第23話 宿泊先
家に帰ると桃がリビングで電話をしていた。
「良いよー お母さん達もそっちで泊まるから居てないし、全然使ってくれて良いからー」
「ただいま」
桃が表情だけでおかえりを言う。
「二次会終わったら信ちゃんとその人も一緒にタクシーで帰るわー そうやなー 残念やけど、いや信ちゃんと二人っきりにする訳にいかんし誰か居らんと……うん、私も一緒に帰るわ……全然!大丈夫良いよそんなん……気にせんといてー うんうん はーい ほなねー」
桃は電話を切るとうーんと背伸びをしてからこっちを見た。
「遅かったなー ご飯食べたん?」
「マドレーヌだけ」
桃の片眉が上がった。
「女の子と会ってたんやー」
「別に…それよりさっきの電話 何?俺の名前出てたけど…」
話を逸らそうと聞いた。
「あー スーちゃんから。何かスーちゃんの後輩が24日泊まるとこないからウチに泊めてあげてって」
スーちゃんは今度結婚する従姉妹だ。季(すもも)でスーちゃん
「結婚式に来る人?」
「二次会、クリスマスやからどこもホテル空いてないみたい。家遠いから泊まりがけじゃないと来られへんねんて」
「どっから来るん?」
「静岡やってー」
その言葉に心臓がキュとなった。
「誰なん?」
「スーちゃんの高校の時の後輩、引っ越しして今は家族で静岡に住んでるんやって」
「名前は?!」
「……何?どーしたん?必死なって……あゆむ?ってスーちゃん言うてたかなー 水…なんとか……」
「まさか?!……水川あゆむ!?」御守り効果抜群や!
桃が上目遣いに俺を見上げ不審そうに聞いた。
「どーゆーこと?何でその人知ってんの?」
どこから説明して良いのかどこまで説明して良いのかわからなかった。
黙り込む俺を見つめていた桃は、ふーと鼻から息を吐いた。
「まあ 別に詮索するつもりはないけど……なんかあるんやったら言うといた方が後々有利に働くかも知れんで、私が協力できる事もあるし。話の内容次第やけどな」
桃はそう言うとキッチンに入って冷蔵庫からビールと缶ジュースを持って帰ってきた。
俺にジュースを渡すとダイニングテーブルの椅子に座ってこっちを見る。
「水…川…あゆむ?その人と信ちゃんはどうゆう関係なん?」
俺は天を仰いだ。どうする?どこまで話せば良い?
「水川あゆむさんは二次会の後ウチに泊まるってことやんな?」
取り敢えず質問で逃げた。
「うん 助かったわ」
「…‥どういうこと?」
「私、次の日クリスマスパーティーあるもん。二次会の後まで飲みに付き合わされたらエライことやったわー」
「何が?」
「顔ムクむし隈とか出来たら最悪やん。二日酔いとかも有り得へん、上手い事エンドレス三次会断れて良かったー」
スーちゃんは末っ子でスーちゃんが嫁いだらスーちゃんの家には叔父さんと叔母さんだけになってしまう。寂しいだろうからとウチの親が結婚式の後スーちゃんの家に泊まりに行くことになっていた。
桜 梅 桃は二次会の後も三次会に行くだろうが、高校生の俺はいくら何でも遊ぶには時間が遅過ぎるし、飲むだけの三次会には呼べないと独りで家に帰る予定だった。
桃は次の日のパーティーに備えて早めに帰りたかったところに上手い口実が出来たという訳だ。
「俺じゃなくて友達の知り合いやねん」
桃は黙ったまま俺を見る。
「事情があって長いこと会えてなかったからこの機会に会えたら良いなって思って……」
「ふーん」桃はビールを飲んだ。
「珍しいな、信ちゃんがそんなに他人の事に首突っ込むのん」
言われて何だか落ち込んだ。確かに今まで他人に関心がなかった。自分が口出しする事じゃないと思っていたが本当は面倒だっただけかも知れない。一番の親友である江崎のことすらも。
「友達って誰?江崎君?」
名指しだったので誤魔化しきれず、
「うん……」
とうなづいた。
「江崎君の知り合いか…なるほどなー 信ちゃん大丈夫?」
「なにが?」
「その作戦で勝てんの?江崎君に」
言葉の意味がわからなかった。江崎が逢うのを拒んだらと言うことか?
「とにかく逢わせる、無理矢理にでも」
「必死やなー まあ頑張って」
桃は思わせぶりな笑みを見せた。
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