第2話 遠距離恋愛の限界

 自分の国に帰ってきたとはいえ、環境が急に変わると色々ストレスがある。大学は友達で固まってるから全く楽しいのだけれど、意外に些細なことで感覚を取り戻すのに苦労している。混んだ道を歩くこととか、電車の中とか。あと服装も。ノーブラは、やっぱ日本では論外な雰囲気なので諦めることにした。若いうちに、垂れてこないうちにノーブラ満喫したいけど無理かな。

 いや、そんなことはどうでもいいだろう。それよりはこのまま日本で就職するか、また留学して国外で職さがしするか、そういう将来のことをちゃんと考えないといけない。前は当然日本で働くと思っていたけど、なんだか、そうしなくてもいいんじゃないのか、もっと自由に考えてみようと思うようになった。


 あれこれ考えたり、些細なことでストレスが重なるとジュリアンに会いたくなる。でも、毎晩、ビデオ通話するしかない。しかもこっちが深夜でもあっちは夕方。場所が違えばテンションも違う。なんかしっくりこない。そしてなにより、会話なんかじゃなくてぎゅっとハグされたい。もちろんセックスだってしたい。でもビデオ通話じゃ無理。誰かの肌にくっつきたい。人肌恋しさがマックスだ。

 そんなことをジュリアンに呟くと、エッチしたいというところだけ妙に反応してくる。画面越しでも別の形でできるよ。試してみようか?という。でもそういうのを求めているわけじゃない。(あ、でもそういうのやりたい時もあるけど。正直言って。)


 というか、ビデオ通話でエッチなことしたがるのは留学に行く前の元彼もそうだった。しかもあの時は最悪な気持ちにさせられた。言われるがままに裸になったことへの後悔もある。あれがあるからジュリアンともビデオ通話越しでエッチなことするのに躊躇がある。私がなんとなく躊躇していることはすぐに伝わってしまうし、そうすると彼も不満に感じると思う。欲求に答えてあげたいけど、リアルじゃないとなんかうまくいかない。

 エッチと非エッチがうまく組み合わさって彼とは素敵な日々を過ごせていたのだと思う。でもそれってリアルに会えないと難しい。なんかジュリアンとこの先うまくいかないかもという予感がしてくるとつい泣いてしまう。でも会話中にジュリアンの前で泣くと彼をがっかりさせてしまうから、いつも通話を切ってから泣くことにしている。でも本当は彼の胸にくっついて泣きたい。こうんなふうに遠距離になったことで、なんとなく疎遠になって別れてしまうのはほんとうにつらい。でもなんかそんな予感がする。


 こういう気持ちはビデオ通話越しでは彼には伝わらず、今夜の通話も結局ヴァーチャルなセックスをしてしまい、それで終わった。ジュリアンの好きそうなエッチな会話を盛り上げて、まず彼の方を先に裸にさせる。私の方は少しずつ焦らしながら脱いでいく。彼の囁きに感じているそぶりを見せながら、シャツのボタンを外して前を開けて、ブラジャーを外して、でも胸は最初手で隠して、それからジーンズを脱いで、下着も脱いでという感じだ。全裸になったところで胸の手を退けて彼に見せる。でもあんまいはっきり見せないようにする。こういうのがジュリアンが興奮するポイントだというのはよく知っているので。

 それでお互いに手でする。カメラで見せ合いながら。私も興奮していないわけじゃない。ものすごい濡れる。でもこういう状況じゃ、私の方はなかなかエクスタシーということにはならない。物理的にその部分が感じているだけで、気持ちの方はほとんど盛り上がらない。

 ジュリアンの射精のタイミングに合わせて喘ぎ声を出して、私もいったふりをする。本当にいけたらと思うのだけれど、むりだ。演技でごめん。でもこれで彼を満足させてあげられるのなら私は嬉しい。大体の場合、彼の射精でビデオ通話を終える。私はそのあと一人でそのまま指を動かし続けて最後までする。一人だとイケてしまう。これがまたとても虚しい。むしろ欲求不満が募るばかりだ。


 ジュリアンとは別れたくない。でもやっぱり私には遠距離は無理かもしれない。そんなことを考えて一人で泣いてしまう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る