)、学部4年(男)、と私(学部3年)という妙な三人組。なんか自然に気があって、気がついたら、剣道以外でよく一緒に行動するようになった。食事行ったり、ディズニー行ったり、カラオケは私が反対するのでいかないけど、こないだは健康ランドまで一緒に行った。今度は春休み、温泉旅行行かないか、というプランまで持ち上がってる。知的な会話も楽しいし、けっこうあれな話題もノリが同じ。ほっとさせてくれるし、なんでも相談できる友人たちだ。珍道中だろうけど。

 テニスの方では1年生の女の子と仲良くなった。「仲良くなった」というのは、普通の友達として、というのより一段上の仲の良さ。恋人になるかもしれない予感のあるというやつ。お互いに多分それを意識してる。これまでの経験から、恋の始まりっぽいかもしれない。


 そんなこんなで、すっかり新しい環境に馴染んだ。子供の頃から育まれた適応能力なのか、やっぱり生きていくためにはリアルで親密な人たちが身近にいてほしいし。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る