第16話 浜松で鰻

次の日、内村さんは学校に来なかった。

内村さんといつも一緒に居る女の子に聞くと、

「鰻食べたいから浜松行ってくるって、昨日電話がかかって来た。先生には病気とか何とか適当に言うといてって」

との事だった。

鰻食べに行って来る……

確かに水川あゆむの通う美大は浜松にあった。内村さんなら学校を休んで鰻を食べに行くのは実際にやりそうな事でもある。嘘はついていない、きっと本当に鰻も食べてくるだろう。

ホンマに行ったんやな……

内村さんは有言実行の典型のような人だ、行くに決まってる。こんなにすぐとは思わなかったが。

[そうなったらめっちゃ良いやん そうなって欲しいから行くねん]内村さんの言葉を思い出す。

本音だろうか……ヨロズの代わりに、と言うかヨロズだと思って近づいたのだとしてもこれからも一緒に居たいと言っていた。江崎に恋をしているのでは無いのか?恋人になれなくても一緒に居たいというのはどういう感情なのだろう?

疑問符ばかりが頭の中を駆け巡る。そもそもなぜ内村さんの事がそんなに気になっているのかも良くわからない。

未だにぼーっとしている江崎にも腹が立つ。逢いたいと言ってるくせに、子供の頃からずっと逢いたい気持ちを絵に描いてるくせに、なぜこの機会に動かない。何があった?なぜ勇気が出ない?会えない理由は?

そっとして置くのが江崎にとって一番良いと思っていた。今もそう思う。でも自分の疑問で頭がいっぱいで段々イライラしてくる。

江崎のためじゃない、俺のために知りたい。江崎はどう思っているのか、水川あゆむのこと、内村さんのこと。内村さんの様にアタシはアタシのためにやると言ってみたい。


「江崎」

江崎がこっちを向く。教えてくれ、俺のために。

「水川あゆむって誰なん?」

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