第18話 崩壊の序曲

 それはバレンタインデーが近づいてきたある日。


 レイ君がいつものようにスイと生徒会に向かった後の放課後。


 レイ君に渡すチョコをなににしようか悩んでいた時だった。


 あの男が私に声を掛けてきたのは。


 そいつは模部葛生。

 以前私に頭の悪い提案をして、レイ君にさんざん罵られた挙句に私達に近付かないように言われた男だ。


「なんの用? レイ君に言われたよね、私達に話しかけるなって」


 言葉にありったけの嫌悪感を込めて告げる。

 すると男は卑下た笑い顔を浮かべる。


「そんな事言っていいのかな。これ見せたら、その大好きなレイ君はどう思うんだろうね」


 男はそう言ってスマホを私に見せてきた。


「なっ、なんであんたがそんな写真を」


 動転した私は思わず声を上げる。


「出所なんて、どこでも良いだろう。大事なのはここに写ってる人物だろう。あれー、おかしいなー、ランちゃんって確か、今もレイ君って奴と付き合って居るハズだよね。でも、あれー、おかしいよね、このホテルに一緒に入ろうとしている人ってさ、ランちゃんの恋人じゃないよね……くっくく」


 男はわざとらしくお道化たように話す。


「…………なにが目的なの?」


 目的なんて分かりきっているはずなのに、完全に動転していた私はバカな質問を男にしてしまう。


「そんなの決まってるじゃん、俺もさ楽しませてよ。この相手としたみたいにさ」


 返ってきた答えは想像通りで。


「そんなの嫌に決まってるじゃない」


「へー、じゃあこの写真彼氏に見せちゃうけど、良いんだ」

 

 勝ち誇った顔で私に近付いてく男。


 もちろん私としてこの写真をレイ君に見られるわけにはいかない。


 でも、こんな男に抱かれると思うと気持ち悪くて吐きそうになる。


「嫌、近付かないで」


 言葉で否定しつつ、同時に疑問も浮かぶ。

 どうして先輩は良くて、この男はダメなのかと。

 どちらにも恋愛感情なんて微塵も無い。

 だったらこの男に抱かれるのも先輩に抱かれるのも変わらないはずだと。


 だから思ってしまった。

 この男を先輩の代わりにすれば良いだけで。そうすればレイ君に知れれずに、ずっとレイ君と居られるんじゃないかと。


 なら答えは決まっているようなものだ。


 そうレイ君の側に居るための答えなんて決まっているハズなのに……。


 愚かな私は、同レベルのバカを前にしてようやく気付かされた。

 自分がどれだけどうしようもない程バカな事をしていたのかと。




 

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