第9話 雨のち晴れ

_7月2日


 おい、この日ってまさか、もしも本当に2日なら…

この日、琴乃は杉山を殺す。


 家を飛び出す、雨が激しいが構わない。


たしか…あそこの階段のはず……。

今度こそは救い出す。


 どうか、間に合ってくれ……。


 雨の中、事件が起きたはずの階段近くまで来た。



「あー、もしかして前のコラ画像のこと」

「それもだけど、また新しいのを作ってるって

 友達が」


「え、あんた友達いたの」

「話をそらさないで!」



 階段の上から荒々しく言い争う声が聞こえてくる。



「何でこんなことするの」

「あー、前のはやりすぎたって」


「で?、どいて」

「おねがい、消してよ!」


 急いで駆け上がる。

この時から琴乃の運命が狂いだした。

 今度こそは……。


「まじうざい、そんなに言うんだったら

 また、ばらまいて……」

「やめて!」


「……!」


 大きく体のバランスを崩した杉山が宙に舞う。

鈍い音がどんどん下へ響いていった。


「石田君、なんで…」


 杉山を抱え込み衝撃を抑えながら階段から滑り落ちる。

なんとか頭からの落下は避けることができた、だが……。


 おい、まさか死んでないよな。

ここでお前が死んでしまったら琴乃が……。


「杉山!大丈夫か」

「…………痛っい」


 腕をおさえながら壁によりかかる。


「あぁ…よかった」

「…って、やばいかも…たぶん折れてる」


 骨折くらいで済み、ある意味助かった…

早いとこ病院へ行った方がいいか。


「おい八神、なにしてくれるんだよ」

「ごめんなさい…」


 さっきまでの言い争いに戻ってしまう。


「今は先に病院に行こう」

「石田君、助けてくれたのは感謝だけどこいつに

 殺されかけてるんだよ」


 琴乃をにらめつける。


「ごめんなさい……」

「いやちょっと待て、こうなった理由があるだろ」


 俺は知っている、こうなったのは杉山が起こしたいじめが

原因だということ…。


「理由もなにも、こいつが急に襲い掛かってきて…」

「そんなわけないだろ」


 杉山の表情がこわばる。


「どうなんだ杉山、お前はこうなっても仕方ないことを

 琴乃にやってきただろ」


「はっ、なに…急に八神の味方になるじゃん、あんただって

 さんざん見て見ぬふりしてきただろ」

「あぁ…そうだ」


 今まで見て見ぬふりをして、支えてきたような気持ちになって…

琴乃が死んだ。


「だからもう逃げない」

「そんなの都合勝手じゃん」


「確かにそうだ、でも今出来ないでいつ出来るんだ」


 黙って俺をにらみつける。

…ここで一つ終わらせておく問題がある。


「なぁ杉山、なんで琴乃をいじめる」

「そんなこと、どうだって…」


「言え」


 ずっとにらめつけていた視線をそらした。


「誰でもよかったのよ」

「はっ?」


「このゴミ高校で皆をまとめる方法のことよ」


 何を言っているんだこいつ。


「みんなをまとめる方法は簡単、誰でもいい…共通の敵をつくること

 そうすればゴミの奴らがいても団結する」


 頭が熱くなる。

こんな理由で琴乃を…。


「なんで琴乃なんだ」

「だから言ったじゃん、誰でもよかった」


 こいつ…俺が殺しても……。


「本当にそれだけ…」


 琴乃がつぶやく。


「たしかにクラスのみんなは特に理由もなく私を無視していた…けど」

 

 琴乃の声が震えている。


「杉山さんは…私に対してなにかあるような…」

「黙れ!そんなの…」


 杉山の声が詰まった。


_ _ _ _ _ _ _ _ _


「ねえ、真莉ちゃん八神さんって知ってる」

「え、しらない」


 八神のことを知ったのは高校2年生にあがる少し前だった。


「本当に可愛いんだよ」

「それそれ!」


「ふーん…」


 あまり意識はしていなかった、今の私はすべてを

持っているから。ある日、いつも通り学校の終わりに

友達と遊びに行く話をしていた。


「カラオケ行かない」

「あり!」


「あっ、八神さんも行こうよ」


 他の2人は八神をカラオケに誘った、別にいいが

あまり面識もないし話すこともないのに…。


「ごめん、今日は用事があるから」

「そっか、また行こ」


 帰り道も、カラオケでも、八神さんがどうだこうだと…。


「八神さんめっちゃ優しかったんだ」

「八神さん数学出来るらしいよ」

「八神さん………」


 そんなに好きならそっちに行けばいいのに。


「ねえ、今日カラオケ行かない」

「あ、ごめん今日無理なんだ」

「私も」


 久しぶりに一人で帰る、大丈夫…私には彼氏だっているし…。

駅のホームでスマホをいじる、ふと…都会行きのホームに目をやった。


 あ…すずと蓮花たちじゃん、なんで向こうのホームにいるんだ…。

楽しそうな笑い声がこちらにも聞こえてくる、2人の横には私ではなく

八神 琴乃がいた。


 ふーん、そうなんだ……。


_ _ _ _ _ _ _ _ _


「あんたに、全部とられそうだった…」

「なにを…」


「あんたは人にやさしくする、私は人をあざ笑う。

 あんたは人に手を差し伸べる、私は蹴落とす。

 あんたは可愛いのにそれを使って男を利用しない、

 私は男に利用される…」


 雨に打たれながら着飾っていた鎧が流されていく。


「これじゃあ、あんたに全部とられるんだよ…

 友達も男も、全部」


 随分とまぁ…自分勝手で姑息な理由、これが琴乃へのいじめの

理由だというなら尚更腹が立つ。


「そんなことで」

「そんなこと?私には全てなの、この学校が…

 馬鹿で何もできない私が唯一存在できる」


 そんなの…。


「それでも、いじめをしていい理由にはならない…いやそんな理由ない」

「うるさい…」


 自分を守るために琴乃を攻撃した、というのが杉山の主張。

正直言って自分勝手にもほどがある、ただ…。


 あまりに杉山が惨めに見えてしまった、虚勢で塗り固められた姿は

雨にどんどん流されていく。

 残ったのはただの弱い人間…。


「もういい、琴乃に噂を流したこと、あと今持ってる

 画像を消せ」


「え…?」


 いやな顔をするでもなく、後悔する姿でもなく、

ただぼんやりとしている。

 何かおかしい。


 

「おい、聞いてるのか」


「いや聞いてるって、…え、だから八神にもさっき言ったけど…」


 何を言っているのか、話が入ってこない。頭の整理がつかず

呆然とする。


「いやだから、噂なんて流してないし…そもそも

 画像なんて今は持ってないよ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る