第21話 ただそばに居た
俺も江崎をあゆむさんに逢わせたかった。逃げていると江崎は自分で言った。誠くんの死から逃げていると表現するのは、本当はその事と向き合うべきだと思っている証拠だ。向き合ってどうなるのか、向き合ってからどうするのかは江崎が自分で決める事だから俺はただそばで見ている事しか出来ない。何も言えない。
「何にも出来ひん。ずっと一緒に居たのに」
子どもの頃から一緒に居たのに何も知らなかった。知ろうとしなかったのかも知れない。
江崎のことも江崎の気持ちもどんな思いで絵を描いていたのかも。
「ずっと一緒に居たやん」
内村さんは真っ直ぐ俺を見た。
「石田君がずっと一緒に居たから江崎君は独りぼっちで絵を描くだけじゃなくて、笑ったり遊んだり出来た。石田君がいつも一緒に居たからやろ?だから全然良いと思う」
「ホンマにそれだけやで」
「それだけで何でアカンの?女の子の友達はずっと一緒に居られへんねやろ?石田君は男やからそばに居れるやんこれからも」
内村さんはうらやましそうに言った。
「恋人になってずっと一緒に居らんで良いの?」
内村さんは江崎が好きなんやろ?ホンマはずっと一緒に居たいんやろ?
「友達で一緒にいるより恋人として一緒に居たいんやったら……なれば良いやん!恋人同士に!」
内村さんがキッパリした口調でそう言った。ん?
「誰と誰が?」「石田君と江崎君が!」
話が噛み合っていない気がした。
「なりたいって思わんでも自然になると思うで好きなもん同士やったら、きっと!」
励ますようにそう言って、お菓子も食べと内村さんはマドレーヌを差し出した。
誤解だと説明するべきだったが、なんだかその気力が出なかった。やっぱり内村さんはどこかズレてる。めちゃくちゃ美味しい手作りマドレーヌを頬張りながら改めて思った。
その後は江崎にどう話すべきかを話し合った。あゆむさんは12月の24日、クリスマスイブに友達の結婚式の二次会でこちらに来るらしい。その日は夜が遅くなるのでこちらに泊まる予定なのだそうだ。25日クリスマスに江崎と会って欲しいと内村さんは勝手に約束していた。
「江崎になんて言うの?」
「それやねん、どうしようかと思ってんけどとりあえずクリスマスパーティーしようと思って」
「25日に?」
「24日。25日は二人で逢った方が良いやろ?」
確かにあゆむさんと逢うなら江崎とあゆむさん二人きりの方が良いと思った。
「クリスマスイブにパーティー?」
「うん、ここで」
「内村さんちでパーティーしてどうすんの?」
「その時に話そうと思って、石田君も来てな」
「……ごめん。クリスマスイブ、アカンねん」
「デート?!」
「ちがう! もし仮にデートでも、それやったら江崎の方が今は最優先やし」
言ってからまた誤解されそうな気がした。
「従姉妹の結婚式やねん、その後の二次会にも呼ばれてて」
アレ?どこかで聞いた話だ。まあクリスマスイブに結婚する人は多いだろうが…
「因みにあゆむさんが行く二次会ってどこ?」
内村さんはどこからか手帳を取り出して開くと店名らしき横文字を読み上げた。
「それ、俺の従姉妹の二次会とおんなじ店や」
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