第6話 知って欲しくて
委員が決定した後は文化祭の出し物を決めることになった。内村さんは演劇を推しに推した。クラスの大半がどちらでも良いと思っていたので、そんなにやりたいのなら…と言う感じで演劇に決まった。
そこまでは良かったが、八百屋お七は無理があった。そもそも誰ソレ?だし、出番がお七独りに偏りすぎているし、舞台装置も大掛かりで面倒臭そうだし、と賛同が得られなかった。
内村さんはがんばって自己主張を続けていたが結局多数決で負けた。感情がわかりやすい内村さんのことだからさぞやしょんぼりするか、かなり怒り出すかのどちらかだろうと思っていたが、
「八百屋お七は諦めた。その代わり組旗はアタシに任せて!」
とクラスのみんなに申し出た。
うちの高校では、体育祭用に自分のクラスを応援するための大きな旗をクラス毎に作ることになっていた。それを自分が作りたいと言うのだ。
誰も進んで作りたいとは思っていなかったので、皆んなどうぞどうぞと喜んで内村さんに任せた。
「ありがとー」
内村さんはうれしそうだった。
「残念やったな、お七出来んで」
帰り際内村さんに話しかけると、
「お七は組旗で作るわ 諦めへんで」
と真っ直ぐ見つめる例の視線で言った。
「何でそんなに お七にこだわんの?」
「お七みたいな人もおるって知って欲しくて」
「誰に?」「江崎君に」
どう言うことかやっぱりわからない。江崎にお七を紹介したくて仕方がないらしい。
「良い事思いついてん。お芝居よりこっちの方が効果的かも知れん。災い転じて福となす、いや棚からぼたもちかな?」
かな?と聞かれても何を言っているのかわからないから返しようもない。
そしてバイバーイと手を振って帰って行った。釈然としないまま俺も手を振った。
家に帰ってから八百屋お七を調べてみた。八百屋お七は歌舞伎や浄瑠璃で有名なヒロインで江戸時代初期の実在した人物だ。恋人に逢いたい一心で自分の家に火をつけて火あぶりの刑になった16歳の少女。
お七みたいな人もいると江崎に知って欲しくて……
お七の何をそんなに知って欲しいのだろう?短絡的な思考?恋に恋する女の子の気持ち?内村さんと何の関係があるんだろう。それを知ったら江崎は内村さんを好きになるとでも?!
考えれば考えるほどわからなくなって、俺は考えるのをやめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます