第3話 傍観者
翌朝の学校、ホームルームで杉山 真莉の死が知らされた。
しかしその内容は事故死、警察はこの件には事件性がない
と判断したらしい。
担任は黙とうをささげたあと、
「こんなことがおきたが、杉山さんも皆が悲しむこと
は望んでいないはず」
と話し、いつも通りの生活をするよう
呼びかけ教室を去っていった。
まるでついさっき考えたような定型文。
もしこのまま真実がうやむやになっていくのなら
もうこれでいい。俺は約束した、秘密にするよう…。
『バンッ』
ドアがたたきつけられたように開く。
「八神ってどこだ」
背丈の高い男が入ってきた。
布地がやや青い、一つ上の学年か……。
おそらく杉山の彼氏。
「小野寺先輩どうしたんですか」
「おまえに話してねー、どこだよ八神」
後輩を押しのけてあたりを見渡す。
クラスの視線が小野寺から八神にむいた。
「おまえか、真莉になにした」
「それは…」
「はっきり言えよ、登校中見たってやつが
いるんだよ」
「…………」
「口げんかして何言ったんだ」
「え…」
「とぼけんなよ真莉はなんか言われて
自殺したんだ!」
小野寺は何か勘違いをしている。つまり
事の真相は知っていない。
だが、見られていた…。
「おい!なにしてる授業始まるぞ」
かなりの騒ぎになっていたのだろう、教師が
割って入り騒ぎは一度収まった。
杉山の彼氏の件で八神へ少し疑いの
眼差しが向けられる。
もしかしたらいつもいじめられていたから、とか
こういう噂が広まる可能性だってある。
「はい、この間の続きから……」
授業の内容など全く入ってこない。
しかし、なぜ八神はいじめられていたのだろうか。
「あそこの神社の伝承についてだが……」
八神のいじめについては俺も知っておくべきだろう。
「夕方のとき過去に戻れるなんて話があるが……」
下校の時に聞いてみることにした。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「八神ちょっといいか」
「うん」
いっしょに帰ることなど中学生以降なかった。
俺は八神に聞きたいことがあったが、向こうも
なにか話したいことがあるらしい。
しかし、無言のまま家へと近づいていく。
「…ねえ石田君」
「はい…ん、なに」
全く話していなかったから距離感がわからない。
「画像のことだけど…知ってた?」
「あーそのこと」
噂には聞いたことがあったが本当に見たことはない、
しかもそれが八神だったなんて。
「いや、俺学校で友達がいないからそういう画像
は俺には回ってきていない」
「そっか、よかった…」
ん…、なんかものすごく悲しいことを言ったような。
「…なあちょっと聞いていい」
「うん」
「なんかこういうの聞くのもあれだけどいじめって
何が原因だったんだ」
「…自分でもよくわからない」
「そっか」
「でも、確実に始まったなってわかったのは…」
「高校に入学した頃はまだ数人の友達といて
何もなかったんだ、けど……」
苦しそうに続ける。
「2年生になった時から急にクラスの人たちが陰口を
言われるようになって、気にしないようにしてたんだけど
かなり長い間言われていたから 友達にきいたの、
そしたら…」
『人の男を狙ってる、関わったらとられるよ』
「誰がそんなこと言ってたのか聞いたらそれが
杉山さんだった」
本当に知らなかった。
「そんなこと言うのやめてって言いに行ったんだけど
それ以降から陰口だけじゃなく……」
「そうか…、もういいよ…わかった」
おそらく根も葉もない噂だろう。
「……先生とかにはいったのか」
「それとなく担任の先生には相談してみた、ただ周りには
言わないで、って言ったんだけど」
「次の日女子だけ集められて、誰とは言われてないけど
注意喚起されて、そこからまたエスカレート………」
あのくそ教師。
「やっぱり、隠したままでいい」
「…そうかな」
八神の顔を見てみると目の下のクマが
浮き出ている。
「俺は、これ以上八神が傷ついていい理由が
わからない」
「…………」
それとただの後悔、傍観者でいることしか
できなかった俺の……。
「ありがとう助けてくれて」
「急にそんな…、何もできなかったんだ」
「そんなことない」
気がつくともうすでに俺の家だった。
「悪い、俺の家までついてきてもらって
送っていくよ」
「いいよ」
来た道をたどりながら手を振っていく。
「ばいばい、ありがと優太」
「ばいばい…琴乃」
八神 琴乃は苦しそうに笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます