第14話 おさかな天国
「江崎君は魚好き?」
内村さんが江崎に聞いている。
「え? まぁ あんまり好き嫌いないから」
「どういう魚が好み?」
「えー 白身の方が好きかなアッサリしてるから でも赤身も好きやで マグロとか鰹とか」
「良かった〜じゃあ今度の日曜日水族館行けへん」
「あ、魚って見る方のこと?」
江崎が恥ずかしそうに赤くなる。
いや今の話の流れなら誰でも食べる方の魚と思う。恥ずかしがることはない江崎、おかしいのはいつも内村さんなのだから。
「石田君も一緒に行こう」
内村さんがこっちを見て言った。
「いや 俺は別に…‥魚とか興味ないし」
「そっか 魚嫌いなんか…」
別に好きも嫌いもない。興味がないだけで…がっかり姿の内村さんに思わず、
「マンボウとかは良いよな。魚って言うかイルカとかアシカとかも面白いなって思うけど……」
と余計なことを言ってしまう。
「ホンマ!じゃあ行こうよ アシカじゃないけどアザラシなら出してる焼き鳥屋さん知ってる!」
途端に生き生きとらうれしそうな内村さん。一体何を言っているのだろう。
「水族館の後、回転寿司行って一日おさかな天国にしようと思っててん。マンボウならお寿司屋さんにあるかも知れんで。ほんでアザラシでも良かったらお寿司の後食べに行こう」
魚を見た後魚を食べるのか。天国って、魚にとっては地獄な気もする。
「アザラシの肉のことは忘れて」
取り敢えず言っておいた。
結局内村さんが決めたことは大体その通りになる。
日曜日は三人で水族館にいた。館に入るなり大きな水槽が目の前に広がる。思わず吸い寄せられるように三人で揃って水槽の前に立った。スナメリが二頭絡まる様に泳いでいる。
「わー!交尾してるとこ初めて見たっ!」
内村さんが目を輝かせる。江崎は近くに居た女の子とお母さんの二人連れに赤い顔でちょっと頭を下げた。俺は他人のふりをしてちょっと離れた。
水族館を出ると回転寿司だった。ショッピングモールのテナントに入っている大手チェーンの寿司屋に入る。内村さんがマンボウありませんか?と聞いて店員さんは申し訳ありませんと頭を下げた。申し訳なくて俺も店員さんに頭を下げた。
寿司屋を出てエレベーターに乗っていると内村さんが、あ!と声を出した。
「何かアートギャラリーみたいなとこで展示会してるみたい、観に行きたい!」
エレベーターの中に貼ってある宣伝ポスターを見ながらそう言うと、もうその階のボタンを押していた。江崎に否は無かっただろうが、俺はさほどアートに興味は無い。思いついたら即行動のいつもの内村さんらしさに呆れながら付き合った。
ギャラリーに着くと、それぞれ分かれて自分の観たいものを見てまわった。こういうものに関心が薄い俺はあっという間に見終わって二人の姿を探した。
江崎と内村さんは並んで絵を見ていた。
正確にはじっと絵を見つめる江崎を内村さんがじっと見つめていた。江崎はいつまでもその場を動かない、内村さんも。痺れを切らして二人に近づいた。江崎は瞬きもせずに絵を見ている。
二人の男の子に本を読んでいる少女の絵だった。
寄り添う様にベッドに座って微笑んでいる小さい男の子たち。髪の長い小学生ぐらいの女の子がベッドの前の椅子に腰掛け、本を読むため俯いたまま男の子たちの方に首を傾けている。セピア色の淡い色調だが、病院の白いベッドの様に見えた。女の子の後ろのカーテンが風に靡いている。優しくて柔らかいでもどこか切なくて哀しい。江崎の絵にちょっと似ていた。出品者の名前を確認する。
『水川 あゆむ』どこかの美大の学生の様だ。
江崎の逢いたい人、彼女も絵を描いていると言っていた。内村さんも俺と同じ事を考えているのではないかと思った。
内村さんは絵から視線を外せない江崎をじっと、ただじっと眺めていた。
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