第23話 告白

 僕の頭の中は真っ白だった。


 大事な話があると呼び出せれて、聞かされた話。


 色々な事を考えてしまっていたけど、どれも見当違いなモノで、まさかこんな話を聞かされるなんて予想していなかった。


 だって、あんなに大好きで愛を囁きあった筈のラン。その彼女が浮気していたなんて、全く分からなかったし、疑いもしなかった。


 理由も聞かされたけど、余計に意味が分からなかった。


 僕とスイの関係に憧れて、なんで久井那先輩と浮気しないといけないのか……男女が愛し合う事が穢らわしいなら、僕は例えそれが穢らわしくともランと居ることを望むのに。


 でも、彼女はそこに久井那先輩を求めた。


 散々愛し合った僕ではなく、ラン曰く好きでも何でも無い、ただ都合が良かっただけの男の人を。


 だから、ランが色々と理由を付け、愛しているのは僕だけだと言ってくれるけど、結局満足できずに他の男にも手を出したとしか思えなかった。


 そう思ってしまうと、今まで、僕のことが好きと言ってくれた表情やらの何から何までが嘘臭く見えてきて。


 目の前で泣いて後悔する姿ですら、フリなのではと思ってしまうほど、ランに対する気持ちが反転した。


 当然、出てくる言葉は。


「別れよう」


 それしか無かった。

 自分から罪を告白してくれたのだから、反省しているのだとは思う。


 でも、もしその切っ掛けとなったあの男の脅しがなければどうなっていたのだろう。


 多分きっと、今も先輩との関係を続けていたに違いない。


 それにもし、脅しに屈する選択をしてしまっていたとしたら。つまり関係を隠蔽しようとしてあの男にも抱かれていたら……。


 好きでもない男と簡単に寝ることが出来るのだから、その可能性も十分にあっただろう。

 

 つまり、仮に先輩と縁を切ったとしても、同じように欲求不満になれば、今度は違う男を求める可能性も高いと思えた。


 こうやって涙を流して許しを請う姿だけを見れば確かに本命は僕なのだろう。


 でも、彼女は愛情とかそういったものを切り離して、性欲を満たす為の目的で、それこそ好きでもない相手と肉体関係を持つことが出来る。

 そして、その事にさほど嫌悪感を抱かない価値観を持っていることを証明した。


 もしかしたら、その切っ掛けは僕で、散々体を重ね合った事でセックスに対する抵抗感を薄れさせる要因になった可能性も否定的出来ない。

 だけど、僕は好きでもない相手とセックスしたいとは思わないし、好きな人が他人に抱かれて喜ぶ価値観も持っていない。


 彼女の事は本当に好きだった。

 この罪の告白を聞かされてもなお、気持ちは残っているほど大好きな人。

 それこそ初めてスイ以上に好きになれた相手だっけど……。


「お願い、もう二度と裏切らないし、絶対にレイ君以外とはしないから、お願いします許して下さい。別れないでやり直して下さい」


 綺麗な顔を涙と鼻水まみれにして、みっともなく懇願する姿に僕はハッキリと告げた。


「無理だと思う。ランの言う通り本当に僕の事が好きだったとしても、その気持ちを抱いたまま浮気できる君が理解できないよ。なにより、その事を微塵も感じさなかった事の方が怖いから、だってこれからも同じ事が起こったとしても、僕は気付けないんだからさ」


「絶対そんな事しない。誓う、誓うから、絶対にこれからはレイ君にし体を許さないって、心配ならGPSで位置を特定しても良いし……」


 更に何かを言いかけたランの声を遮るように怒声が響く。


「いい加減にして!」


 それは、あまりのランの醜態に耐えきれなくなった、僕ではなくスイの声だった。


 

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