第27話 メリークリスマス

タクシーが家に着くとあゆむさんと桃が降りるのを待たずに車を降り、玄関を開けて電話へと走った。

内村さんはワンコールで電話に出ると、

「わかった」

とだけ言って電話を切った。


玄関で靴を脱ぐ桃とあゆむさんを押し退ける様に、

「俺、ちょっと行ってくるから」

玄関を飛び出して自転車に跨ると内村さんの家に急いだ。風が冷たい。でもとにかく自転車を漕いだ。


内村さんの家の前で江崎が立っていた。江崎は俺を見つけると手を振った。

「行くぞ!」

説明しないまま江崎を急かす。

「え?なに…どこ行くの?」

そこへ内村さんが江崎の自転車を押しながら出て来た。

「良いから、石田君について行って」

内村さんに自転車を渡され、腑に落ちない様子で言われるがままに江崎は自転車に乗った。

「じゃあ、メリークリスマス」

内村さんが笑顔で言った。内村さんを真っ直ぐ見て、

「メリークリスマス」

と俺も返した。

そして、なに、どうしたん?と困惑している江崎に

「良いから来い!」

と怒鳴り自転車を走らせた。


自宅に着いた。振り返って江崎を見る。

「水川あゆむが俺の家に居てる」

江崎は俺の言葉を理解するまで少し時間が掛かった。

「何言うてんの?なんで?どう言うこと…」

「説明は後で早く中入って」

自分の自転車を止めた後、江崎を無理矢理自転車から下ろし背中を押す。

「ちょっと待って…全然わからん…なんで…」

そのまま江崎を引っ張って玄関の中へ押し込んだ。

リビングからあゆむさんが出て来る。

江崎は信じられないと言う顔であゆむさんを見た。

あゆむさんと江崎は見つめ合ったまま、しばらく微動だにしなかった。

「とにかく中入ろう」

俺は江崎の背中をもう一度押した。

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