第30話 歪な関係

「あら、起きたのね」


 スイの声と共に彼女と目が合う。

 僕に微笑みかけるその表情は優しくて、まるであの日の前に戻ったようで。

 無意識に手を伸ばすと、スイも応えるように手を絡めてくる。


 次第にハッキリとしていく意識の中で、今の状況を確認する。


「もしかして、結構寝てた?」


 はっきり覚えていないけど、どうやら泣き疲れて寝てしまったようだ。


「どうかしら、私も時間は気にしていなかったから」


 そう言って彼女はスマホを取り出し確認すると共に僕にも時間を見せてくれた。


「うわっ、結構な時間じゃないか、僕は兎も角、スイは家の人が心配するでしょう」

 

「ええ、だから今メッセージ送っておいたわ」


 僕に時間を見せた後、すぐに何かを操作していたのはその事らしい。



 僕とスイは帰り支度をするため、少しだけ乱れた衣服を整え、リビングに戻る。


 部屋は明かりもついておらず真っ暗で、明かりを付けると凄い顔をしたランが、ソファの上で膝を抱えて座っていた。


 驚きと共に少し気まずい気持ちになる。

 あれだけの時間二人っきりで居て、何もしていないと言っても信じてはくれないだろう……まあ、言い訳するつもりもないけど。

 スイがランに対する意趣返しと言っていたように、僕にもそういう気持ちがあったのだろう。

 まだ気持ちの整理はつかないけど、さっきまでよりは冷静にランのことが見れていた。



「悲劇ぶった態度をとらないで、最初に言った通り、これはアナタがしたことと同じよ」


 しかし、スイはそうでも無いらしい。

 どう見てもボロボロなランに厳しい口調の言葉を掛ける。


「分かってる。ようやく分かったから、私がどれだけ酷いことをしたのか、だから、もう一度、心から謝らせて下さい」


 ランはそう言うとソファから床に座りなおす。

 そこから、それこそ額を床に着けるくらいに深く頭を下げると言った。


「ごめんなさい」と。


 その一言は先程までのモノより重みを感じた。

 

 それこそ、やっと自分のしたことが理解出来たように。


 だから僕も感情に任せたものではなく、本当に覚悟をして別れる言葉を告げた。


「無理しなくて良いから、そこまでしてよりを戻す意味なんて無いから。先輩の事も他言しないからさ、このまま穏便に別れよう」


 もちろん納得いかない感情もある。

 でも、いま目の前の憔悴し切ったランの顔は、さっきまでと本当に違っていて、このままでは潰れてしまいそうだから。

 互いにとってベストな提案をしたつもりだった。


「いや、嫌だよ、このまま別れたくない。約束通りチャンスを下さい。レイ君の側にいる為じゃなくて、レイ君を深く傷付けた罪を償わせて下さい」


 だからランが拒否してくるとは思わなかった。

 だってこんな苦しい想いを四ヶ月間も続けるなんて無理だと思ったから。


 僕がそんなランの言葉に困惑していると、隣のスイが冷ややかな目で挑発する。


「贖罪は禊を終えてからよ。これから四ヶ月間、本当に耐えられるのかしら、見物だわ」


 ランは顔を上げるとスイを見上げる。


「絶対に耐えて見せる。証明する。そして取り戻して見せるから」


 ランの覚悟を込めた言葉。


 嬉しい反面、どうしても思ってしまう。

 そこまで思ってくれていたのに、なんで浮気なんてしたのかと……。


 

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