第21話 幼馴染として
横を歩いたていたスイが、僕の浮かれた表情を注意した後で、何かを思い出したのか、少し悲しそうな雰囲気を見せる。
それはきっと長い付き合いの僕にしか分からないだろう変化。
ランと付き合う事を僕に勧めた時から見せるようになったその表情。
僕には前を向けと言っておきながら、自分はいつまでも過去に囚われてしまっている彼女にどうすれば前を向く切っ掛けを作れるだろうか。
僕にとってのランという大切な存在が出来たように、彼女にも大切な存在が出来れば変われるのかもしれないけど。
彼女の隣に僕とは違う男が並ぶことを心の何処かで拒否している。
ランの事は心から好きだと言えるけど、同じようにスイにも隣にいて欲しいと望む、本当に情けなく優柔不断な僕も確かに居る。
だからだと思う。
そんな卑しい心を隠すため、ランとスイと三人で居るときは露骨なまでに、ランを優先するようにしていたのは。
あからさまな優先順位を付けることで、ランの方が好きだと自分に言い聞かせ、悲しそうな表情を隠して笑うスイを見て見ぬふりしてきた。
そう僕はスイの体を傷付けたばかりか、今なお心まで傷付けている最低の男だ
本当に彼女の事を思うのなら距離を取るのが一番良い方法だと分かっていても、彼女が離れていかないことを良いことに、約束を言い訳に、未だに彼女の側に居続ける。
ランという大切な彼女が居ながら、スイに甘え続ける情けない男。
だから、もしこんなやましい気持ちをランが知ってしまったらどう思うだろう……さばさばした性格のランからすれば幻滅ものかもしれない。
現に最近のランのスイを見る目は以前と違ってきている。考えたくは無いけど、僕だけでなくスイも一緒に呼び出した理由は……僕も覚悟を決めないといけないのかもしれない、ランのためにスイと距離をおく事を。
◆
隣のレンが私の顔を見て考え込んでいる。
きっと、また色々とネガティブな方向で物事を考えているのだろう。
どうも、あの出来事からレンは物事を否定的に捉える傾向が強くなり、高校に入ってからも消極的で目立たないポジションに納まっていた。
だけど原因である私では変えようがなくて、けれどそんな中で光明が差した。
それがランだった。
高校で初めて友達になった、いまや親友ともいえる存在。
自分もレイが好きなくせに、先に私の告白の後押しを先にしてくるような優しい人。
だから、彼女ならレイを変えてくれると思えた。
実際、彼女の明るさと前向きさがレイを変えてくれた。
でも、一番近くで愛する人と大切な人がイチャつき合う姿を見るのは辛かった。
必死に表情を隠して誤魔化して来た。
本当に心が痛くて、何度、あの時をやり直したいと思った事だろう。
あの時、もし私が受け止めきれていたなら、今のランのポジションは私だったのにという酷い嫉妬。それをひた隠しにし、それでもレイが幸せな顔を見ることで耐える事が出来ていた。
そして、その笑顔を見れるならどんなに傷ついても心が痛くても、レイの側から離れようとは思わなかった。それこそいつまでも二番目で構わないと思うほどに。
そう、二番目で良いと思っていた筈なのに……。
そんな、つい、レイの事を考えて、思考が迷走している中で、いつの間にかレイが私を見ていた。
「スイ、また考えすぎてただろう」
レイにそう言われ、思わず「それは貴方もでしょう」と返す。
するとレイは「スイには敵わないな」と言って微笑んでくれた。
今ではすっかりランに独占されつつあるレイの笑顔。
今だけは私に向けてくれている。
その事が何よりも嬉しいと感じてしまっていた。
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