第10話 二度目の約束

 学校はもう始まっている。

 後ろの扉から教室へ入ったが俺と琴乃の雨に濡れた

姿を一目見ると何も言わず授業を再開した。


 杉山 真莉は噂も、画像をばらまいたのも自分ではないと言った。



「たしかに、私は八神の悪口を言ったしコラ画像も作った…、でも

 あの噂とか画像を出まわしたりしてない」



 コラ画像を作ったこと自体を非難すべき、ただほかに

その画像をばらまいている奴がいるとするなら……。


 あいつか…。


 一人思い当たるやつがいる。

杉山は登校中にケガをしたということで学校を休んだ。

 今考えてみれば杉山は虚勢ばかりの人間だった、到底画像を

学校中にばらまくなどリスクのある事を自分でできると思えない。


 一日中雨が降っている、いつもは騒がしい教室も静かだ。

杉山がいないというのもあるだろう……。


「石田君」


 目の前には琴乃がいた。

ほんとうに琴乃だ…、岬の先端に靴だけがあった光景を思い出す。


「帰り道ちょっといい?」


_ _ _ _ _ _ _ _


 下校時刻になっても雨は降り続ける。

 今日、本当なら琴乃は人を殺していたかもしれなかったのだと

あらためて思い出す。だが止めることができた、これで琴乃は

死ななくて済む。

 

 でも…、これだけでは根本的な解決になっていない。


「行こう」

「うん」


 学校を出るタイミングであることに気づいた。

傘立てに自分の傘がない…。


 やってしまった…、朝は雨など気にしている暇が

なく、構わず家を飛び出してしまった。


「傘ないの?」

「…………」


 惨めにも琴乃に半分入れてもらい歩き出す。


「まじごめん」

「全然いいよ」


 歩幅をあわせ進む。

琴乃は何か言いたげな様子でいた。


「…なんで、あそこにいたの」


 まぁその質問だよな…、なんとなく聞かれること

は分かっていた。そしてその質問の答えも…。


「琴乃の言い争ってる声をたまたま聞いて、なにか

 危なそうだったから行ってみた」


 あくまでも偶然、あのままいけば琴乃が人を殺してた

なんて口が裂けても言えない。


「そっか」


 もやもやしているようだがそのまま押し通す。


「謝りたいことがある」


 驚いた顔をしてこちらを向く。


「俺、今まで琴乃が苦しんでいるのを見て見ぬふり

 してきた…朝に杉山が俺に言ったこと、正直まちがいない」


 ほんと都合勝手。


「…でも、これからは何があっても支えたい」


 真剣に見つめた、恥ずかしそうに目線をそらすが

すぐに見つめなおす。

 琴乃の頬がすこし赤くなっていた。


「…ありがと」

「これが本当の約束だ」


 少し首を傾げながらこちらをみつめ笑った。


「約束か」


 雨は強く降り続ける。

肩を寄せ合い、傘を握りなおした。

 明日、決着をつけなければいけない……。


_ _ _ _ _ _ _ _


 翌日、朝の自由時間。

杉山は教室にいた、腕にはギプスをしている。


「なんで骨折したの」

「まー、いろいろあった」


 昨日のことについては杉山は黙っているようだ。

…あいつがくる。


『バンッ』


 ドアがたたきつけられ開く。

 生地の青い制服、小野寺…。


「八神ってどこ」


 琴乃が微かに震える。 


「龍弥、私は大丈夫だから」

「いや、俺がよくねー」


 教室にずかずかと入っていき、琴乃に近づく。


「お前か八神って、真莉の腕どうしてくれる」

「…………」


 あぁ、こうやって少しづつ琴乃は弱っていくのだろう、

今日片づけておく問題。

 覚悟はできている、おそらくこいつが…。


「ちょっと待ってください」


 二人の間に割って入る、クラスの空気が一瞬で冷えかえった。


「はっ、なに」

「…この事は琴乃だけが悪いんじゃない、しかもこれは杉山と

 琴乃の問題だ…だから」


「ひっこんどけよ」


 振り上げられた拳が俺の顔面に直撃…

机をなぎ倒しながら地面に放り出せれる。


 くそっ…。


「お前、殺されたいの」


 クラスの連中が悲鳴を上げたかと思うとすぐに静まる。

恐怖でかたまり、ただ過ぎるのを祈っていた。


「…だから言ってるだろ、先輩には関係ない」


 バランスを崩しながらも立ち上がる。

 もう決めたんだ逃げないって。


「あんた、本当に心配してるなら杉山と一緒に登校くらいしてやれよ、

 すこしでも不憫だと思うなら杉山に向き合え…」


 バコッ…、腹に強い蹴りがはいる。


「…ゥ…ッ…ク」

「黙ってろよ。だから今心配して来てるんだろ」


「違う!あんたは自分のおもちゃを壊されたことにキレてるだけだ、

 やってることは心配でも何でもない…ただのストレス解しょ…」


 もう一度顔に拳がはいった。

 意識がすこし飛びそうになる。


「龍弥もういいって!」

「黙ってろ、こいつは俺に喧嘩売った」


「おい…なに正義面してるんだよ、このクラスでこの女の

 味方になっても損だぜ」


 痛みより怒りが押し勝つ、あー嫌いだ…この学校も自分自身も、

クズばかりで…すぐにイヤなことから目をそらす。


「正義でも何でもない、ただの傍観者」

「ははっ、分かってるじゃん」


「でも、自分の怒りにまかせて人を傷つけたりしない」


 小野寺の顔に怒りが含まれてくる。


「お前、もう喋べらなくていいよ」


 握りしめた拳を大きく振り上げた。


「あの…やめてください」


 クラスの端から細々と声が聞こえる。


「はっ?」


 あれは、サッカー部の男子。


「小野寺先輩…、それはちょっとやりすぎです」

「なんだ、黙っとけばよかったのに…」


「まじでやめてください」


 さらに声があがる。


「これはやりすぎです」


 クラスの男子たちが次々と止めに入った。

これには小野寺も動揺する。


「もう、だからいいって言ってるじゃん」


 杉山が立ち上がり、俺の前までくると背中を向けた。


「いやでも、こいつは真莉を…」

「私は大丈夫だって、てかなんでその事知ってるのよ」


「それは…」


 小野寺が俺をにらみつける、怒りに満ちた目…。


「なんでもいいだろ」

「そっ、もーはやく購買いこ」


「…あぁ」


 杉山が無理やり教室から連れ出し、なんとかこの件は収拾がついた。

さらに、分かったこと…小野寺は琴乃のいじめについて何か知っている。

 根っこからこの問題を終わらせるには……。


「おい大丈夫か石田」

「まぁ…」


 さっきの男子が手を差し伸べる。

そういやちゃんとクラスのやつと話したの初めてかも…。


 自分から動かないと周りは動かないというのは本当だった。

少しずつ動き出した教室で俺は、琴乃との約束をもう一度誓う。


 何があっても俺が琴乃を支える。


この大嫌いな学校と自分を今、変えていく。

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