第26話 三つの点
自宅へ向かうタクシーの中で桃は、
「江崎君のお知り合いなんですかー」
と隣のあゆむさんに話しかけた。助手席に座っていた俺は思わず後ろへ身体を向けた。シートベルトが食い込む。
「要らんこと言わんでエエねん!」
つい声を荒げてしまう。
「……ごめん」
桃は泣きそうな顔で俺を上目遣いで見上げた。ワザとらしさ満載だ。身内には通用しないがあゆむさんは慌てて、
「江崎君のこと知ってるんですか?」
と執り成す様に桃と俺を交互に見ながら言った。
「信ちゃん、あ、コレ弟の信です。信ちゃんの親友なんですよー」
桃はさっきの演技がなかったかの様にしれっとあゆむさんに笑いかける。
「そうなんですか」
少し驚いた様にあゆむさんが俺を見た。
「今日江崎のこと家に呼んでも良いですか」単刀直入過ぎる言葉が勝手にこぼれ出た。
「こんな遅くに…大丈夫…?」
あゆむさんは心配そうに呟く。
「俺、迎えに行く事になってるんで」
嘘ではない。江崎はまだ知らないが……
「私と会いたいのかな…まあ…江崎君……」
まあくんと言いかけてやめたあゆむさんはバックの飾りを手で触りながら視線を下に向けた。
「…逢いたくて、絵を描いてたって言うてました」
俺の言葉にあゆむさんは一瞬視線を俺に向けた。そのまま、また視線を下に向け飾りを握りしめる。
「例えば……三つの点があって線で結ぶと三角形になる。でも一つ点がなくなると形にはならないですよね、線にしかならない。それは…すごい喪失感なんじゃないかなって…」
まあくん…誠くんと江崎とあゆむさん。
三人の形が前と変わってしまった事を実感するのが怖いのはあゆむさんも江崎と同じなのだと思った。逢う時はいつも三人だった。
「でも…今は線にしかならなくても、三角形だったこと知ってるのは残ってる二つの点だけですよね?」
なくなってしまった点は見えなくても、今もその繋がった線の中にある。そのことを知っているのは三角形だった残りの二つの点だけだ。
「見えなくても居てると思います、なくなったんじゃなくて。その繋がった線の中にもう一つの点も」
話しながら内村さんの様だと思った。
何を言っているのかあゆむさんに伝わっているだろうか?おかしな奴だと思われているだろうが、思うことをそのまま話すとこんな風になってしまう。
誰かに伝えるためではなく、自分の思いがそのまま口からこぼれていた。
「そうですね、逢えるのは……三人で逢えるのは江崎君といる時だけかも知れません」
あゆむさんはそう言うと俺を見て静かに微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます