第28話 慰め
「そっか、レイにとってはそうだったんだね」
思わず返す言葉。
レイにとってはプラスに働いた約束は私にとってはいつしか呪いになった。
一番近くまでは近づける。
でも触れることは叶わない。
イカロスの翼はより高く、誰よりも太陽に近づけるけど、近づきすれれば溶けて墜ちてしまうから。
一度墜ちる恐怖を知った私は、再び飛び立つ勇気を持てず、ただレイという太陽に焦がれるだけ。
絶対安全な距離で。
「私はさ、ズルいんだ。あの約束があるから一緒に居られたのに、いつからか約束が疎ましく思えてきて、だからと言って距離を詰める勇気はなくて、それでも、どこかでずっとレイは私の側に居てくれるって甘えてた……でも、そこにランが現れた」
「うん、あの時はスイが友達を紹介するって初めてだから驚いたよ、今までそんな事一度も無かったからさ」
それはそうだろう、私が信頼できないような人物をレイに近づけるわけ無いから。
「ええ、私もレイがあんなに早くランと打ち解けるとは思わなかったわよ」
「なんかさ、スイが信頼している相手だから良い子なんだろうなって勝手に思ってたよ」
そう、ランも結果的にはレイを裏切ったけど、あの時のランは、私にとっては間違いなく信頼できる親友だった。
「……そう。本当に私もランの事を信頼していた」
それこそレイを託しても良いって思えるくらいに。
「だから、今日の話は本当に信じられなかったわ」
そう信じられなかったけど、自分を貶める嘘を付く筈も無い。
「僕も、信じられなかった。信じたくなかった。昨日までは本当にお互いを想い合っていた筈なのにさ……」
悲しげに俯くレイ。
ここまで彼を傷付けたランにまた怒りが湧き上がる。
でも、そんな事より目の前のレイが放っておけなくて。悲しげな彼をそっと抱き締め、私の胸元に引き寄せる。
「レイには物足りないかもしれないけど、今はこれで満足して」
私が照れ隠しに呟く。
言葉通り、ランほど豊かな弾力性は無いけど、それでも以前よりはマシになったはず。
「……ありがとう、スイが居てくれて良かった……良かったよ」
レイは私の胸元に顔を埋めて隠す。
悲しみを堪えてるのが分かる。
だから、あやすようにそっと頭を撫でる。
「良いよ泣いて、せめて私の前くらいでは我慢しないでよ」
言ってて、自分もつられて泣きそうになる。
レイも、静かに感情を解き放つと泣いた。
きっと色々な想いを抱えて、声を上げる事無く涙を流して。
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