第4話 神社

 家へ着くとやはり母親はいない。

コップに水道水を注ぎ一気にのみほした。

杉山 真莉と言い争いになりその後誤って転落。

 コップをいじりながらぼんやりと考えた。


 そういえば、杉山の彼氏が誰かに聞いたというのは

誰から聞いたのだろうか。

 さらに言えば琴乃は誰からその画像のことを聞いたのだろうか。


 たしかに、2か月ほど前にその画像が出回っていたことは

噂で知っていた。

 しかしここ数日はそんな画像の噂は聞いていない。


「俺の知らないとこでこんなことが二度も…」


 考えれば考えるほど苦しくなる。

 ただ時間が過ぎるのを待った。


_ _ _ _ _ _ _ _ _


《7月5日》


 いつも通りの時間に家を出て回り道もせず

学校につく。これでいい、もう何も起きずにあとは

時間が過ぎるのを…。


「石田、ちょっといい」


 杉山と同じグループにいた女子。たしか…。


「一星さん…?」

「話したいことがある」


 裏の駐輪場まできた。


「それで話って」

「うん」


「最近、八神さんと仲いいよね」


 言葉に詰まる。


「あぁ、小学校から幼馴染だから」

「へー知らなかった」


 あまり興味がなさそうに続ける。


「小野寺先輩に言ったの私」

「え」

「あと……」


「あのときの…見た」


 これは、まずい状況なのか…。

動揺を見せないように声量を落としながら喋る。


「そうなのか…」

「うん、その感じだと石田も知ってたの」


「…………」

「そう、わかった」


 生あたたかい空気が流れ始める。


「べつに言ってやろうってつもりじゃない、

 ただ小野寺先輩がいつも一緒に登校してるんだから

 何か知らないか聞いてきて…」


「…………」


「ごめん、その時遠くから見てることしかできなくて」

「謝ることじゃ…」


「もちろん警察に言ったりはしない、けど八神さんは

 この先どうするのかなって思って」


 一星 すずは自分も俺と同じ傍観者としていじめに関わっていた

ことを深く理解している。だから、警察に行こうなどと言えない…。


「…そうだな」


 思えばこれは俺が始めたことだった、警察にも誰にも

秘密しろと言ったのは俺の身勝手な決断。


「ごめんね、この話は終わり…これからは、いつも通り過ごす。

 ありがとう時間つくってくれて」

「うん」


 でも、俺はこの身勝手な決断をやり通す。

それが責任……。


「なあ、なんでおれにこの話を…」


 チャイムが鳴っている、かなり時間が経っていた。


「それは…石田なら八神さん守れるでしょ」

「え、どういう」


「時間やばいよ、早くいこ」

「あ…、あぁ」


 あやふやにされながら教室へと走り出だしていった。


 学校の授業はあまり頭に入ってこず、時間ばかりが過ぎていく。

 あの雨の日以降、琴乃の顔は少しずつ暗くなっていた。なぜ俺は

こうなるまでに助けなかったのだろう、助けられなかったのだろうか。

 後悔ばかりが募っていく、今日も一緒に帰れないか……。


 帰り支度の時。


「なあ、琴乃」

「…!」


少し驚いたように振り向いた。


「一緒に帰らない」

「うん、いいよ」


 そういえば自分から誘うことなどまずなかった、驚かれても仕方ない。


「あ、それなら…行きたいとこある」



 金剛神社、古くから商売繫盛や交友の神様が祀られている。

そして、この神社の伝承…夕方の光が差すころ人生で最も

戻りたい過去にいける…という話があった。


「意外だった」

「あぁ、自分から誘うのは…」

「そうじゃなくて」


 じゃあ何が、もしかしたら誘ってはいけなかったか。


「…名前」

「えっ」


「名前呼びに戻したんだ」

「あー…そう」


 全く意識していなかった、今思えば少し恥ずかしい。


「うれしかったよ、昔みたいで」

「そっか」


 にこやかに笑う姿を見て安心する。

 やっぱり普通の感じでいいよな。


「なつかしいなここ」

「そうだねー」


 琴乃が行きたいといったのは地元の神社だった。

 小さい頃はよくここで遊んでいた。


「あ、おぼえてる?授業の話」

「あー過去に行けるとかのやつか」


 ほんと時間の無駄な授業だ。


「私この話好き」

「迷信だろ」


「それでもいいじゃん、…すこしでも過去に

 戻れるならとか想像できて」


 それって…。


「優太はどっちに行きたい、過去か未来」

「未来」


 これはずっと考えていたことがあった。


「へぇ、なんで」

「どうなってるのか早く知りたい」


「知ったらおもしろくないよ」

「面白くなくても知りたいんだよ」


 これは俺が臆病だからだろうか、母親も最近はまともに

あっていないし、こんな高校に入ってしまったのだ…

 未来があるのかすら不安になる。


「なんでよ」

「安心したいんだよ」


「…びびってる」

「その言い方やめろ…、まあそうだな」


「でも普通じゃね、わからないことが怖いのって…

 俺とか親にも見放されて…」


「大丈夫だよ」

「なにが……」


 俺の胸にぐっと人差し指を押し当てる


「優太は一人じゃないよ」

「…………」


「たぶん優太はわからないのが怖いんじゃなくて

 一人になるのが怖いんだと思うよ」

「それは……」


 そうなのかな。


「だから大丈夫」


 指を離し琴乃自身の胸に向けた。


「一人にはしない」


「私に優太がしてくれたことだよ」



 神社の階段を降りていく。


「この間は俺の家までついてきてくれたから

 次は送るよ」

「うん、ありがと」


 初めからこうしておけばよかった、未来が怖いと

駄々をこね、見ようともしなかった。琴乃の顔も…今は

なんとなく笑っているように見える。


「今日はありがとう、楽しかった」

「こっちこそ、また明日」


 こんな日々がずっと………。


「八神 琴乃さんですか」


 淡々とこちらにしゃべりかけてくる。

よく見れば奥に停まっているのはパトカー…。


「はい…」

「すみません、警察ですが少しお話を」

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