第28話 詰まった男

まだ呆然としている江崎をリビングへ連れて行く。

あゆむさんもリビングへ戻った。


「俺は自分の部屋に居るから。話終わったらお前は俺の部屋で泊まって行け」

桃はリビングに居たが俺が江崎にそう言うと、ポットと二人分のお茶のセットをソファーの前のテーブルに置いて何も言わずに出て行った。

「何で……お姉ちゃんがここに居てんの?」

まだ状況が把握出来ていない江崎は縋るような目で俺を見る。

「あゆむさんに聞いて」

そう言い残して俺はリビングを出た。


部屋に戻ろうと階段を上がると、桃が自分の部屋の前で手招きをして俺を呼んだ。

巻き込んでしまったからにはある程度の説明が必要だとは思っていたので、そのまま桃の部屋に入った。


「で?」

桃がベットに腰掛けて俺を見た。あゆむさんと江崎とまあくんのことを話した。内村さんの事はややこしくなるので伏せておいた。

「それにしても、信ちゃんがそんな必死になるってやっぱりめずらしいやん」

桃はベットに寝転がると俺の方を向いた。

「どうしても逢わせたかってん」

桃は何も言わず俺をじっと見る。

「逢ってからどうすんのかは江崎が決める事やけど、取り敢えず二人で話した方が良いやん」

桃は起き上がってベッドに胡座をかいて座った。

「前に江崎君の絵を見て告白した子が居ったって言うてたよなー」

うっと言葉に詰まった。そんな俺を見て桃は更に続ける。

「その子は知ってんの?あゆむさんの存在とか」

「…‥その子は江崎とあゆむさんを逢わせようと静岡行ったり何やかんや奮闘してた…」

「だから信ちゃんもこんなに必死になったんや」

確かに、内村さんが居なかったら俺は今も江崎の事を何も知らないままだっただろう。

誰かのために夜中に自転車を飛ばしたり、相手の気持ちを確かめず勝手に行動したり、そんな事は今までした事がなかった。いや、しようと思った事もなかった。

桃はじーっと俺を見ていたが、

「一瞬しょーもない小細工して、江崎君とあゆむさんを無理矢理引っ付けようとしてんのかと疑ってもうた。ごめんなー」

と謝った。何のことかイマイチわからなかった。

「そこまでつまらん男ちゃうか。いや、なかなか詰まって来たやん、気張りやー 信ちゃん」

桃はいつものあざとさが皆無の笑顔で言った。

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